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熱戦の記憶 ~あの名馬を追いかけて~ 天皇賞・秋編 (2008年ウオッカ)


週末のG1の過去を振り返る番外編です。

競馬が、馬が大好きで仕方ない僕が、週末に行われるG1を対象に、
独断と偏見で一番好きなレースの年を回顧しています。

今回は天皇賞・秋編。
ウオッカが制した2008年を振り返ります。

競馬史に残る名レースですね。
ゴール前に関しては一つ思うところはありますが(笑)


わずか2センチで決まった天国と地獄。
宿命のライバル対決を振り返ります。


2008年の天皇賞・秋。
この年はわかりやすく3強対決の雰囲気でした。

1番人気は7枠14番、前年のダービー馬のウオッカ。
前年、2007年に牝馬としては64年ぶりとなる日本ダービー制覇を成し遂げた名牝。
ただ、その後のレースでは精彩を欠くものが多く、決まって東京競馬場以外のレースでした。
ただ、東京では無類の安定感を誇っていたものの、4歳を迎えた秋初戦、断然人気で迎えた毎日王冠では好発を決めすぎてしまいハナに。
直線は楽な手応えで圧勝かと思われましたが、スーパーホーネットに目標にされてアタマ差の2着。
負けられない場面でしたが、あくまでも目標は天皇賞。
ライバルのダイワスカーレットとは破れた秋華賞以来の対戦となります。
直接対決は1勝3敗。
チューリップ賞こそ楽に差し切りましたが、その後は先着することができず。しかし、直線の長い東京ならダイワスカーレットを差し切れるというのもあったのでしょうか。
終わってみれば1番人気で本番を迎えるのでした。
鞍上は武豊J。単勝オッズは2.7倍でした。

2番人気はダイワスカーレット。
ウオッカの宿命のライバルとはいえ、直接対決で敗れたのはチューリップ賞のみ。
そのチューリップ賞はウオッカの強さが目立ちましたが、以降はダイワスカーレットの強さの方が遥かに目立っていました。
確かなテンの速さ、牝馬とは思えぬ雄大な馬体からくるスタミナとパワー、類まれなる勝負根性を武器に古馬牡馬相手でもねじ伏せてきて、ここまで全連対。
前走は春の産経大阪杯(当時はG2でした)で後の宝塚記念を制することになるエイシンデピュティ相手に逃げ切り。
ただ、その後は脚部不安によりしばらくの休養。
7ヶ月ぶり、復帰初戦となったのがこの天皇賞の舞台でした。
加えてダイワスカーレットは東京で走るのはこれが初。
脚質は逃げ。
長い直線では最後まで粘るのはどうなんだというのが大方の見方。
全連対という抜群の安定感があっても、ここまで先着を繰り返してきたライバル、ウオッカの2番人気に甘んじることになりました。
鞍上は安藤勝己J。単勝オッズは3.6倍でした。

3強の一角をなす3番人気は当年のダービー馬、1枠2番のディープスカイ。
初勝利には6戦を要しましたが、格上挑戦となった毎日杯を制すると、勢いそのままにNHKマイルCを制すると、返す刀で日本ダービーも制覇。
四位Jは前年のウオッカに続いて日本ダービー連覇の偉業を達成すると、秋初戦は神戸新聞杯を快勝。すると秋は天皇賞を選択。
ダイワスカーレットとはもちろん、ウオッカとの新旧ダービー馬対決に注目が集まりました。
G1レース2勝を含む目下4連勝中の勢いは大きく、ウオッカ、ダイワスカーレットと並んで3強を形成しました。
鞍上は四位洋文J。単勝オッズは4.1倍でした。

以下4番人気のドリームジャーニーは14.6倍、5番人気のタスカータソルテは20.6倍と、レースは完全に3強ムード。
最強の名を懸けて、2分間の戦いの幕が上がります。


スタートは大外のドリームジャーニーが立ち遅れ。
ハイアーゲームもあまりいいスタートではありませんでした。
注目の先行争いですがダイワスカーレットが相変わらずの好スタート。
安藤勝Jも迷いは無さそうで、ハナを主張すると、続いたのが外キングストレイル、内に菊花賞馬アサクサキングス。
4番手は内で口を割りながらディープスカイがこの位置。交わして外からアドマイヤフジと若き川田J。
外にトーセンキャプテンとペリエJが5番手6番手。
そしてウオッカはその後ろ、内にサクラメガワンダーとエアシェイディを置いた内から3頭目、武豊Jは中団前目を選択しました。
中団にタスカータソルテのルメールJはウオッカをマークするような恰好。
外ハイアーゲームが続き、その後ろにアドマイヤモナークが中団後方。
その後ろに衰えを見せていた古豪ポップロック。
その後ろが後方集団。
内に函館記念3連覇のエリモハリアー、外にオースミグラスワンが後方3番手。
そこから4馬身ほど切れて後方2番手にカンパニーと横山典J、そしてまた2馬身切れて最後方に出遅れたドリームジャーニー。池添Jはシンガリからの競馬を選択しました。

レースを引っ張るのはダイワスカーレット。
トーセンキャプテンが2番手まで押し上げ、逆にディープスカイは一歩引いて中団前目の6番手を追走。そしてその外ウオッカがいてと、3強の位置取りは比較的前です。

3コーナーに差し掛かって前半1000mは58.7。
いかにもダイワスカーレットらしい淀みのないペースで、各馬淡々と流れていきます。
ただ、放っておくと今まで影も踏ませてもらえなかった各馬。
それでも絶妙なペース配分に動けず、大ケヤキを越えて4コーナー残り600mの標識を通過するとダイワスカーレットはペースアップ。
位置取りは変わらずも、チラっと外のウオッカを確認したディープスカイ四位Jの手が動きます。
すかさずウオッカも進出。

ここから526mの長い直線で、歴史に残る叩き合いが繰り広げられるのでした。

直線を向いてダイワスカーレットは楽な手応え。
追い出しを我慢して我慢して安藤勝Jしきりに後方を確認。
忍び寄るディープスカイとウオッカを視認すると残り400mで追い出し開始。
しかし、先に動いたディープスカイと連れて上がっていたウオッカが東京巧者の本領発揮。
抜群の切れ味を見せると、みるみるうちにダイワスカーレットとの差が詰まっていきます。

坂を登って残り300m。ここからダイワスカーレットも持ち前の渋とさを発揮。簡単には交わさせまいと安藤勝Jも必死に風車ムチを飛ばします。

しかし、ここはダービー馬の庭、東京競馬場。
残り200mでウオッカが豪脚を発揮。
ディープスカイに並びかけると、そのまま内で離れたダイワスカーレットを並ぶ間もなく交わします。懸命に食い下がるディープスカイもダイワスカーレットを交わし、新旧ダービー馬同士の決着の雰囲気。
内で懸命にダイワスカーレット安藤勝Jは何度も外を見ながら相棒に檄を飛ばします。

その後ろではエアシェイディとサクラメガワンダーは完全に切れ負けしながらもジリジリ伸びています。大外からはオースミグラスワンも脚を伸ばし、
間苦しくなったアドマイヤフジ。
替わって内を突いて一気に上がってきたのは道中離れたシンガリ2番手のカンパニーと横山典J。ダイワスカーレットを交わせそうな末脚で迫ります。

そして、残りは100mに差し掛かったその時でした。

「私はまだ終わってない」

そう聞こえたかのような内のダイワスカーレットが執念の二枚腰を使ってもうひと伸びふた伸び。
一度は完全に勝負を決められたかのように見えたディープスカイを差し返すと、後はウオッカとの一騎打ち。

ディープスカイとウオッカは早めに動いた分ラストが苦しくなっているのか脚が鈍ります。迫るダイワスカーレットと安藤勝J。
女傑2頭とダービー馬の3強が繰り広げる異次元の直線勝負。
残り50mで真ん中ディープスカイがわずかに競り落とされると、宿命のライバル同士の壮絶な叩き合いです。
もうひと伸びしたダイワスカーレットに外から懸命にウオッカですが、ダイワスカーレットが完全に出ました。

ここで決着かと思われました。
安藤勝Jも手綱を緩めたかのように見えたゴールライン上。
しかし、ゴールライン上では内ダイワスカーレットと外のウオッカは完全に並んでいました。
ゴール後は両者手を上げず。
両者とも全く分かりません。

真ん中のディープスカイは半馬身ほど遅れ、最後一気にカンパニーが強襲して3着争い。
しかし3着はディープスカイが死守しました。

勝ちタイム1分57秒2はこれまでの記録を0秒8も更新するスーパーレコード。
前の馬がこんなレースをしては後方各馬は為す術がありません。
最も、カンパニーは別ですが。

勝敗の行方は写真判定。
この写真判定が15分に及びます。
映像越しにはカメラワークも相まってダイワスカーレットが優勢に見えました。
安藤勝Jも手綱を緩めていたし、これはダイワスカーレットが意地を見せたでしょう。

しかし、軍配が上がったのはなんとウオッカでした。
検量室の武豊Jは噛みしめるようにガッツポーズ。
ダイワスカーレットはまさかの2着。

その差は2センチでした。

これだけのレースをしてハナ差どころか、たった2センチで決まった勝敗。
勝負の世界は残酷です。

同世代としてクラシックで火花を散らし、お互い古馬相手に刃を研いで1年後に再び相まみえた頂上決戦は、今度はウオッカが意地を見せる結果になるのでした。

ダイワスカーレット側としては最後まで追い通していればとも思いたくなる瞬間でした。
ただ、勝負の世界にタラレバは厳禁。
過去にはビリーヴのラストランで、デュランダルに似たような形で敗れた安藤勝J。
まあ、それも競馬と言うとなんだか綺麗になりますね。


見事に優勝を飾ったウオッカはその後ジャパンカップに出走。
ただ、激闘の疲労もあったのか精彩を欠いて3着。
5歳を迎えた翌年はドバイで始動しますが、東京専用機のウオッカには舞台が合いませんでした。
国内初戦のヴィクトリアマイルで後続を7馬身ちぎり捨てると、安田記念では絶望的などん詰まりからなんとかこじ開け、たった100mだけでディープスカイをねじ伏せます。
秋には衰えを見せ始めましたが、ルメールJによってジャパンカップで辛くも勝利。
更に翌年もドバイからの始動を試みますが、これまでも起きてた度重なる鼻出血により引退。
最後はスッキリしない現役生活となりました。

対照的なのはダイワスカーレット。
なんとその後に選んだ2度目の有馬記念がラストラン。
ここには2冠馬のメイショウサムソンや、ジャパンカップを制したスクリーンヒーロー、更には前年の覇者マツリダゴッホも出走してきましたが、ダイワスカーレットはいつも通りハナに。
先行集団で虎視眈々と好機を窺った有力各馬でしたが、
ダイワスカーレットは逃げて道中緩めたと思えば残り1000m程から一気のペースアップ。
これに先行集団は全くついて行けず、先行馬総バテの展開。
肝心のダイワスカーレットはというと涼しい顔で後続に影も踏ませぬ圧勝劇。
2着にはシンガリ待機のシンガリ人気、アドマイヤモナークが川田Jの豪快なアクションとともに飛んでくる顛末で、ダイワスカーレットは引き連れた13頭を子供扱いしてターフを去るのでした。
生涯成績は12戦8勝2着4回。
一度も連対を外さない怪物っぷりで、歴代最強の逃げ馬との呼び声も高い馬です。

3着のディープスカイはその後は一線級相手に安定こそするものの、勝ち切ることは出来ずに翌年の宝塚記念を3着とすると、その後屈腱炎が判明。
急逝した父アグネスタキオンの血を引き継ぐ者として、現役生活からは退くのでした。

4着のカンパニーは8歳を迎えた翌年に覚醒。
これまではG1では善戦止まりでしたが、毎日王冠で負かしたウオッカを天皇賞でも破ると8歳馬のカンパニーはこれが嬉しいG1初制覇。
返す刀でマイルCSをラストランと位置付けると、直線は馬場の真ん中を力強く突き抜け、今がまさにピークと言わんばかりの状態でターフを去るのでした。


~終~


いかがでしたでしょうか。

僕が競馬に出会ったのは2008年の宝塚記念です。
その秋にこんなレースを見せられたらもう虜ですよね。
運命的な出会いだったと思っています。

さて、今週の天皇賞・秋もまるでウオッカとダイワスカーレットかのような宿命のライバル対決ですね。
火花散らすワンツーか、はたまた伏兵の一発か。


10月29日。
今年は超満員かもしれません。


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