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熱戦の記憶 ~あの名馬を追いかけて~ マイルCS編 (1989年オグリキャップ)


週末のG1の過去を振り返る番外編です。

競馬が、馬が大好きで仕方ない僕が、週末に行われるG1を対象に、
独断と偏見で一番好きなレースの年を回顧しています。

最近競馬始めたよという方や、一昔前の競馬を見たことが無いよという方には是非見てもらいたいです。
今の競走馬でも、血統表の2代3代上に名前がある馬などもいると思います。
知っている名前があると、物事って楽しくなりますよね。
競馬のギャンブル以外の観点での楽しさに気づいて頂けると僕としては嬉しいです。

今回はマイルCS編。
オグリキャップがバンブーメモリーとの死闘を制した1989年を振り返ります。

芦毛の怪物。
第二次競馬ブームの火付け役となったアイドルホースのオグリキャップ。

名レースだらけですが、今回紹介するのは現代では、いや当時でも考えられないようなローテで臨んだ1989年のマイルCSです。

迎え撃つのは遅咲きの大器。
後続各馬は完全に脇役に成り下がるのでした。


1989年のマイルCS。
この年は当初バンブーメモリーの1強ムード。
しかし、秋の天皇賞をスーパークリークの2着と落としたオグリキャップが急遽参戦を表明したことにより様相一変。

「1強に1強が加わった」ことにより、完全なるマッチレースのような雰囲気になりました。

1番人気は1枠1番。「単枠指定」オグリキャップ。
笠松から中央に殴り込みをかけてきた4歳(旧表記:今でいう3歳)春でしたが、当時はクラシックの追加登録制度が無く、クラシックへの出走は叶わず。
ただ、毎日杯で負かしたヤエノムテキが皐月賞を勝つと、ダービーはヤエノムテキに代わってサクラチヨノオー、菊花賞はスーパークリークと世代は群雄割拠。
そんな中で、クラシックに出れないオグリはというと、秋は毎日王冠で先輩ダービー馬シリウスシンボリに完勝。
その後は秋古馬三冠路線に進みます。
ここで立ちはだかるのが1つ年上、同じ芦毛の「白い稲妻」タマモクロス。
天皇賞、ジャパンカップと先着を許し、有馬記念で雪辱を果たし1着。
タマモクロスが引退した翌年、1989年はケガにより春は全休。
始動戦のオールカマーを楽勝すると、毎日王冠では大井から来たイナリワンに競り勝ち1着。
そして1番人気で迎えた秋の天皇賞はというと、早仕掛けで押し切りを狙ったスーパークリークに届かずの2着。
初めて同世代に敗戦を喫したこのレースが転機でした。
陣営が次走に選んだのはジャパンカップではなくマイルCS。
なんと、そこから連闘でジャパンカップに臨むという信じられないローテが組まれました。
マイルCSに来るとなると相手関係は一気に楽で、実績も断然。
強いての懸念はニュージーランドT以来となる1600mのマイル戦。
ズブい面もあるオグリキャップが最内に入るとどうなのかという見立てもありました。
それでもあくまで実績は断然。遅咲きのバンブーメモリーの1強ムードに待ったをかける形になったオグリキャップは当然のように1番人気。
鞍上は今秋から乗っている「宿敵」タマモクロスの主戦だった南井克己J。
単勝、複勝、枠連しかなかった当時の競馬において、断然人気が想定される馬にしか施されない「単枠指定」という制度。
当然オグリキャップは単枠指定で、1枠1番、唯一の白帽子。
単勝オッズは1.3倍と売れに売れました。

2番人気は当年安田記念の覇者、3枠4番「単枠指定」バンブーメモリー。
ダートから始まった馬生ですが、5歳(旧表記)春に芝にスイッチされたレースを制してオープン入り。
シルクロードSでも3着とすると、迎えた安田記念では10番人気の低評価を覆す鮮烈な差し切り勝ち。
完全に開花した素質は宝塚記念でもイナリワンに置かれたものの5着と健闘。
当時中京芝2000mのG2だった高松宮杯でもダービー2着馬メジロアルダンの2着とすると、休み明けで臨んだ秋初戦のスワンSを大楽勝。マイルCSの圧倒的大本命候補に躍り出ます。
しかし、オグリキャップの出走表明により事態は一変。
バンブーメモリーには少し距離が長かったとは言え、宝塚記念の勝ち馬イナリワンを毎日王冠で下したオグリキャップとなると実績面での差が歴然。
ただ、覚醒したバンブーメモリーにとっては得意のマイル戦で、庭のような舞台では怪物相手でも譲れません。
ファンもオグリキャップ相手でもという期待はオッズにも表れます。
手綱を取るのは弱冠20歳の武豊J。スーパークリークで菊花賞と秋の天皇賞、シャダイカグラで桜花賞、そしてイナリワンで春の天皇賞と宝塚記念とこの時点で既にG1を5勝。
秋の天皇賞でオグリキャップをスーパークリークで破った「天才」を迎えた陣営も熱がこもります。
単勝オッズは4.0倍でした。


3番人気はホクトヘリオスでしたが、人気を背負った安田記念でバンブーメモリーに完敗。
その後も精彩を欠き、スワンSでも完全にバンブーメモリーに勝負を付けられたのもあり、単勝オッズは15.9倍。
以下シヨノロマン、トウショウマリオと続きましたが、オッズ差は歴然。

オグリキャップとバンブーメモリー。
完全なる2強ムードの中、ゲートが開くのでした。


スタートはバラつきました。
メイショウコブラが立ち遅れると、オグリキャップもあまり良い出ではありません。
まずは外からナルシスノワールのテンが速く、内に切り込みながらハナを主張。内からミリオンセンプーも前に行く構え。
手綱を押して押してエイシンハピネスですが、内からトウショウマリオが交わして3番手。
外からグレートモンテとホリノライデンですが、オグリキャップはこの内、7番手まで盛り返します。ですが行きっぷりが今一つなのか、南井Jは促しながら。
その後ろは中団。
外にシヨノロマンは4番人気。内にイーグルシャトー、ルイジアナピットとウィニングスマイル。
そしてその内に構えたのがバンブーメモリーと武豊J。オグリキャップよりも後ろで運び、末脚に賭けます。
その後ろにメイショウコブラが盛り返し、ここまでが中団。
後方勢はホクトヘリオスとヒデリュウオーが2馬身ほど切れて追走。
さらに3馬身切れてサンキンハヤテ。シンガリはさらに4馬身5馬身置かれてカミノテンホーといった展開。

前半600mは35秒3で通過と当時を考えればやや速い流れ。
ただ、先頭に立ったのはミリオンセンプーで、ナルシスノワールは5番手まで下げました。
京都外回りコース3コーナーの坂を登って各馬まだ動きませんが、坂の下りに入るとオグリキャップはナルシスノワールの外に切り替えます。
ただ、南井Jはしきりに手を動かし、手応えがあまり良くなさそう。
対照的だったのがバンブーメモリーでした。
坂を下って残り600m地点に差し掛かると、馬なりのままオグリキャップの外に並びかけます。
内で必死に手綱を動かす怪物の姿を尻目に、迎えた4コーナーで武豊Jは内のオグリキャップの進路を締めつつ、自らは一気に外に出す選択。
20歳がやることとは思えません。
久々マイルの追走に戸惑い、手応えの良くない怪物オグリキャップ。
対するはライバルを抑えてスムーズに外に出したバンブーメモリー。
4コーナーから直線に向きます。

直線に向くと、内に押し込められたオグリキャップはすかさず外に切り替えますが、それを見逃さないバンブーメモリー武豊Jがすぐさま内に寄ると、前を行くホリノライデンが壁になってオグリキャップの進路がありません。
内には速い流れで一杯になった逃げ先行勢が垂れてくると、いよいよオグリキャップは出しどころが無く万事休すかと思われました。
バンブーメモリー武豊Jはオグリキャップの進路を締め、前を行くホリノライデンを外から交わして堂々先頭に躍り出ます。

しかし、本当の勝負はここからでした。
かなり苦しくなった先行勢の失速が顕著で、後退するミリオンセンプーを見るや否やオグリキャップの南井Jは最内に切り込みます。
先頭はバンブーメモリーが完全に抜け出しています。
ホリノライデンが抵抗できず苦しくなると、内からオグリキャップが2番手に上がってバンブーメモリーを追います。
後続はというと遥か後方。
先行勢に苦しい流れで、大外から後方待機のホクトヘリオスの末脚が目立ちますが、到底前の2頭には届きそうもないです。

1発2発と武豊Jの左ムチがバンブーメモリーに飛ぶと、追い出しの遅れたオグリキャップを突き放しにかかります。
苦しいオグリキャップ。南井Jも懸命に右ムチを奮って相棒を鼓舞。
前の馬は毎日王冠でお前が負かしたイナリワンに歯が立たなかった馬だぞ。
ここで負けてどうするんだ。

オグリキャップがそれに応えたのは残り200mのハロン棒を通過した瞬間でした。
前を行くバンブーメモリーとの差が詰まり始めます。
2馬身あった差は残り100mで1馬身になると、バンブーメモリーも自身の庭では怪物相手でも譲れません。
武豊Jも迫る気配に対して懸命に右ムチを奮って粘ります。
それでも一完歩ずつ、確かに迫ってくる怪物。
残り50mでその差が半馬身になると、ついに並んだところがゴールイン。
首の上げ下げは全くの同時。
両者譲らない熾烈なデッドヒート。軍配はどちらかなんて全く分かりません。
内のオグリキャップ南井J、外のバンブーメモリー武豊Jとも手が上がることはなく、勝負は写真判定に委ねられました。

長い長い写真判定の末、軍配が上がったのはオグリキャップ。
先に抜け出したバンブーメモリーはハナ差2着でした。
ただ、オグリキャップ相手に使えるものは全て使いました。
早めに外から並んで、勝負所で進路を2回も締めて、自身はスムーズに抜け出して自慢の末脚を活かせる絶好の展開。

バンブーメモリー。
ハナ差の完敗でした。


オグリキャップの南井Jは勝利ジョッキーインタビューで何度も言葉を詰まらせました。
前走スーパークリークに敗れたことがよほど悔しかったのでしょう。
「勝って当たり前」の馬に乗って、プレッシャーもかなりのもの。
最後の直線では、その執念が馬に宿ったかのような末脚で差し切り。
「オグリに借りはまだ半分しか返せていない」とも語り、
「来週のジャパンカップでは倍にして返したい」と強い決意を表明するのでした。


オグリキャップはその後、宣言通り連闘でジャパンカップに臨みます。
好位で運び、前を行くホーリックスとのマッチレースになりますが、粘るホーリックスを捕らえることは出来ず首差の2着。
しかし、走破時計は2分22秒2のと当時の世界レコード。
昨年敗れたペイザバトラーは完全に振り切っただけに、とんでもないローテの中でのこの走りは多くのファンの目に焼き付きました。

その後のオグリキャップはというと後は皆さんの知っての通り。
感動的なエピソードなので、是非調べてみて欲しいと思います。


そして2着のバンブーメモリー。
この馬もオグリキャップ同様、なんと連闘でジャパンカップに駒を進めます。
ただ、こちらはローテはもちろん、距離も長く13着と大敗。
その後は少し歯車が狂う時期もありましたが、翌年秋は天皇賞を3着とすると、マイルCSは断然人気に応えられずの2着。しかし、暮れのスプリンターズSで差し切り勝ちを収めるなど、随所に強さを見せました。
更に翌年は春で燃え尽き、ダイイチルビー、ケイエスミラクル、ダイタクヘリオスら年下馬に引導を渡される形となり、3度目のマイルCSを最後にターフを去るのでした。


~終~


いかがでしたでしょうか。

バンブーメモリーは僕の中では最強マイラーの1頭。
そんなバンブーの庭にもかかわらず、オグリキャップが力でねじ伏せてくるあたり、やはり怪物だなと。

オグリキャップの名レースは選べません。
ラストランの有馬記念も、タマモクロスとの激闘だって全てがベストバウト。
今回はマイルCSということで取り上げましたが、この先もずっと語り継がれていくであろう名馬ですね。


さて、今週のマイルCSはもう現役生活は長くないであろうシュネルマイスターに対して、連覇を狙うセリフォスと2強ムードとも取れますが、メキメキ力を付けているエルトンバローズや堅実末脚ソウルラッシュ、ワンチャンスを狙うレッドモンレーヴやジャスティンカフェなど思った以上に粒揃い。
阪神から京都に戻って、どんな熱戦が繰り広げられるか楽しみです。

11月19日。
最強マイラーの栄冠に輝くのはどの馬でしょうか。

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