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日記

 アメリカ大統領がようやく決まったようだ。投票終了と同時に大方の趨勢が出るような日本の選挙を見慣れている身からすると(もっともこの前の大阪市廃止の住民投票はかなりの僅差だったが)、こんなに結果が出ないことあるんだと思った。バイデン氏有利とは言われていたものの蓋を開けてみればかなりの接戦で、一時はトランプ有利かという見方もあったほどだ。

 バイデン氏は「分断ではなく団結させる大統領になる」と語ったようだが、今回の選挙、確かに分断というワードをよくニュースでも耳にした気がする。今回の大統領選は投票率が7割に迫るほど高かったらしいが、その票がほぼ真っ二つに割れているのだから、今回負けた残りの半分を含めてどう国をまとめていくのかが課題となるのだろう。

 一方日本では「一強他弱」「政治への無関心」とアメリカとは対照的であるが、アメリカはアメリカで「分断」と言われるし暴動は起こるし、どちらもどちらかもなあとも思ったりした。


 一方西方では、第二次ナゴルノ・カラバフ戦争――と後に呼ばれるであろう軍事衝突――が重要な局面を迎えている。アゼルバイジャン側の報道が要衝シュシャの奪取を伝えたのだ。少し前まではハドルートなど南部で攻防を繰り広げていたことを考えると、戦況はアゼルバイジャンの思うように進んでいるようだ。

 シュシャは周囲を崖に囲まれた天然の要害であり(紛争地帯でなければ刊観光名所になっていそうである)、ナゴルノ・カラバフを事実上支配していた「アルツァフ共和国」の首都ステパナケルトをすぐ北東に見下ろす位置にある。南から進軍してきたアゼルバイジャン軍もシュシャを落とすのは大変だろうと思っていたが、もう落ちたのかとびっくりした。

 シュシャの市街戦の様子や、シュシャやステパナケルトから避難する車列が渋滞で進まない様子とされる映像がTwitterに流れてきており、シュシャが実際に陥落したかはともかく、戦況がアルメニア・アルツァフ側にかなり不利であるのは確かなようだ。すでにラチン回廊というステパナケルトとアルメニアを結ぶメインルートはアゼルバイジャン軍により寸断されているため、避難する人たちはこちらも安全とは言えないカラバフ北部の山岳地帯を通ってアルメニアに逃れることになる。

 国際社会は停戦を呼び掛けてはいるものの、アゼルバイジャン軍がステパナケルト目前に迫った現在まで停戦を実行させることはほぼできなかった。ここに至ってはもうアゼルバイジャンは停戦に応じないだろう。ソ連崩壊から約30年続いたアルメニア人によるカラバフ実効支配の崩壊は時間の問題に思える。

 そもそもナゴルノ・カラバフというのは特異なところで、今回の戦争は「元々アゼルバイジャン領でアルメニア人が実効支配していた地域をアゼルバイジャンが奪還しにかかった」という形である。特異というのはアルメニアがアゼルバイジャンよりも小さい国であるにもかかわらず、長年アゼルバイジャンの一部だった地域を実効支配し続けていたからである。アルメニアの人口はアルツァフ共和国を合わせても約300万人なのに対しアゼルバイジャンの人口は1000万人弱、GDPもアゼルバイジャンが約5倍の規模である。他にも事実上独立状態の国家はあるが、そのバックには大国がついている。アルメニアにもロシア軍は駐留しているが、今回の事態に際しロシア軍は大々的にナゴルノ・カラバフ防衛に動いたりはしていない。

 2020年にもなって国際社会が放置とまでは言わないけど実効的な介入を何らできないまま、主権国家同士の戦争が行われるとは思わなかった。第一次ナゴルノ・カラバフ戦争の時もまたその後のアルメニア実効支配の時も特に何もしなかったから、今回も原則介入はしませんというのなら筋は通っているかもしれないが。

 今回の戦争を取り巻く状況で、同様の領土問題を抱える地域は特に、自分のところは自分で守るしかないんだ、あるいは力によって取り返すのが手っ取り早いんだという方向に考えが向いてもおかしくないのではと思った。これからカラバフに厳しい冬が来る。補給もままならないまま取り残された人々、あるいは危険を冒しても避難しようとする人々の安全が脅かされないことを願う。


11/10追記

  ナゴルノ・カラバフにおけるアルメニア実効支配の崩壊は時間の問題だろうと書いた2日後、ロシアの仲介で停戦が成立したようだ。詳しい内容はググっていただくとして、アルメニアの実質的な敗北とはいえ、それでもアルメニアが完全にナゴルノ・カラバフから追い出されるわけではないという。優勢だったアゼルバイジャンも、戦線の維持は難しかったのだろうか。

 ひとまず、民間人に多大な被害が出る前に停戦に至ったことはよかった。

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