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「シオン」 上

1分小説
この物語は2章構成になっています!


第1章:紫色の追憶


里田瑠璃は、秋の空気が好きだった。少しひんやりとした風が吹き抜け、空はどこまでも高く澄んでいる。瑠璃が働く和菓子屋「花椿」では、秋を感じさせる菓子が店頭に並び始めていた。彼女の手元には、淡い紫色に染められた餡があり、菊の形を模した和菓子を作る準備が進んでいる。

その時、不意に店のドアが開き、聞き覚えのある声がした。

「こんにちは、まだ菓子作り、続けてたんだね。」

振り返ると、そこに立っていたのは大学時代の友人、森川悠斗だった。彼とは昔、一緒に過ごした時期があった。瑠璃にとっては忘れられない存在だったが、いつしか疎遠になり、彼の姿を見たのは数年ぶりのことだった。

「悠斗……。どうしてここに?」

彼の突然の訪問に戸惑いながらも、瑠璃はなんとか笑顔を作った。悠斗は変わらず落ち着いた雰囲気で、以前と同じ優しい眼差しを向けてくる。

「たまたまこの近くで仕事してて、ここに寄ってみたんだ。噂には聞いてたけど、本当にここで働いてたんだね。」

「うん、ずっと続けてるよ。」

彼女はぎこちなく応えたが、心の中ではかつての記憶が蘇っていた。大学時代、彼女は悠斗に密かな恋心を抱いていた。しかし、告白することもできず、彼と別々の道を選んだのだった。その時、心の中に咲いていた「シオン」――紫色の花言葉は「君を忘れない」。瑠璃にとって、彼との思い出はずっと心の奥底にしまわれたままだった。


つづく


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よろつよ



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