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水回り完璧な国

 コロナ禍で米国から戻って来てる友達と、比較文化論的おしゃべりをする機会があったので、日本について思いめぐらした数日間だった。

 清く正しい社畜だった頃、1週間程度で主にアジアと中国に出張する機会が多かった。行った先ではずっと現地拠点の社員とやり取りする仕事内容なので「海外出張」と言えば響きはいいけど、ひたすらに地味ではあったのだけれど。

 日本にいるときも、現地の社員の方達と連絡し合うことが多く、そういった経験の中で自分で「日本」や「日本人」という主語で物事を考えることも多かった。

 時間帯の良いチケットなんか手配される訳もないので、大抵、現地夜発、早朝着便が多くて、やっと眠れたころに軽食のカップラーメンを配る音と匂いで起こされ、一週間を乗り切った安堵はあれど、疲れと寝不足でグロッキーなままゲートを出てくるのがお決まりの感じだった。

 空港からのリムジンバスに乗って薄明るい道なりの風景を見ていると必ず思うことがあって、それは「日本は本当にきれいな国だな」ということ。

 空港の建物や設備、バゲッジクレームでのスーツケースの並ばせ方、トイレ(!水回り全般はほぼ完ぺき)、職員さんたちの人あたり、ちょうどよく開く自動ドア、手すりとステップがずれないエスカレータ、水たまりの少ない、舗装されたタイルの目地ぴっちりな歩道、凹凸の無いアスファルト道路、生ゴミがそうそう落ちていない町並み、磨かれた窓ガラス、ぴかぴかの車、頑丈そうなのに計算されたスタイルの良い橋やビル、、、、音楽聴きながらそれらを目で追っていると何やら感動的でさえある。目的地で降りたところにあるラーメン屋は、日本にいる時に食べても美味しいと思わない(失礼)店なのに、この時ばかりは感激するほど美味しかった。

 一方で、現地国の方達とやり取りする中で例えば「〇〇の資料をスキャンして送って」って依頼すると大抵、斜めに歪んだ、きっとコピー機の読み取り部分を、ガッとあけて、資料とぼんっとおいて、角度なんか一度も顧みることなくスタートボタンを押したのだろうな、というのが送られてくるのは日常で。現地でも、まぁまぁ良いホテルのはずなのに、シャワー室の仕切りのガラスドアの下から水がぎゃんぎゃんに漏れてきたり、シャワーの勢いが残念だったり、どうカランを操作しても熱すぎ冷たすぎたり、臭かったりetcetc,,,,

 こうやって書くと、不快だったと言いたいように思うけれど、実はそんなでもなく。歪んでスキャンされてたって読めれば内容に影響はないし、シャワー室から水が漏れるとしても、シャワーは浴びれたのだし、その「要は何をしようとしていたのか。優先順位第一位」がまず達成されていれば良しとする。という割り切りは私は嫌いじゃなかった。合格点が65点なら、65点取ってるんだから合格!という精神。きっとこうゆうマインドを日本で働く人たちが、提供する側も享受する側もお互い持てれば、もう少し働きやすくなるんじゃないかなと思ったりする。

 飲食店で、アルバイトの店員さんが、膝をついて最上級の敬語っぽい言葉で席で注文を取ってくれるのも、ものすごく日本らしいけど、そこまでする必要あるのかなぁ、と内心では思ってる。町のコンビニ的な雑貨屋の店員が、レジの時に一度もこちらの顔も見ることなく、商品を手に取ることもなく、レジを打ち、値段を告げ、おつりをぽんっと投げてよこす(笑)、もちろん袋になんか入れてくれない。そんな経験、アジアだろうが欧米だろうが、現地では遭遇するけれど、私は、そんときは面食らっても、店をでて歩くときは「あれでええねん」と思ってる。日本で働くのは、65点で良いのに、90点超え満点狙いをし過ぎて、お互い首を絞め合ってる時があると思うからだ。

 一方で、耐震性の高い建造物を建てる技術力、水回りの完璧さもきっと地震や災害が多い国なので必然的に発達していったものだし、飲食店のレベルの高さ、精密なものつくりをする職人気質、粘り強い研究から蓄えられた科学技術力など、悲観的な観測が多い(悲観してるのは、根が真面目で自他に厳しい日本人らしい方達なのも、らしくて良い)けれど、これらのものは、合格点ではなくて、満点を狙う、修行僧のような、なんでも「道」として究めたがる変態気質というか、日本に住む人達が持つ気質/傾向、風土からの躾の結果、なんだなとも思う。テルマエロマエの作者のヤマザキマリさんが確か、「””快適””であることを追求するのに異常な熱意を持つ変態気質」とか(うろ覚え)書いてらした記憶があるけれど、なんかわかる。これらがよそでは真似できない魅力や個性にもなっているということ。

 ビルとか橋とか道路、水道ガス電気などのパイプラインとか、脅かされると生命維持の危険が出てくるようなインフラがしっかりしているのは、それこそが国力であるとも思うし「ま、合格点でいっか」とは、なかなか行かないところだから、しっかりしていて欲しいと思うし。

 このあたりのバランスのとり方、職種や業種でうまいことすみ分けできたらいいんだろうけど、ま、そんな器用なことにはきっとならないんだろうな、と、諦め半分慣れ半分。自分だって偉そうなこと言えないし。

 人付き合いと同じで、違いが楽しいし、長所と短所の根っこは一つなんだなと思う。

 早く旅行行きたいなぁ。。。。

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