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After that day#1

「………痛ッ」
痛みと共に鉄の味がして、ようやく我に帰った。
無意識のうちに自分の指を強く噛んでいたようだ。生温い感覚と共に、掌を赤い雫が伝わっていく。それが肌から離れる前に舐め取った。
「……はぁ…」
ため息まじりに俯く。ここのところ活気がないのは自分でもわかっていた。仕事にも全く身が入らず、普段なら失敗しない"芸術的にさくらんぼを乗せる"作業もミスを繰り返していた。
自分だけではない。4人ともまだどこか上の空というか、空元気な部分が少なからずある。

​───蒼い蝶が羽ばたいた、あの日から。

誰かが言った。ヒトは失ってから初めて大切なものの大きさに気づくのだと。どうやらそれは、悪魔にとっても同じらしい。
お隣の事もあったのに、心のどこかで甘く考えていた。ウチは誰かがいなくなるはずはないと。だってぼくたちは『家族』なんだから。ぼくたちを『家族みたい』って言ってくれたのは、他でもないあの子なんだから。

なんで?
どうして?
ぼくのこと好きって言ったじゃない。
じゃあどうして一緒にいられないの?

​(───ダメだ。これ以上は…)
頭を振って思考を止めた。あれから何度も考えたが、決まって碌な答えは浮かばないし、何より"その先"を考えると、あの子の事を嫌いになってしまいそうで。
(……あれからどれだけ経ったと思ってるんだ…)
未だに立ち直れない自分が情けなくなってくる。あの日から数ヶ月経った今でも、心ここにあらずといった雰囲気があるのは自分だけだろう。皆はもう元の生活に戻っているように見えた。
(でも、忘れられるわけないじゃん…)

あんなに好きを貰ったのは、初めてだったから。

ピロン、とスマホから通知音がして顔をあげた。もうすっかり夜も深い。こんな時間に誰からだろうか。スマホを手に取り、通知欄を見る。
「…………!!!」
全身の血が一瞬で沸騰した。まさにそんな感覚を覚えた。さっきまで白黒の異世界にいた自分が、突然色鮮やかなこの世界に引き戻されたような。
『お元気ですか。』
そう題されたメッセージは、とてもではないが一読できる量ではなかった。あまりの長文に少し頬が緩む。
ひと通り目を通してみる。長めの謝罪から始まり、近況の報告が多く綴られ、最後のほうにようやく本題と思われる部分を見つけた。
『約束を果たしましょう』
「……遅いんだよ、ばか」
そうひとりごちて、堰代ミコはにやりと嗤った。

*  *  *


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