私は不動産関係の仕事をしているのだけれども、
今年の5月頭に売主から買主へ引き渡しを終えた土地がある。
私は売主のおばあちゃんを担当しており、依頼を受けた去年の夏頃だったか、色々と売るに至るまでのお話を聞いていた。

ご主人が亡くなってちょうど一回忌に、売却の相談をくださった。ご主人は早くに病気を患って、お仕事を早期退職し、その退職金で買った土地だったという。
家を建てることなく、お庭のようにたくさん木植えたり石を飾ったりして、団地の皆さんで使える公園にして、おばあちゃんは介護が必要なご主人を車椅子に乗せて、そのお庭でお昼ご飯を食べたり、手入れをしながら15年ほどそこで過ごしてきたんだそう。

そんな思い出の土地を、ご主人が亡くなってからは手入れをしたりするのがつらく、手放してしまおうと思ったと、そう話してくれた。
そのお庭には、桜の木が何種類か植えてあって、順番に咲いていくということだった。この桜を見ながら、いろんな思い出をご主人と作ってきたというお話を聞いた。

売り出しをして間も無く、すぐに買い手がついた。当時季節は秋口だったのだが、売主のおばあちゃんからはこんなご相談をいただいていた。

春に、お庭の最後の桜を見て、それからおしまいにしたい。

買い手がついてからおおよそ半年後の引き渡しとな
ったが買主も承諾してくれたので、その間たまに私もお庭に行ってお弁当を食べたりしていた。
おばあちゃんからも是非そこで景色を見ながら過ごしてねと言われていたので、ちょくちょく休憩しに行ったりしていた。パソコン教室の先生をやっているんだという話なんかも聞かせてもらったりした。

そして春を迎えて、桜が満開になってとても美しいお庭だった。この桜を切ってしまうのはとてももったいなくて、自分のものではないのに少し寂しくなったのを覚えている。

更地にして、5/1に新しい買主への手続きを終えた。
その日、そのおばあちゃんへなんとなく、花束を渡したくなって用意していった。もちろん普段は用意することはない。今まで、お疲れ様でしたとの意味を込めてお渡しをした。

その後はなかなか連絡を取ることもなく、年末になり年賀状を送ろうかと思い住所の登記を調べたところ、遺贈の登記があった。

遺贈は持ち主が亡くなって、遺言に沿って譲渡することで登記ができる。

おばあちゃんとは、あの日が最後になってしまった。日付だけを見ると、土地の引き渡しを終えた3週間後だった。

そのおばあちゃんはどんな思いで亡くなったのか、弔問にすら訪れていない私には知る由もないが、今日それを知ってとにかく悲しかった。

たまに書いた手紙は届いていなかったんだなと思うと寂しくなった。

決して長い期間の付き合いではなかったが、そのおばあちゃんの人生を思うと胸が苦しくなるほどには、色んな話を聞いた。

自分たちの思い出の土地が、次の世代へつながっていくことを嬉しいと思ってくれていたなら私は少しでもそのおばあちゃんのために仕事ができただろう
か。

仕事のこと、嫌だ嫌だって言ってるけども
こんな時自分の仕事を振り返ってみる。

寄り添った人がいなくなることを想像することが私にはできなくて考えるだけでとても辛くなる。

何が言いたいのか全然整理はついてないが、
会いたい人には会わなければ次いつ会えるか分からないということだけは確かだ。

死んだら会えないからね。



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