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やもりと1年間

やもりとの暮らしを始めてからちょうど1年が経過した。

去年の今日、仕事を早く上がって雨の中爬虫類ショップに足を運んだのだった。あのときショップで見かけたやもりたちは、皆幸せに暮らしているだろうか。うちのやもりが幸せかどうかは顔を見てもさっぱりわからないが、食べて出して1年間、なんだかんだ一緒に暮らしている。体の大きさはそれほど変わらないが、肉付きは少し良くなったようだ。引っ越しの後の便秘を乗り越え、新居にも慣れて、時々はケージの外を散歩するようになった。

やもりを迎えた後、飼い主は爬虫類と人間の部屋を分けられる新居に引っ越したし、ヘビのまろやさんを迎え、ミルワ隊も迎えた。飼い主の生活は変わったといえば大きく変わった。しかし変わっていないといえば変わっていない。

THE MENTALISTを観終わった後も飼い主は相変わらずアマゾンプライムで海外ドラマを見続けている。あるドラマのシーズン10で、シーズン1からずっと出演しているレギュラーメンバーの自宅が初めて公開された。彼は女癖が悪く、さぞかし頻繁に女性を部屋に呼んでいるだろうと思われたが、案に相違してそのベッドルームは簡素なものだった。「ここは僕の聖域なんだ。女友達と会うときは彼女の家に行く。誰もここには招かない。」冷蔵庫の中には果物少々とミネラルウォーターのみ。殺風景そのもののリビングになぜかグランドピアノがある(そのへんの感覚がよくわからない)。

そんな彼が、小さな金魚鉢で金魚を飼っている。金魚には殉職した同僚の女性の名前が付けられていて、彼は金魚に餌をやりながら猫なで声で話しかけている。

思わず「わ、わかるうーーー!」と叫んでしまった。

やもりの飼い主に女癖というものはないが、自宅は飼い主の聖域なのでほとんど人を招かない(というか散らかっていたり推しのカレンダーがバーン!と飾られていたりするためよほど気を許した相手しか招けない)(友だちが少ないともいう)。毎日帰宅するとやもりやヘビの子に「お水換えるで~~」とか「うんちでたな!」とか話しかけている。

飼い主は連邦捜査官ではないのでドラマの人物と自分を同一視してもしかたないのだが、彼が金魚を飼うことを選んだのはなんとなくわかる。(作中では彼の上司にあたるドラマの主人公が金魚を飼っている描写があって、たぶんこれは彼が次第に上司に似た男に成長していることのあらわれでもあるのだろうと思うが、深入りすると早口になりそうなのでこのへんにしておく。)

距離感がちょうどよいのだ。

金魚はお腹が空いていると飼い主の動きに反応してふよふよと寄ってくるが、用のないときはとくに飼い主を必要としない。やもりもそんな感じで、もちろん定期的なお世話は必要だしおねだりもするが、それ以外は放っておいたほうがむしろ落ち着いている。ごはんを食べるだけ食べた後、飼い主のちょっとした動きに反応してシャカシャカ!と逃げてしまうこともある。やもりが精神的に飼い主を必要としていないのは、飼い主としてはけっこう心地よい。飼い主は彼に清潔な住まいと、十分な栄養のあるごはんと、快適な温度を用意してやればいい。そうすれば、飼い主のマイペースな生活の中に、ただかわいいやもりがいる。

爬虫類とのドライな付き合いに病みつきな飼い主ではあるが、仕事でうんざりして帰ってきた時に限って、やもりが手に乗ってきたりする。それはそれでうれしい。

うちのやもりができるだけ快適に、できるだけ長く平和に暮らせますように。

※ 金魚の出てくる海外ドラマはこれです。



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