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カエルお取り寄せのこと

やもり、ヘビに続いて、カエルが家にやってきた。

やもりもヘビも、ごはんをお残しすることがあるし、脱皮前に長期間なにも食べないこともある。飼い主は彼らのごはんをシェアできる第3の家族のお迎えを検討していた。そして選んだのが、ベルツノガエルだった。ツノガエルたちは海外で「Pack-man frog」と呼ばれ、大きな口で何でも食べることで知られている。なかでもベルツノガエルは丈夫でよく食べるとのことだった。

近くのペットショップで探してもよかったのだが、さっとひやかしにいったところ、管理が心もとなくそこで迎える気にはならなかった。法律上、両生類は郵送が可能で、遠方のブリーダーからも購入しやすい。カエルに箱の中で旅をさせるのは可哀想だが、状態のよいカエルを迎えるために、今回は茨城県の某ブリーダーから購入することにした。

カエルは小さな箱に入れられて、指定した日時に我が家にやってきた。伝票にサインをして渡すと、男性の配達員さんは少し緊張気味に「これ、“金魚”って書いてありますけど大丈夫ですかね…」と尋ねた。確かに品名の欄には「金魚」と書いてある。「カエル」と書いてあると嫌がる人もいるのだろう。「多分大丈夫だと思います!」と答えておいた。大丈夫かどうかは一刻も早く開封して確認しなければならない。

カエルは大丈夫だった。小さなプリンカップに水苔が敷かれていて、そこにくるまれるように10円玉サイズのベルツノガエルがいた。すみやかにプラケースに移されたカエルは、落ち着いているように見えた。

3日目にさっそく噛みつかれた。床材のウールマットの湿り具合が気がかりで、指で所々押さえて確認をしていたのだが、そこにカエルが飛びついてきたのだ。痛みはなかったが舌のねばりが指に残った。大人のカエルに噛まれると相当痛いらしい。カエルの目の前に素手をひらつかせるのは二度とよそうと誓った。

5日目の水替えの時、カエルは洗面台からの大ジャンプを決めた。1mほどの高さから落ちたカエルの身を丸一日案じたが、カエルは翌日もけろりとしていた。足は短いがカエルは飛ぶのだ。忘れてはいけない。

やもりやヘビは天敵を恐れる習性によって、真上からのアプローチを嫌う。不用意に上から手を伸ばすと慌ててシェルターに駆け込むことがある。そうでなくても彼らは臆病で、飼い主が近付くと驚いてこちらに振り向いたりする。お腹が空いているとぐいぐい寄ってきたりもする。彼らの動きはその点で表情豊かで、何を考えているかも比較的わかりやすい。

一方、カエルは何をしても無表情を崩さない。プラケースの上蓋を開けても平気でいるし、飼い主が近付いてもこちらに振り向いたりしない。お腹が空いているときは、気持ち四肢に力が入っているという程度で、やもりやヘビのようにごはんごはんと近付いてきたりもしない。ただ餌を目の前にちらつかせると、一瞬で食いついて、ぺろりと飲み込んでしまう。余裕で口に入るサイズの餌だと、飼い主が瞬きをする間に消えている。カエルが餌をぐっと飲み込むときには、目をつむって胃に食べ物を流し込む。その時は頭がツルツルになってかわいい。

カエルは自分の糞や尿で自家中毒を起こすことがある。だから、糞をしているのを確認したら、すぐに水を取り換えなくてはならない。そうでなくても定期的な水替えは必須だ。ブリーダーは1週間程度の間隔で水替えをして、環境の変化に慣らすのがよいというが、一方で毎日水替えをするのをよしとする飼育者もある。優柔不断な飼い主は3日に1回のペースで水替えをしている。

無表情でごはんをパクッと食べて、糞を放置すると病気になって死んでしまう。昭和生まれ平成育ちの飼い主は往年の「たまごっち」を思い出す。

落ち着くためにマンションに移ったはずの飼い主はやはり腰が落ち着かず、数年以内に今の町から脱出することを思案している。それまでは新しく生き物を迎えることなく、今の3匹をじっくり育てることになると思う。カエルはしっかり食べさせると大きく育つらしい。楽しみだ。

体色に赤が多く入っている個体を選んだので、名前は「あかだま」にした。10円玉サイズだった「あかだま」は、2ヶ月経った今、「博多とおりもん」くらいのサイズに育っている。



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