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一月十五日

少し坂のある草むらに
君は静かに車を停める。

黒いワンピースの内側から
傾斜に吸い込まれるように崩れた姿勢で
私はシートベルトを外し
コートを羽織ってドアを開ける。

(着いたね)

乾いた空気の中に、扉を閉める音がバタンと響く。

砂利の隙間をよろめき歩くヒールの靴
特別な日にだけ纏うことにしたコバルトブルーのカシミアのスカーフ。

(着いた)

何かの区切りが、いまここを通り過ぎようとしている。

今日が最後かもしれないし
またすぐに会うのかもしれない。

そういう時にする(約束の言葉)が
私はいつでも、とても怖かった。

期待を載せず
期待を持たず

約束は時に、人を過去に鎖でつなぐ。
そして未来に前のめるように こころを、季節から切り離してしまう。

今はいちど、さよならを告げておこう。
そういうサイクルを、人はずっと、繰り返してきた。

この屋根も
階段も   グラスも
庭も 玄関の花も  みんな

君と私が暮らしていた日を
きっと覚えていることだろう。

しばらく街並みを眺めたのち
ふたりは再び、車に戻る。

ゆっくり、前へ。

そして次に車を停めるところは、
別々に向かう、旅の出発点。

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