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熱戦の記憶 ~あの名馬を追いかけて~ 有馬記念編 (1993年トウカイテイオー)

五分沙汰してますこのコーナー。
週末のG1の過去を振り返る番外編です。

競馬が、馬が大好きで仕方ない僕が、週末に行われるG1を対象に、
独断と偏見で一番好きなレースの年を回顧しています。

最近競馬始めたよという方や、一昔前の競馬を見たことが無いよという方には是非見てもらいたいです。
今の競走馬でも、血統表の2代3代上に名前がある馬などもいると思います。
知っている名前があると、物事って楽しくなりますよね。
競馬のギャンブル以外の観点での楽しさに気づいて頂けると僕としては嬉しいです。

今回は有馬記念です。
トウカイテイオーが勝った1993年を振り返ります。

転んでも、立ち上がり。また転んで立ち上がり。
これは不屈の闘志で、諦めずに何度も前を向いた「天才」の物語です。


1993年の有馬記念。

1番人気は8枠13番、4歳(旧表記:今でいう3歳)最強格にしてすでに現役最強との呼び声も高かったビワハヤヒデ。
クラシックはBNW(ビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ウイニングチケット)の3強を形成し、熱戦を繰り広げていました。
皐月賞はナリタタイシンの豪脚に屈し、ダービーはウイニングチケットに競り負け。ただ、先行力を武器に堅実な末脚を繰り出すビワハヤヒデは、総合力では上でした。
菊花賞でステージチャンプ以下をちぎり捨て、レコードで完勝した後、満を持してこの舞台に。
デビューからここまで1度たりとも連対を外しておらず、今回の古馬勢は有力どころも精彩を欠いていた馬が多く、当然ここでも人気の中心でした。
鞍上は岡部幸雄J。単勝オッズは3.0倍でした。

2番人気は6枠9番、レガシーワールド。
本格化こそ遅かったですが、92年のジャパンカップを人気薄ながらトウカイテイオーの4着と善戦すると、有馬記念もメジロパーマーの2着。
古馬になった翌93年は圧倒的人気を背負ったAJCCを2着と落とすと、秋は京都大賞典でメジロマックイーンの2着と好走。
極めつけはジャパンカップで、コタシャーンをはじめ、世界の強豪が人気の中心の中、5番人気のレガシーワールドは番手から早めに抜け出すとコタシャーン以下を完封。まさかのタイミングでG1のタイトルを手にします。
そして臨んだ今回の有馬記念。勝ち切れない面はあるものの、安定感が出てきた当時は昨年2着の実績も相まってここでも期待されていました。
鞍上は河内洋J。単勝オッズは4.9倍でした。

3番人気は7枠11番、BNW3強世代の一角を形成するダービー馬ウイニングチケット。
皐月賞まではクラシック最有力候補でしたが、その皐月賞は伸びを欠きまさかの敗戦。
威信をかけて臨んだ日本ダービーは中団後方から早め進出。直線で早めに先頭に立つと内から迫るビワハヤヒデ、外からナリタタイシンの猛追を凌いで1着。鞍上の柴田政人Jにダービージョッキーの称号をプレゼントしました。
ただ、菊花賞は太めが抜けきらずビワハヤヒデに大きく離された3着とすると、絞って臨んだジャパンカップは中団前目から脚を伸ばすもレガシーワールドとコタシャーンに及ばず3着。
ただ、凡走しているわけではなく、横の比較で3番人気になるのは納得できる実績がありました。
鞍上は柴田政人J。単勝オッズは5.4倍と食い下がりました。

4番人気は3枠4番、トウカイテイオー。
「皇帝」シンボリルドルフを父に持ち、トウカイテイオーも無敗、それもとてつもない強さで皐月賞、ダービーを制し、無敗の2冠馬に輝きます。
三冠間違いなしと思われた矢先、まさかの骨折。
三冠が叶わなくなり、菊花賞を制したのはダービーで完全に封じ込めたレオダーバンでした。
復帰戦となったのは翌年4月の産経大阪杯。
今現在はG1大阪杯ですが、実はここ最近までは産経大阪杯というG2でした。
10か月半ぶりの実戦を大楽勝で飾ると、次走はメジロマックイーンとの「TM対決」天皇賞・春に駒を進めます。
テイオーの岡部Jが「地の果てまで走りそう」と話すと、マックイーンの武豊Jは「こっちは天まで昇りますよ」とレース前から舌戦を繰り広げ、圧倒的な2強ムードを形成。
ただ、レースは距離も長かったのか、まさかの失速で5着。
ライバルのマックイーンの圧勝で幕を閉じると、再びの骨折。
回復は早く、秋の天皇賞で復帰しますがこちらは7着と大敗。
続くジャパンカップは意地を見せ1着に輝きますが、暮れの有馬記念は馬体減が響いたか、まさかの11着。
その後またもや骨折。3度目です。
これが長引いて復帰戦となったのは92年有馬記念から1年後の有馬記念。
なんと1年の間隔にもかかわらず、陣営は有馬記念を選択してきました。
ただ、間隔も長く、ビワハヤヒデら新世代の強豪ひしめく今回は「もうテイオーは終わった」、「無事に回ってくればそれでいい」との声も多く、かつてのような大きな期待はされず。骨折明けで有馬記念ですから無理もありません。
鞍上は前走に引き続き田原成貴J。単勝オッズは9.4倍と離されました。

5番人気は4枠6番、「黒い刺客」ライスシャワー。
ミホノブルボンの3冠を阻止して菊花賞を勝ったり、メジロマックイーンの天皇賞・春3連覇を阻止するなど偉業を阻む「刺客」として悪役だったライスシャワー。
ただ、ステイヤーらしく中距離では今一つ。
この秋は天皇賞6着、ジャパンカップに至っては14着と大敗した後の有馬記念。
舞台は悪くないものの、幾分劣る雰囲気もあり伏兵評価に甘んじました。
鞍上は的場均J。単勝オッズは10.9倍でした。

以下、当年2冠牝馬のベガ、秋の天皇賞2着のセキテイリュウオーと続きますが、人気3頭は少々抜け気味。
ビワハヤヒデ、ウイニングチケットの牡馬クラシック世代、そこにレガシーワールドがどれだけ割って入れるかという雰囲気。
他にも前年の覇者メジロパーマー、2年連続有馬記念3着のナイスネイチャなど脇役もびっしり。
暮れの大一番のゲートが開きます。


スタートは大外メジロパーマーが好ダッシュ。
内からはトウカイテイオーも発馬を決め馬なりで前に。
ベガがその内、レガシーワールドは少し立ち遅れて外からトウカイテイオーらを交わして2番手に上がると、その外にビワハヤヒデが早め3番手。
その後ろはホワイトストーン、ライスシャワーとここまでが好位。
中団真ん中に位置どったのが人気の一角ウイニングチケット。
その内エルカーサリバー、真ん中エルウェーウィン、外にナイスネイチャが構えると、後は3頭、セキテイリュウオー、ウィッシュドリーム、シンガリからマチカネタンホイザといった展開。

メジロパーマーが後続を引き離しにかかりますが、2番手レガシーワールドとその後ろビワハヤヒデを除くと、馬群はひと固まりで1周目のスタンド前にかかります。
1周目の直線で外からホワイトストーンが位置を押し上げ、ビワハヤヒデの外に進出。
各馬折り合いに専念しながら声援の飛び交う大観衆の前を駆け抜けていきます。
もう一度隊列を振り返ります。

1コーナーから2コーナー、先頭はメジロパーマーが2馬身リード。
2番手に外からホワイトストーンが上がると、内でじっくりレガシーワールド。
その外ビワハヤヒデががっちりマークするように4番手。
1馬身切れてここにウイニングチケットが少し引っ張りながら。内にライスシャワーが6番手。エルウェーウィンが続くと、その後ろが中団ですが、ここにトウカイテイオーがいます。かなりポジションを下げた格好です。
外にナイスネイチャ、その内にベガもポジションを下げて脚を溜めます。
エルカーサリバー、セキテイリュウオー、その外ウィッシュドリームが後方2番手で、相変わらず最後方にマチカネタンホイザの展開。

3コーナー手前でピッチが上がります。
先頭はメジロパーマーが2馬身から3馬身リード。
3コーナーに入ると、外からビワハヤヒデが動きます。
内で手が動くレガシーワールド。外からビワハヤヒデに合わせるようにウイニングチケットも進出。間にトウカイテイオーも押し上げ、苦しくなったホワイトストーンは後退。

3~4コーナー中間地点で、前を行くメジロパーマーのリードが無くなってきて、半馬身差でビワハヤヒデ、すぐ外にウイニングチケットも上がってきて、やはりクラシック世代かという雰囲気。
その後ろレガシーワールドが手応え劣勢で、外トウカイテイオーも田原Jまだ我慢。さらに外に出してナイスネイチャも上がってくると、暮れの大一番は中山の短い直線を残すのみです。
直線を向くとビワハヤヒデがメジロパーマーを捕らえて満を持して先頭に替わります。楽に追い出して岡部J。まだ余力は十分です。
ウイニングチケットが苦しくなって直線入り口で後退していくと、替わって外からナイスネイチャが上がってきます。内レガシーワールドが食らいつきます。

ビワハヤヒデが抜け出し、楽勝かと思われた矢先、外から懸命に追いすがる馬がいました。

トウカイテイオーです。なんとトウカイテイオーが上がってきました。
そこには何度も折れたか細い脚を懸命に上げ、前に前に走っていくダービー馬の姿がありました。

残り200m。中山の急坂に差し掛かると、ビワハヤヒデ岡部Jは左ムチを飛ばして押し切りを図りますが、外から1完歩ずつ、トウカイテイオーが懸命に脚を伸ばします。
坂を登って残り100m。なんとビワハヤヒデにトウカイテイオーが並びかけると、ここから最後の根性比べ。
ビワハヤヒデも抵抗しますが、相手はくぐり抜けてきた窮地の数が違いました。
トウカイテイオーが力強く交わして抜け出します。
意地です。テイオーには絶対に負けないという強い気持ちがありました。

1着入線トウカイテイオー。奇跡の復活です。

実況も言葉を詰まらせながらテイオーを称えます。
1年ぶりの実戦、誰がトウカイテイオーの勝利を予想したでしょうか。
かつては無敗の連勝街道を突き進み、「皇帝」ルドルフの継承者になるはずだったトウカイテイオー。
骨折し、メジロマックイーンに敗れ、また骨折し、有馬記念で負け、また骨折。
普通なら競走馬生活を終えていてもおかしくないですが、何度転んでも諦めずに立ち上がってきた不屈の帝王。
彼こそが「天才」です。

2着はビワハヤヒデ。
離れた3着にナイスネイチャが食い込み、3年連続の3着となりました。

涙を隠せない田原Jに鳴り止まない15万人の大観衆の「テイオーコール」。
田原Jも「彼自身の勝利です。彼を褒めてやってください」と涙ながらに語ったように、最後の直線で懸命に走るその姿は多くのファンの目に焼き付きました。


トウカイテイオーはその後は春の天皇賞を目標に調整されますが、前哨戦を筋肉痛で回避。そして4度目の骨折。
秋の天皇賞を最後に引退すると発表されますが、回復が悪く、結局復活を遂げた有馬記念がラストランとなりました。
後にも先にも例のない勝利。
記録にも、記憶にも残る名馬でした。

2着のビワハヤヒデは古馬を迎えて本格化。
G1連勝で年内無敗のまま秋の天皇賞に臨みますが、伸びを欠き5着。引き上げる際に岡部Jが下馬し、馬運車に乗せられましたが、屈腱炎を発症していました。
ビワハヤヒデはそのまま引退。全盛期でしたが、惜しまれる怪我でした。
奇しくもこのレースでは同期のウイニングチケットも屈腱炎を発症していました。

3着のナイスネイチャは3年連続の3着。
その後も善戦はするものの、どうもひと押しが利かず勝ち星に恵まれません。結局高松宮杯を勝っただけにとどまり、名脇役に徹した形でした。
あまりの善戦マンっぷりに、その後JRAから「ワイド」という券種が発売された際は、イメージキャラクターに抜擢されるほどの馬でした。

以下マチカネタンホイザ、レガシーワールド含め、終わってみればトウカイテイオーとビワハヤヒデの一騎打ち。
名実ともに抜けていた2頭の叩き合いは、現代では考えられないような復活劇で幕を閉じるのでした。


いかがでしたでしょうか。

このレースは是非映像で見て欲しいです。
懸命に脚を伸ばすトウカイテイオーの姿はいつ見ても大量の涙が出てきます。
競馬の素晴らしさの本質が詰まった1戦だと思っています。


さて、今週はいよいよ有馬記念です。
僕が思いを馳せているタイトルホルダーは念願の内枠。
それもトウカイテイオーと同じ4番枠。
タイトルホルダーも「もう終わった」との声が散見されます。

被りますね。僕はすぐこういう事を考えます。

大好きなタイトルホルダーもついにラストラン。
僕は精いっぱいの応援しかできません。
いつもは「無事に」と言いますが、今回に関しては最後だからこそ。


勝ってほしい。
君が一番強いから。


12月24日、最後の晴れ舞台です。


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