床屋、閉店③

4月終盤にはテナントの退去作業が始まった。

普通は何事もなく終わるはずの退去が、大家の敷金返還渋りや、近所の混ぜくりくそババアのせいで揉めに揉めた。
当初大家との交渉を母一人でやっているうちに何故か話がこじれはじめ「旦那さんは良いひとなのに奥さんはパチンコばっかり行って飯も作らんクソ嫁ごだんね」と言う事実無根の誹謗中傷をくそババアが大家に伝えたり、父の仕事道具を搬出した時に元々あったものまで持って出たという事実無根の出来事まで本当のことのようにでっち上げられていた。
最終的に「もしあのテナントに元々あったものが一品でも無くなったら盗難で訴える!敷金は返せ、違約金も払わんて言う(※言ってない)あなたに電話するたびにストレスになるけんPTSDになった!病院行くけん傷害で訴える!」と大家が言い出した。

一言言いたい。私たちは退去したいだけでお前達に何もしてない。
何をそんなにイキリ立ってんだ。

同じ建物の店子さん達に話を聞くと「今まで入った人たちみんな必ず大家さんと揉めるんですよ…。有名です。毎回敷金返したくないから出る人が泣き寝入りするように色々言いがかり付けてくるっていうパターンです。これ、オフレコで」とみんな口を揃えておっしゃっていた。

なるほどなるほど。世の中にはこんな奴がいるんだな。そうか、だからあの大家の近所の人はあの家の文句は言わないけど関わりたくないって言うのね。そうかそうか。
母は毎日のように続く大家からの恫喝電話に「なんでお父さんのことだけを考えていたいのに、お父さんの事しかしたくないのにこんなことになる…」と体を震わせて泣いていた。ご飯も食えず、病室の父に泣きながら電話をして心配かけるという悪循環…これはいかん。

そしてとうとう父から、入院して初めて私に電話がかかってきた。
「仕事中すまんばってん、お母さんを助けてやってくれ」と。

ということで、遠方に住む私も微力ながら持てるものを全力で使わせてもらおう!!不動産業をしている地元友人宅建士達のパワーを!!!笑
すると、店に入る時仲介に入った不動産屋A氏と繋がった!
めっちゃ二枚舌の良い人だった!!
その人が大家に代理で交渉に行った際の恫喝内容や、虚偽の誹謗中傷の録音も撮れた!!
友人が契約書類を精査、敷金は返還すべきとの判断を下した!
しかし、突然の解約のため、違約金家賃3ヶ月分は支払わないといけないかも、と。ちなみに「店の備品類は借主に譲渡するため処分は任せる」って書いてあるから、もし無くしたものがあったとしても盗難には当たらないです、と。母が、解約はこっちの都合だからもちろんそれは支払いますと言ったところで

A氏「いや待て、こちらが違約金3ヶ月分支払うということは3ヶ月新規オーナーを大家は入れてはならないということ。二重契約になってしまうからね。大家は次のオーナーを自ら探しているくらい家賃収入が欲しそうだ。つまりここを突けば・・・敷金−違約金=0で交渉できるかもしれない!!」

そして見事その案を平身低頭でペコペコゴマゴマスリスリして(※A氏本人談)勝ち取っていただたいた!

大家を陥落させた言葉は
「いや〜●●さん!若い頃綺麗ですね〜!!俺がもうちょっと年上だったら一目惚れしてプロポーズしとったなあ!俺、面食いだけんこんなこと滅多に言わんけどほんと好きなタイプだな〜!!」(※A氏本人談)

本当に本当にありがたかった。みんなの街を守る公務員のマザコン弟が「宅地建物取引業法47条の2にあたるかもな…」とおもむろに動き出そうとしていたので尚更。もうこれ以上こじれたく無いんや我々は。

感謝を述べる私たちにA氏は「なーーーに!!!これこそ僕の仕事ですよ!お母さんも、こんななる前にまず僕のところに来てくれてたらよかったのに〜!おかげで俺、大家さんにプロポーズするまで言ってしまったたい!!」と言ってただ笑っていた。すごい人だなぁと思った。

5年前、地震と台風で前店舗の建物がダメになり退去になってしまった時「絶対納得できるまでここを動かん」と言う父を説き伏せたのもこのA氏。毎月必ずお客さんで来るからと約束し、本当に毎月カットに来ていたって。
最初はかなり拗れていた退去話だったけど、A氏は不動産屋としての金額の交渉だけでなく人と人として接し、最後は父と仲良しこよしになっていた。調子のいいこと言って騙されてんじゃないの?と家族に言われようと「なん!Aはそんな人じゃ無いけん大丈夫!」と信じていた。ほんと、そんな人ではなかったよお父さん。あの人はすごい不動産屋さんでした。


一時はどうなることかと思った退去も、色んな方々の力を借り無事に完了することができました。

大家のタチの悪さも相当アレですが、無知な状態で誰にも頼らず退去しようとした母にも落ち度がありました。
トラブルの中にいた時は、電話の音で体が震え出したり泣き出したりとパニックになっていた母ですが「頼れるところは頼る。世の中いい人ばかりではない。でも悪い人ばかりでもない。という良い勉強になった」と落ち着いて話せるようになったのでよかった。
後はしっかりお父さんの状態を支えながら安心して過ごせるように。

県を超えて住むあなたの子供達ができることは少ないけれど、それでももう大人になったからいつでも頼ってほしい。
意地はってギリギリの状態まで頑張らないでくれよな。


〜4月末日までの話


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