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その③ 幸せになることで復讐する『世界で一番幸せな男 101歳、アウシュビッツ生存者が語る美しい人生の見つけ方』を読んで

エディがしているヒトラーへの復讐は幸せになること。

エディの結婚記念日はヒトラーの誕生日だそうだ。わざとその日を選んだのかは書いてなかったけれど、妻のフロアーとその日を祝うとあった。

ヒトラーは土の中、自分たちは生きて幸せな時間を過ごすことができる。これが最高の復讐になるとエディは思い、実行に移して生きている。

過酷な状況を生き延びたエディ。それまでの勇気や精神力の強さ。解放されたとき体重が28キロで、コレラと腸チフスにかかり、生き残る確率は35%と言われたのにもかかわらず生き延びた生命力。

もし生き延びられたら、まったく新しい人間になり、ナチスが世界に与えた傷を癒すために残りの人生を捧げ、精一杯生きようと誓ったエディの言葉を読んで、きっと解放されてからも、力強く生きるに違いないと思って本を読み進めた。

あんな悲惨な状況でも、人間らしさを失わずに生きてきたんだもの。結婚もしてこれからは幸せ一直線だと思っていた。

ところがエディは「私は幸せではなかった」と書いている。

迫害を生き延びた多くの人が、解放されてから自殺するケースは多かったそうだ。また、心の傷が癒えずに、家庭を持ってもその家庭を幸せなものにすることができず、子や孫にまでホロコーストの傷が及んでいるということも見聞きしたことがある。

どんなにわかると言われても、理解しようとされても、同じ経験をした人にしかわからないとエディは書いている。そうだと思う。

自分はなぜ生き残ったのか、生きている意味はあるのか、人を信じられない、人混みが怖い、暗闇が怖い、許せない、憎い、いろんな反応や感情が出てこない方がおかしい。

辛い状況を超えたからこそ襲ってくるものがあるんだと、読みながら感じた。

そんなエディの状況を変えたのは、息子の誕生だったそうだ。

エディはたまたま奇跡が起こって、我が子をこの手に抱いた瞬間、幸せという感情が自分に戻ってきたと書いている。

やっぱりここでも、エディに生きる力を与えたのは、過去の自分に幸せを与えてくれた家族の記憶だと思う。もう一度あの幸せを今度は自分が生み出そうと思えたんだと思う。

そして残念ながらそう思えず、残りの人生を暗い気持ちを持ったまま生きている人にエディは語りかけている。

その④に続く


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