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シーライオン

 最近Twitter(の一部)でよく見かけるのが「シーライオニング」という言葉である。

 Wikipedia先生によると「シーライオニング(Sealioning)とは、荒らしや嫌がらせの一類型であり、礼儀正しく誠実なふりを続けながら、相手に証拠をしつこく要求したり質問を繰り返したりすることを指す。これは「議論への参加を執拗に、真意を偽りつつ求める」形をとることがある。」とのことである。日本のTwitter界で人口に膾炙するようになったのはごく最近のことであるが、起源は2014年にさかのぼるらしい。

 詳しいところはこちらに書かれているのでもっと知りたい方はどうぞ。大元の出典は6コマの漫画で、女性が「アシカはいなくてもいい」というと、アシカが現れて、執拗に根拠を尋ね議論を求めてくるというものだ。これがどうして今話題になっているかというと、フェミニストを中心として、相手からの反論や意見、質問をシャットダウンする必殺技のように使われ始めたからである。これまでも「トーンポリシング」や「マンスプレイニング」のような概念があり、それに今回「シーライオニング」が仲間入りしたというわけだ。

 それらの概念の是非についてここで深入りはしないが、「シーライオニング!」と唱える人とは議論はできないなあとは思った。確かに執拗に根拠を求めたり、重箱の隅をつつくような質問を繰り返したり、あわよくば揚げ足をとったり疲弊させて黙らせようとしたりと言った相手のことを指すのであれば適切な概念になるとは思う。

 しかし、例えば何かを規制しようだとか制度や慣習を変えようだとか、そういう問題についての主張に対し、それについての定義や根拠などを求めるような問いに対してまでシーライオニングのレッテルで口を封じに来られてしまうと、ますます議論は成り立たなくなる。自らの正しさを自明だと信じて疑わない人が振り回すと厄介な概念になりそうである。

 さて、私はシーライオニングという言葉とその大まかな意味を初めて知った時、まだその原典は知らなかったので、「どうしてシーライオン=アシカなんだろう?」と思った。アシカの声がうるさいからかなあとか、オスアシカがメスアシカにしつこく絡む様から由来しているのかなあとか、想像した。実際は、原典に出てくるのがアシカというだけで、別の生物に入れ替えても話は成り立つのではという感じだった(欧米でのアシカのイメージが背景にあるのかもしれないが)。

 つまり、「シーライオニング」という言葉だけでは何のことかわからないのである。あの原典を知らない限りどうしてアシカなのか想像できない。できれば言葉から何となく由来がわかるほうがいいのではとも思ったが、杜撰や推敲、杞憂などもそのたぐいの言葉だろうし、別に普及すれば困りはしないのだろう。ただ、登場させられた勝手にアシカがかわいそうな気もする。

シー○○

 ところでアシカのことを英語で「シーライオン」ということも今回の件で多少普及したのではなかろうか。実はアシカやアザラシは、イヌやネコと同じ食肉目(最近はネコ目と言うらしい)であり、本家のライオンともそれなりに近い関係にある。ライオンというとなかなか強そうだが、アシカは実は結構な大きさがあり、動物園によくいるカリフォルニアアシカでもオスは2.4mの体重最大350kg、メスはそれより小さいが1.8m、体重最大100㎏に達する。アシカ科最大種のトドではオスは最大で3.3m、体重は1トンを超えるという。本家のライオンは大きいオスで体長2.5m、体重300kgほどであるから、サイズでは本家にも負けていないし、なんなら体積的には勝っている。水生生物は体重を増やしやすいのである。

 ついでなので、他のシー○○についてもご紹介。

 シーライオンがいる一方で「シーレオパード」すなわち「海の豹」とも呼ばれるのはヒョウアザラシ(Leopard seal)である。南極近海に生息し、オキアミや魚類のほか、ペンギンや他のアザラシなども襲って食べる。写真を見ると、明らかに我々がイメージする丸っこいアザラシより獰猛そうな顔をしている。ちなみに、ヒョウの名の由来は、食性とは関係なく、体表の模様だそうだ。

「シーモンキー」は全くサルとは関係なく、それどころか哺乳類でもない。正体は小さな甲殻動物アルテミアの一種であり、しかも商標名である。アルテミアの卵は乾燥に強く、水で戻すとすぐに孵化するため、鑑賞用や教材用、あるいは他の生物の餌として利用されている。「シー」とつくものの、アルテミアが生息するのは塩水湖である。

 タツノオトシゴの仲間は英語では「シーホース」である。確かに馬面である。和名でも「ウミウマ」とつくタツノオトシゴ属の魚もいる。タツノオトシゴが含まれるヨウジウオ目には「シードラゴン」と呼ばれる魚たちもいる。海草のようなリーフィーシードラゴンはそれなりに知名度があるのではと思う。

 あとは、「シーキューカンバー」=ナマコ、「シーアネモネ」=イソギンチャクなどがある。キューカンバーはきゅうりであり、ナマコはもっと太いイメージがあったが、cucamberで画像検索すると日本のキュウリよりごつい気がして、なんとなく納得した。ウニは「シーヘッジホッグ」「シーアーチン」「シーチェスナッツ」と検索では出てきた。ヘッジホッグとアーチンはハリネズミ、チェスナッツは栗である。確かにとげとげしい。

 英語、海の生き物はなんでもなんとかフィッシュかシーなんとかにしてしまうようなイメージがあるが、今回ちょっと調べてみて、案外そうでもないなと思った。

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