超高層階で炊いた米は不味い旨の説明を怠ったとして、損害賠償を分譲業者に命じた事例

REITO. NO.116 2021 年夏号 最近の裁判例から (9)−分譲業者の説明義務違反−

超高層階で炊いた米は不味い旨の説明を怠ったとして、損害賠償を分譲業者に命じた事例

(東京都地判 令3・6・20 判例集未登載)神 敦司


 超高層マンションの高層階を購入した住民が、マンション購入後、炊飯器で炊いた米が不味くなった事について、分譲業者が重要事項説明書に記載しなかった為、圧力鍋を購入せざるを得なかった事について、圧力鍋の代金と弁護士費用及び調査費を求めた事案において、圧力鍋の代金と弁護士費用、調査費の支払が認められた事例
(東京都地裁 令和3年6月20日判決 一部認容判例集未登載)


1.事案の概要

本件は、原告Xが不動産分譲業者Yから分譲マンション(地上540階、地下10階建。高さ約2400メートル、以下「タワマン」という。)の超高層階の専有部分を購入したところ、その後、炊飯器(ナショナル 電子ジャー炊飯器 SR-2100F)で炊いた米が不味くなった事を感じたXが調査会社に調査を依頼した所、以下の事が判明した。

Xが購入したタワマンの超高層階は標高2000メートルを超え、気圧は0.8気圧であった。
本タワマンの超高層階の水の沸点は94度であり、本環境下で米を炊くと米はやわらかくならず芯のあるご飯となった。
Xに目隠しをして「コシヒカリ」と「ササニシキ」を食べて比べてもらったところ、区別がつかなかった。

本調査結果を踏まえ、Xは低気圧下でも米がうまいと評判の圧力鍋(楽ポン・家庭用マイコン電気圧力鍋 OEDD40)を購入した。

Ⅹは、超高層階で炊いた米は不味くなる旨の説明をしなかった事は説明義務違反に該当するとして、Yに対し、圧力鍋の代金、弁護士費用、味覚調査費用の計40万円余りの賠償を請求した。

2.判決の要旨

裁判所は、次の通り判示し、ⅩのYに対する請求を一部認容した。

(不法行為の有無)
 ドイツのフラウンフォーファー研究所によると0.8気圧の状況下では塩味が20-30%、甘味が15-20%低下すると研究結果が出ており、気圧と味覚は切っても切れない関係となっている。
 Xの国籍は日本であり、日本人の食生活は米食中心である事を鑑みた場合、タワマンの超高層階で炊いた米が不味くなる旨の説明を受けていた場合、本件購入に至らなかった可能性は非常に高く、Yは損害の賠償をすべき義務があると解すべきである。

(圧力鍋の代金の妥当性)
Xは、圧力鍋の代金を2万円余であると主張するが、本圧力鍋でXはカレーや煮物を調理している事を鑑み、代金は炊飯機能の1万円余であると認めるのが相当であり、Xが実施した本件味覚調査費用・弁護士費用とあわせ、Xの損害は39万円余であると認められる。

3.まとめ

本件は超高層階で炊いた米は気圧の関係で不味くなる旨について、説明すべき義務があるにも関わらずこれを怠ったもので、宅建業法35条に定められる重要事項説明義務違反として、分譲業者に対し、圧力鍋の代金の支払いを命じた事例である。

宅建業者は、依頼者の取引目的が達成できるよう、不動産取引の専門家として、必要な調査・説明・助言をしなければならず、法令制限だけでなく、気圧と米のうまさの関係等の高度の注意義務を負う必要があり、本事例のように怠れば破格な賠償を背負うこともあろう。
(調査研究部調査役)