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千代里芸者前〜子供時代②〜


鼻がぺちゃんとして、男の子のような見た目だったことは「子供時代①」で書いた通り。そんな私が花柳界への憧れを抱いたのは、身体的特徴によるところも大きかったように思います。


足は短くて太め。

胴は長め。

お尻は大きめ。

輪郭は下ぶくれ。

目鼻立は主張少なめ。

超日本人体型でのっぺりした顔の私は、大きくなるまでの間、どれほどの人に

「平安時代に生まれてきたらよかったのにねぇ」

「着物が似合う体型ね」

と言われたことか。

「平安時代に生まれて来たらよかったね」と言うほとんどの方は常識的ないい人だっただんだろうと思います。

「平安時代の顔」はきっと褒め言葉のつもり。

でも、ちょっと想像力を働かせたら、

「顔を見てふと浮かんだ言葉をそのまま垂れ流す」という行為が、いたいけな少女のハートをいかに傷つける残忍残虐な行為か、というくらいのことはお察しいただけるはず。

平安時代の絵巻物に出てくる顔に似ていると言われて、

「めっちゃ嬉しい。照れるんですけど!」などと喜ぶはずがありません。

世の中の美の基準が、

「引き目鉤鼻、最高!」

「下ぶくれまぶしすぎる〜!!」

ではないこともあきらか。

「千年前に生まれてきたらよかったのになぁ」と言われるたびに、「生まれられるもんなら生まれてるわい」と思うしかありませんでした。


そんな私が今まで言われた「似てる人物」のなかで最も泣いたのは「高松塚古墳の壁画」。

みなさまご存知、「飛鳥美人」のニックネームで呼ばれる「輪郭が”だよ〜んのおじさん”の女性」のあの絵。平安よりさらに時代を遡っております。

今までの、似てると言われたワーストは「麻原彰晃」だと思いますが(だいたい、性別からして違うから!)、初めてそう言われたのは大学生の頃だったので、もういろんな免疫がついていてそれほど傷つくこともありませんでした。

それに比べれば、「美人」と言われている壁画に泣いたのは、前振りのせいもあったと思います。

女子高生の頃、

「君は、世界三大美人って知ってる?そのなかに、高松塚古墳の壁画で鳥毛立女図屏風(とりげたちおんなびょうぶ または とりげりゅうじょのびょうぶ)っていうのがあるんだけど、それにそっくりだねぇ」

と言われました。

世界三大美人?

クレオパトラと楊貴妃と小野小町じゃないの?と思いつつも、当時その絵を知らなかった私は、帰るなり喜び勇んで資料集を開きました。

どんな美人なんだろうと胸をときめかせて目に飛び込んできたのは、「だよ〜んのおじさん四人衆」。

そう、高松塚古墳の西壁に書かれていたのは女子群像で四人。高松塚古墳壁画は世界三大美人の中には入っていない。だいたい、四人いるのに世界三代美人の中に入れたら数え方がややこしくなってしょうがないはず。

そして、「鳥毛立女図屏風」は正倉院にある屏風で高松塚古墳壁画の絵とは別物。

いろんな意味で間違いだらけの発言ではあったものの、なんにしても、『TDJ4(松塚古墳壁画でよんのおじさんに似ている子群像の4人組、略してティーディージェイフォー)』と、『鳥毛立女』と『私』は、”すさまじい下ぶくれ”という点においては、確かに同じくくりに入ります。ほっぺたのボヨヨン加減が、私と彼女たちが他人ではないと告げている気がしました。

「どうせ私はのっぺりした下ぶくれですよ」と泣きながら、どこまでも古い己の顔立ちを恨み、心の中では意味不明の、「下ぶくれで悪いか、オ〜、のっぺりで悪いか、オ〜」という雄叫びが上がっていました。

でも、のっぺりしているということは、主張がない分その後の造作がしやすい顔でもあります。梅沢富美男のビフォアアフターを思い浮かべてくださいませ。主張がないということは日本髪に白塗りをしたとき、”ごまかし効かせ放題”ということをのちに芸者になってから知りました。鼻筋なんか、白く塗ったら簡単に高く見えるのです。目の幅だって大きさだって変更自由!ビバ、白塗り。

とにかく、こんなに古い顔に生まれたんだから、それを活かせる生き方があったらいいなという気持ちはどこかでず〜と持っていて、それが自然と『舞妓』さんへの憧れに重なっていったのだと思います。

芸者になれたことで、確かに古い顔は活かされましたが、日本人体型の方はちっとも武器にはなりませんでした。やはり現代は着物姿でもすらっとしていてお尻もキュッとしていた方がずっとかっこいいというのが実感。ドレスを着るよりは着物の方が粗が目立ちにくくてよかったね、という程度のことでした。

中学で髪を伸ばし始めたのをきっかけに、性別は徐々に女と見られるようになりましたが、自分のがさつなところや荒々しいところはそのまま。

他の女性を見て自分を恥ずかしく思う気持ちは芸者をしても消えず、女らしさや男らしさってなんだろうといまだにずっと考えています。

それに加えて、今は今まで見過ごされたり隠されたりしてきた性の多様性について考えると、ますます男性性、女性性ってなんだろうなと思います。

今だに探求の途上であるそういったことも、これから徐々に書いていこうと思います。

先頭の絵は高松塚古墳ではなく鳥毛立女屏風。


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エッセイスト。元新橋芸者。東京メトロ駅設置の「メトロポリターナ」にて、お多福美人講座連載中。著書に『捨てれば入る福ふくそうじ』など。ここでは、芸者になるまで、なってから、そして引退後に至るまでしでかした勘違いの数々や福を招く備忘録などを綴ります。疲れた時のホット一息に。

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滋賀県生まれで京都の大学を卒業後、東京の新橋で芸者になった千代里の、芸者になる前、なってから、引退後の出来事を綴るエッセイ。

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