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腕章が繋ぐ想い

プロローグ

勝負の世界は厳しく、そして、実に儚いものである。

勝利の裏には敗北があり、敗北の裏には勝利がある。歓喜の裏に悲哀があり、悲哀の裏には歓喜がある。

5万人を超える大観衆が見つめた激闘は、あっという間に過去のものとなり、忘却の彼方へと押しやられる。矢継ぎ早に入ってくる情報に翻弄されているといったところが正直なところだろうか。

過ぎていく時間さえも、恨めしく感じる時がある。その時間を少しでも長く留めておくために、書き綴ることの大切さに気づいた。

読んでくださった方々が「心震えるFOOTBALL」を、感じてくれることを祈りながら。

高校サッカー選手権閉幕

第97回全国高校サッカー選手権大会が1月14日に閉幕した。平成という元号と、やがて100回を迎えるこの大会に相応しい決勝戦だった。

青森山田が流経大柏に3-1で勝利し、2大会ぶりの優勝を飾った。高円宮U-18プレミアリーグEAST(以下、プレミアリーグ)においても2位につけ、U-18日本代表⑩檀崎竜孔(J1札幌入団)、⑪バスケス・バイロン(いわきFC入団)が牽引する攻撃陣が脚光を浴びていたが、U-18日本代表⑤三國ケネディエブス(J2福岡入団)や主将GK①飯田雅浩を中心としたディフェンス陣もハイレベルであった。

2018年度、観戦してきたチームのなかでは、「別格」と言わざるをえない強さを、プレミアリーグにおいて目の当たりにしていた。世代別代表を揃え、Jリーグ下部組織でさえ圧倒するその強さは、RESPECTに値する。

その青森山田を苦しめた栃木県代表・矢板中央、強豪を幾度も倒しベストフットボールを展開した、福島県代表・尚志も素晴らしかった。

さて、自身が愛してやまない流経大柏。前回大会で前橋育英に後半アディッショナルタイムの劇的ゴールで敗れ、リベンジに燃えていた今大会。初戦である2回戦から決勝戦までを1失点で凌ぎ、鉄壁の守備として青森山田を迎え撃ったのであるが・・・・。

流経大柏⑤関川郁万(J1鹿島入団)は大会前に語っていた。「選手権の借りは選手権でしか返せない」。勝ち続ける保証なんて何処のチームにもない。そのなかで2年連続決勝進出したこと、それは“強さ”の証明でもある。

「流経は勝たなければ意味がない」

チームの強さや、内容あるゲーム・・・。しかし、勝利というものは、また別の所にある厳しく険しいものなのかもしれない。

喉から手が出るほど欲しかった先制点は、U-15時代に所属したFC多摩の後輩である2年生⑱八木滉史のCKから、⑤関川郁万のメガトンヘッドによるものだった。

でもどうしてだろう。歓喜のあとにきた何とも言えない胸騒ぎ。喉から手が出たはずなのに、しっくりこない何かが喉元に残る感覚だった。

流経大柏1-3青森山田

心底悔しいが完敗だった。要所で出た少しの差は、大きな差となり流経大柏に敗北を突きつけた。これが勝負の世界であり、これが選手権、これが高校サッカーなのである。

大会を通じてメディアには沢山の選手達が書き綴られた。優勝した青森山田の記事は、毎日どんどんアップされていた。スポーツ新聞の取り上げ方の違いも顕著。優勝と準優勝という明確な結果の差を、2年連続で受け入れることとなった。

魂の漢

巧い選手は全国に山ほどいる。強い選手も全国に山ほどいる。ただ、そんな選手達が山ほどいても、勝ち続けることは難しい。

今年代の流経大柏が躍進した背景には、数々の男達の物語が交錯している。控えのGKながら埼玉スタジアムのバックスタンドから多くの拍手を受けて出場した⑰猪瀬康介(J2琉球入団)、最初は受け入れ難かった応援団長だったが、チームを後方支援し続けた3年生・吉田俊輔。様々な想いが流経大柏を成長させた。

そのようななか、人一倍大きな想いを持ち、沢山の想いを託された選手がいる。

流経大柏32期生主将・FW⑭左部開斗である。

前線での献身的プレス、基点となるポストプレー、ロングボールに対し屈強な体をぶつけながらの競り合い、ボランチも主戦場にできる守備力と展開力、何より凄いのは強烈なミドルシュート。プレミアリーグと、千葉県リーグDiv1(県リーグ)を、③須永竜生と共に掛け持ちして出場する大車輪ぶりを発揮していた。

元々32期生の主将は関川郁万であったが、昨年度の選手権後に手術をし、長期離脱を余儀なくされた。その間、関川の代わりはエース⑩熊澤和希が務めた。

左部はプレミアリーグ第1節こそスタメン出場するものの、2節以降スタメンから外れてしまった。彼がTOPチームのスタメンに復帰したのは、後にターニングポイントと言われる敗戦でもある、6月16日のインターハイ予選準決勝の習志野戦だった。

インターハイ2連覇の夢は儚く散る。しかも、全国への扉を開くこともできないまま。

左部がその後TOPチームのスタメンに復帰するのは、それからおよそ3か月後の9月24日。プレミアリーグが終盤に差し掛かる第14節のFC東京U-18とのアウェイ戦となる。この間彼は、県リーグメンバーとして、高橋コーチのもとで厳しく鍛えあげられ、徐々に力を蓄えていたのである。

キャプテンマークは巻いていないものの、ここから主将・左部開斗の物語は始まっていたのかもしれない。プロローグは、交代出場して決勝点をあげた第13節の富山第一戦であろう。32期生の想いがつまった魂のゴールの1つにあげられるはずだ。

左腕にキャプテンマークが巻かれたのは、スタメン復帰後の翌節、10月7日の第15節の浦和レッズユース戦からだ。この試合以降、プレミアリーグは高校サッカー選手権予選のため中断期間に入る。つまり、千葉県を制覇するために、左部開斗に白羽の矢が放たれたというわけだ。

二度の想い届かず

主将としての闘いが始まり、左部主将率いる流経大柏は快進撃を続けた。千葉県内で最大のライバルである市立船橋を決勝戦2-0で退け、2年連続の千葉県制覇。流経大柏にとっては、初の連覇。リベンジのスタートラインに立つことができた。さらに、県リーグも二連覇し、関東プリンスリーグ参入戦リベンジのスタートラインにも立つことができたのである。

しかし、残念ながら、そのリベンジは二つとも叶うことはできなかった。あと一歩のところで歓喜はするりと逃げていく。

主将という大役を任され重責を背負い、結果を出すことができなかった。その悔しさは到底はかりしることはできない。

様々な想いを託され、重責を背負いながら闘い続けた日々は幕を閉じた。それは、流経大柏で生活してきた千日修行を終えることでもある。

緑のユニフォームが歓喜でピッチに倒れこんでいる最中、左部主将を中心とする流経大柏の赤き戦士達は、誰一人ピッチに崩れ落ちない。そして、涙を流すこともない。

バックスタンドの応援席前に挨拶に来たときは、思わず込み上げてきたものがあったに違いない。左腕に巻かれたキャプテンマーク、そこには32期生をはじめ、多くの選手達の想いが託されていたはずだ。その重責に押し潰されぬよう、強く勇ましく走り続け、闘い続けた。流経大柏の主将として。

左部開斗として。

エピローグ

流経大柏主将・左部開斗とがっちり絡んだのは、昨年度、第96回全国高校サッカー選手権大会準々決勝の長崎総大附属戦の試合後。彼がまだ2年生で、スタンドから応援をしていたときだ。

自動販売機でばったり出くわした。彼はU-15時代に神奈川県の強豪・東急Sレイエスから来ていたので、少しずつ注目していた頃だった。並んだら、えらく大きく屈強に見えた。迷うことなく小銭を入れ、ジュースを1本ご馳走した。たった1本のジュースに深々何度も頭を下げお礼を言ってくれた。律儀な子だなぁと感じた。

まさか、あのときの彼が主将を任されるまでに成長するなんて、全く予想することなどできなかった。しかし、流経大柏の主将を任せられる者は、個性派軍団を束ねなければならないから「何かを持っている」者にしか務まらないのも事実だと思う。

私が知る過去には、そんな主将がいた。

26期生主将・桜井将司(ジェファ→流経大)
圧倒的個性と存在感を併せ持ち、且つ、仲間や後輩にとても慕われる男。(ゲーム主将)

27期生主将・石田和希(横河武蔵野→流経大→HONDA)
個性派軍団27期生をひとつにまとめあげた、誰もが認める人間性を兼ね備える男。高体連チーム初の高円宮プレミアリーグチャンピオンに輝く。その類稀なる人間性で流経大でも主将を務めた。

28期生・広滝直矢(柏イーグルス→流経大卒)
安定と粘り強い流経大柏のディフェンスを統率し、大逆転を何度も起こした。淡々としながらも、厳しく強い守備は大学サッカーでも発揮されていた。

29期生・菅原俊平(湘南ベルマーレJY→現流経大)
決して恵まれた体格を持っていたわけではないが、その存在感は体格をも上回っていた。ピッチを駆け巡り、大きな声で流経大柏を鼓舞。闘う男である。

30期生・関 大和(坂戸ディプロマッツ→現流経大)
相手のキックにヘディングで飛び込む特攻野郎。中盤における回収率の高さ、激しさ、勇気、まさに闘将。流経大柏の守備、それは関大和と言っても過言ではないくらいだ。

31期生・宮本優太(Forza'02→現流経大)
インターハイ優勝、プレミアリーグ復帰、選手権準優勝。流経大柏の象徴的存在であり、中盤の運動量、得点感覚は圧巻だった。そして、何より人間性も素晴らしかった。


繋がれてきた想いは、また、次世代へと引き継がれていく。各年代が「最強の年代」という称号を手に入れるために。

32期生が主将・左部開斗と共に追いかけてきた称号は、残念ながら手に入れることができなかった。そしてそれは、新しい世代が追いかけていくこととなる。

腕章を巻く新しき闘将よ!往け!

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