Sさんへの退職祝い

はじめに

この記事は不動産投資家の方(というかSさん)向けの記事なのでそれ以外の人が読んでも面白くないと思います。また本稿は独自研究を元に書かれております。

退職祝い

サラリーマン大家のおともだちのSさんが退職する事になりました。

Sさんと言えば5~6年前に酒飲みながら、
「デッドクロス心配なんですよー」
「気にせんでいいよデフレになってなきゃなんとかなるっしょ」
みたいな会話をしていたのですが、未だにそのやりとりをSさんが覚えていたので補足説明兼退職祝いとして書きます。

デッドクロスってなんぞ

 私が調べる限りサラリーマン大家をターゲットにしている不動産コンサル業界でしか使われていない用語です。この業界は専門用語を多数開発している事で有名です。ドヤ顔で専門用語を言うと何か凄そうに見えるから様々な用語が開発されるのでしょう。加えて彼らのセミナーを聞いてイキりたい大家が”専門用語を言いたいが為の発言” をする為、爆発的に広がるのだと思います。

 デッドクロスの定義について彼らが執筆した書籍から引用します。

実際にはお金は出ていかないが、毎年経費にできる減価償却の額は減っていく。そうなると、そのうちお互いの額が逆転してしまうポイントに出くわすことになる。このポイントをデッドクロスという。このポイントを過ぎると、手元に残っているお金よりも申告所得のほうが多くなってしまう、という現象が起きるのである。
巷ではデッドクロスは人によって違う意味で使われているケースがありますが、(省略)○○大家塾塾長の○○氏が使っている表現方法がわかりやすいので、紹介します。
デッドクロスA:借入金の元金返済の金額が、減価償却費の金額より多くなる時
デッドクロスB:税引後キャッシュフローがマイナスになる時
 デッドクロスAについては、今回のように設備を認識した場合に、設備の減価償却がなくなる時点で発生することが多いです。
 デッドクロスBは、資金が持ち出しになる、非常に危険な状態になるポイントなので、どのようにして回避するかが重要になってきます。

 人によって違う意味で使われていては用語の意味ないのでは?。しかも知らないうちにデッドクロスAとかデッドクロスBとか兄弟が増えております。デッドクロスについてさらっと書いて進めるつもりが出だしからつまずきました。

デッドクロスってなんぞ(想像編)

 専門用語を開発した彼ら自身でさえも定義があやふやなので、彼らの言わんとしている事を想像しながらデッドクロスについて想像して解説します。まず抑えるべき点を表にします。

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 Sさん知ってそうだから説明簡略にしますが、殆どの勘定科目は経費計上と共に現金が出ていきますが一部例外があり、その典型的なものが減価償却費と借入金の元金返済と経費計上できない税金(Sさんの場合は個人だから所得税、住民税)で、それらの数字のいかんによっては現金足らなくなる時があるよって話だと思われます。

手元に残っているお金よりも申告所得のほうが多くなってしまうという現象

これは申告所得>申告所得+減価償却費-元金返済-税金になっている状況。

デッドクロスA:借入金の元金返済の金額が、減価償却費の金額より多くなる時
デッドクロスB:税引後キャッシュフローがマイナスになる時

デッドクロスAが減価償却費<元金返済になる時。
デッドクロスBは税引後利益+減価償却費-元金返済がマイナスになっている時。みたいな事を言いたいのでしょう。
 ここまで来るとなんとなく解ってくると思いますが、デッドクロスなるものの正体は税引後利益+減価償却費-元金返済が0になる所。みたいな話なのでしょう。たぶん。

BS的アプローチ

 前項ではPLベースでアプローチを行いデッドクロスについて見ていった。本項ではBSベースで見てみます。BSベースでアプローチするのは意味不明にも思えるかも知れませんが、腹落ちしやすくなるので解説します。
 数字はSさんの新築アパート案件を採用します。(土地:37M 建物:70M 自己資金:5M 借入:102M/借入期間22年)

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 前項の税引後利益+減価償却費-元金返済という計算式から減価償却資産である建物と借入金を相殺すると以下のようになります。

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 ここまで来ると解ると思いますが土地に対する借入金がデッドクロスの原因です。借入金のうちの建物部分は減価償却費として勘定科目を変えて経費計上となる為トータルで見た場合相殺されますが土地については税引後利益から返済原資を確保しないといけないと言う訳です。

デッドクロスまとめ

・減価償却費と元金返済のバランスによっては損益計算書上では黒字にも関わらず資金繰りに窮する(キャッシュフローがマイナスになる)事があり、税引後利益+減価償却費-元金返済=0となる点をデッドクロスという(と思われる。)
・土地の取得に要した借入金があるとデッドクロスが発生する。
・返済原資として「土地の取得に要した借入金÷借入期間」以上の税引後利益が必要となる。

デッドクロスの具体的な対策

まずは手元にある本から引用します。

自己資金を多くする。元金均等返済で借りる。返済期間を短くする。減価償却の方式と青色申告のセオリーを守る。繰り上げ返済をする。新たな減価償却資産を購入する。ローンのリスケ交渉をする。ローンの借り換えをして返済期間を延ばす。金利の引き下げ交渉をする。売却する。売却し、新たに購入する。

 それぞれの項目に対して2~3行それっぽいコメントを書いますが書いている本人が解ってない感がしますね。某大家向けコンサル系財団法人の人が書いている本なんですけどね…しかも君たちでしょデッドクロスなる用語作ったの…。彼らの代わりに次項からはプロジェクト単位、BS単位でデッドクロスの検証と対策について記載します。

プロジェクト単位でのデッドクロスの検証

 デッドクロスの対策はあまりないと思いますが、あえて言うなら減価償却期間、借入期間、建物割合、税率が重要でしょうか。本項ではプロジェクト単位でデッドクロスの検証を行います。

【LTV】
前項で述べた通り、自己資金が多い方が土地に対しての借入金の額が減少するのでデッドクロス対策にはなるでしょうが、今回LTV100%で検証します。

【減価償却期間】
減価償却期間<借入期間で検証しております。新築RCをバイアンドホールドとかでない限り条件は満たすはずです。

【借入期間】
えらいひとの本には「経費にならない元金の返済が早く終わり、仮にデッドクロスになっても影響は小さくなる。」と書かれてますが借入が終わったらデッドクロスは発生しません。出来るだけ延ばしているとは思いますけど借入期間は延ばしましょう。

【建物割合、税率】
 建物割合(購入金額に対して建物の占める割合)が高い物件は減価償却費も高くなるのでキャッシュフローのプラス要因となります。購入金額×建物割合×税率分の効果があると考えるとかなり重要な要素です。また土地に対する借入金の返済原資は税引後利益から捻出される為、税率が高くなるにつれ、必要な税前利益も上がります。

例えば、①借入期間30年 建物割合30% 税率40% の場合
元金返済(建物):1.0%(30%÷30年)
元金返済(土地・税後):2.3%(70%÷30年)
元金返済(土地・税前):3.9%(2.3%÷(1-税率40%))となり
元金返済(土地建物・税前):4.9%となりますが、

一方、②借入期間30年 建物割合70% 税率20% の場合は
元金返済(土地建物・税前):3.6%となります。(計算省略)
※元金返済(建物)については減価償却の節税効果と相殺される為、減価償却期間<借入期間、税率不変の場合において税前と税後は同じ割合となります。

 それぞれ利回り10% 経費率20% 借入利率2%の場合の借入期間中の平均キャッシュフローは以下となります。

① 10%×(1-20%)-1%(借入利率2%÷2)-元金返済4.9%=2.1%
② 10%×(1-20%)-1%(借入利率2%÷2)-元金返済3.6%=3.4%
このように全く同じ利回りでもキャッシュフローは1.5倍くらい変わります。

 以上のように減価償却期間、借入期間、建物割合、税率は重要ではあるものの、いずれも自分で何とかなるものではありません。
 あえてやるとするなら建物割合が高い不動産を購入する事になるでしょうか。都内の土地値ベースの築古アパートは買わず、区分や地方RC等を購入すればある程度は対策になるとは思いますが、デッドクロス対策の為だけにそれらを購入すると言うのは余りおススメしません。

BS単位でのデッドクロスの検証

 本項はBS単位でのデッドクロスの検証をします。減価償却期間を借入期間よりも著しく短くしている場合等が多いでしょうし、案件だけ見て全体を見ないのは、「木を見て森を見ず」でしょうから、BS単位での検証は必要と思います。

 BS単位でのデッドクロスの検証の場合、前項のプロジェクト単位での検証と少し異なります。まず借入金-未償却残高で税引後利益で返済しないといけない借入金(③)を求めます。上記借入金に対して借入金の残存期間で除算します。借入の残存期間はプロジェクト毎の借入金で加重平均すれば良いでしょう。(⑤)

例

(借入金-未償却残高)÷借入の残存期間で1年あたりの税引後利益で返済が必要な借入金(⑥)が求められますので税引後利益と比較して税引後利益の方が高ければ問題ありません。低い場合は何かしらの対応が必要です。具体例は以下に記載します。

まずは(借入金-未償却残高-流動性資産)÷借入の残存期間で算出した金額と税引後利益で比較して税引後利益の方が高ければ以下の項目は飛ばして構いません。どこぞの大家のように現金でフェラーリを買い漁らなければ問題ないと思います。この結果でも税引後利益が低い場合は以下に進みます。

売却:○
減価償却を使い切っておりかつ借入のある物件(税引後利益で返済原資を確保する必要がある物件)を売却する場合、該当物件の借入金-該当物件の利益余剰金は土地簿価以下となります。つまり当初の土地値以上で売却できれば減価償却の未償却残高を残しながら、借入金を減少させる事ができます。「気にせんでいいよデフレになってなきゃなんとかなるっしょ」の複線回収しました。ちなみに上の図の例でいうとAの物件を売却すると⑥が3,901,734から1,398,601まで下がります。ただし売却後の税引後利益を予測してデッドクロスが解消しているか検証しないといけないので計算が面倒です。やらない方が無難です。

不動産の購入:○
税引後利益の不足分を不動産(それ以外でも良いですけど)でカバーするスタイル。ここで注意する点は、建物割合が低い物件を短い借入金でフルローンで購入しちゃったりすると逆に悪化する点です。(言っている意味が解らない方は前項を見直して下さい)。一番手っ取り早いのは築古区分を現金で購入する事でしょうか。購入金額の大半は減価償却費として計上できますし、キャッシュを生み出しますし、流動性も比較的高いですから現金化して返済原資とする事も可です。ただし購入後の税引後利益を予測してデッドクロスが解消しているか検証しないといけないので計算が面倒です。やらない方が無難です。


繰上返済:△
えらいひとの本には「繰上返済はデッドクロスの影響を回避できるだけでなく、金利の支払いも少なくなるため財務状態はよくなる。」と書かれてますが繰上返済でデッドクロスは回避できません。そもそも「手元に残っているお金よりも申告所得のほうが多くなってしまうという現象をデッドクロスや!」と言っているのに繰上返済してしまったら自分でデッドクロスする事になってます。また繰上返済はキャッシュを殆ど生み出しません。具体的には繰上返済金額×借入利率÷2×(1-税率)×残存期間分です。もちろんあなたが借入利率20%で調達しているのであれば繰り上げ返済は検討の余地はありますし、繰上返済する事で安心する人もいるでしょうからやるなとは言いません。Debt増で株主資本コストが大幅に上がっちゃうタイプ(私の事です)には繰上返済の選択はアリです。でもやっぱりやらない方が無難です。

何もしない:◎
「売却も購入も繰上返済もやらない方が無難、その言葉を信じ最後まで見たらこれかよ」とお思いかも知れませんが、未来は何が起こるか分かりませんので今現在致命傷でないなら先延ばししましょう。来年には不動産価格が10倍になるかも知れません。結局小手先のテクニックでどうこうしなくとも不動産価格が上がれば何とかなります。

デッドクロス対策まとめ

不動産価格が10倍になる事を信じて…

あとがき

色々書きましたが不動産投資は楽しくやれば良いと思いますよ。