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ゆりの咲く庭 上

1分小説
この物語は2章構成になっています!


第一章: 儚い記憶の庭


里田瑠璃は、28歳の独身女性で、小さな和菓子屋「甘露堂」で働いていた。彼女の生活は、和菓子作りとその色彩を完璧に調和させることに捧げられていた。色彩の資格を持つ彼女は、四季折々の花や自然の美しさを和菓子に映し出すことで、客たちを魅了していた。だが、最近彼女の心には、どこか満たされない感情が漂っていた。

ある日、瑠璃は甘露堂の裏庭に広がる百合の花を見つめていた。その庭は、彼女の祖母が長年大切に育ててきた場所で、今でも純白の百合が咲き誇っていた。祖母は、瑠璃にとって特別な存在であり、彼女が小さい頃からいつもその庭で過ごしていた。今は亡き祖母の面影を思い出しながら、瑠璃は一人で庭のベンチに腰を下ろし、静かに百合の香りに包まれていた。

そのとき、一人の男性が庭に現れた。彼の名は、三浦俊介といい、数年前に瑠璃と一度だけ出会ったことのある人物だった。彼は、高校時代の同級生であり、当時、瑠璃の心を密かにときめかせた相手でもあった。

「瑠璃、久しぶりだね。まだこの庭を覚えている?」俊介は、懐かしさを帯びた笑顔で尋ねた。

瑠璃は驚きつつも、微笑んでうなずいた。「もちろん。この庭は、私の一番大切な場所だから。」

彼は一瞬視線を落とし、そして百合の花を見つめながら言った。「この庭で、昔、君と話したことがずっと心に残っているんだ。だけど、そのとき僕は何も言えなかった。だから今日、ここに来て伝えたいことがある。」

瑠璃の心は、突然不安と期待で揺れ動いた。彼の言葉の続きが知りたくて仕方がなかったが、同時にその答えが何かを恐れていた。

「何を…言いたいの?」瑠璃は、抑えきれない鼓動を感じながら問いかけた。

俊介は一歩前に進み、瑠璃の目をまっすぐ見つめた。「あの時、君に伝えたかったのは、僕は君が好きだったってことだ。だけど、怖くて言えなかった。そして今でも、君のことが心に残っているんだ。」

瑠璃は、その告白に一瞬言葉を失った。過去の記憶が蘇り、心の奥に封じ込めていた感情が一気に溢れ出した。


つづく


#ロマンス小説 #百合の庭 #再会の恋 #和菓子屋 #新しい一歩


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よろつよ


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