「花束みたいな夜」 下
1分小説
この物語は2章構成になっています!
第二章: その夜の花束
数週間が過ぎた頃、瑠璃はいつものように和菓子を整えていた。彼のことは不思議と頭の片隅に残っていたが、再び会うことはないだろうと、彼女は自分に言い聞かせていた。しかし、運命はまるで予期しない波のように、静かに彼女に向かって押し寄せてきた。
その夜、店の外にふと視線をやると、見覚えのある背中がそこにあった。あの男が、再び「青柳堂」の前に立っていたのだ。彼女の胸は一瞬、音を立てたが、すぐに平静を装って彼を店に招き入れた。
「こんばんは。また桜餅ですか?」
瑠璃は微笑みながら尋ねたが、彼の顔はその時、少し柔らかく見えた。
「ええ。でも今日は、もう一つ買いたいものがあります」
彼は一息ついてから、続けた。
「あなたに、花束を渡したいと思って」
そう言って彼は、手に持っていた白い花束を差し出した。瑠璃は思わずその場で息を飲んだ。まさかこんな展開になるとは、夢にも思っていなかった。
「どうして私に…?」
瑠璃の質問に彼は静かに答えた。
「あなたがあの時、僕に静かに寄り添ってくれたから。大切な人を失った悲しみを、その一瞬だけでも、少し和らげてくれたんです」
彼の言葉は、静かな夜の風の中に溶けていくようだった。瑠璃はその花束を受け取り、そっと抱きしめた。彼女はその瞬間、今まで気づかなかった感情に気づいた。それは恋でも、憧れでもない、もっと深い何かだった。人と人が出会い、互いの傷にそっと触れることで生まれる優しさのようなもの。
「ありがとう」
それだけを、瑠璃は彼に伝えた。その夜、彼女の心にはまた一つの花束が咲き、そしてその花束は夜の静けさと共に、永遠に残る記憶となった。
おわり
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よろつよ
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