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「人」は大きく「己」は小さく

2018年7月21日(土)

いつもなら試合観戦が終わると帰路につくことが常であるが、この日はある男のもとへ訪問する約束をしていた。

その男こそ、この1月9日にJ2所属FC琉球に加入が発表された、流通経済大学付属柏高校3年GK猪瀬康介である。

訪問先は柏市内の病院。
そのとき彼は入院・手術を余儀なくされており、術後に、お見舞いに行かせていただいた。

面会時間内ではあったが、周囲に御迷惑がかからないよう、談話スペースへ移動し様々な話しをした。
話しをする姿や態度は、いわゆる“今どきの高校生”のような感じとはずいぶんかけ離れたものがあり、礼儀正しさと気さくで明るい雰囲気が溢れ出ていた。

流経大柏における指導もさることながら、ご両親やご家族の支えや関わりで、このような若者に育つのだなと感心した。

大学進学は考えていない

気になる卒業後の進路について直球でたずねた。幾つかの選択肢があっても当然だとは思っていたが、返ってきた言葉に戸惑いと驚きを隠せなかった。

「プロになれなかったら、サッカーに区切りをつけます。自転車屋に就職しようと考えています。」

高卒でプロになることは厳しく高いハードルである。彼ほどの実力があれば、もし高卒プロの道が断たれたとしても、トップレベルの大学へ進学し4年間力を蓄えたあとでも、十二分に狙えるはず。

しかし、その言葉を発したときの表情からは、並々ならぬ決意が伝わってきた。もちろん、それなりの理由があるわけだが、もう皆さんはご存じであろうから割愛する。

何より私が心を打たれたのは、自分というフィルターを通しつつも、常に、流経大柏というチーム、そして家族や仲間に思いを馳せ、行動にうつすことができる芯の強さがあることだ。

信の強さ、心の強さ、進の強さ、そして、真の強さを兼ね備えているとも表せるだろう。

ゴールキーパーというポジション

ゴールキーパーは最後列で味方の選手の背中を見ながらプレーする機会が多い。味方を叱咤激励したり、ポジショニングのコーチングもする。
無論、試合に出場できていればの話しである。

ある時期からトップチームのスタメンに名を連ねることが難しくなっていた。つまり、チームメイトの背中を見ながら、ゴールマウスを守ることができない状態にある。

しかし、前述したとおり自分のため、そして流経大柏というチームのために、常に全力を尽くしている。視線の先に映りこんでいた仲間の背中。

いつの頃からだろうか、後輩達が彼の背中を見つめるようになった。

猪瀬康介のように強くなりたいと。

いよいよ埼玉スタジアムへ

高校サッカー選手権は佳境に入ってきた。明日、12日(土)より、聖地埼玉スタジアムに会場を移し、準決勝2試合と決勝の1試合を残すのみとなった。

改めて感じるのは、その舞台へ再び戻ってくることの難しさ。昨年度、準優勝だった流経大柏ではあるが、宿敵・市立船橋を倒し千葉代表の座を掴むことも簡単ではない。

昨年度、ベスト4に名乗りをあげ優勝した前橋育英は、今大会尚志に敗れた。同じくベスト4だった矢板中央は青森山田に、上田西は予選敗退。

流経大柏が再び聖地へ戻ってこれた要因の1つに、猪瀬康介のような強い選手の存在があるんだと、私は確信している。

明日、目の前の戦いにだけ集中し、百打一音で向かっていこう。

「人は大きく己は小さく」
かつて聞いたことがある言葉
まさに、猪瀬康介をあらわしているような言葉

今は、1分でも1秒でも長く
君の背中を追いかけていたい。

心震えるゴールキーパーの物語

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