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After that day#2

​───やった。ついにやったぞ……

馬鹿みたいに心臓の鼓動が速い。自身過去最速を記録しているのではないだろうか。むしろ強すぎて痛みまである気さえする。
未だ手が震えているし、何ならさっき過換気になりかけてしまった。呼吸を整えつつ、スマホの画面を見る。

そこには、送信ボタンを押すまでに3時間ほどを要した、堰代ミコ宛ての長文のメッセージが表示されていた。ここ1週間ほど推敲に推敲を重ねて、ついに意を決して先刻送信したのだ。

(………!!)
やっと動悸も落ち着いてきた頃、メッセージに『既読』の文字がついた。今度は少し眩暈を覚える。スマホが、世界が横に揺れ始めた。

(落ち着け、蒼月エリ……お前は覚悟を決めたんだろ)
目を閉じたまま、心の中で自分に語りかける。視界の揺れも緩やかに沈静化していく。深呼吸、深呼吸。そしてゆっくりと瞼を開く。地震ナシ、信号オールグリーン。

(……ミコちゃん、きっと怒ってるだろうなぁ…)
結局、あれから一度も連絡できないまま数ヶ月が経過していた。実は、他の3人にはもう連絡を取っている。ただ1人、堰代ミコにだけ連絡できないまま、いたずらに時間だけが過ぎていった。

そう、私は怖かったのだ。
彼女に嫌われたかもしれない。あんな別れ方をしたのだ。全部自分が悪いことなんてわかっている。それでも、改めて彼女に拒絶される事のほうがよっぽど怖かった。
このまま自然消滅したほうが、或いは幸せなのかもしれない。そんな事も考えたが、結局忘れる事など出来なかった。何をしていても罪悪感は消えないし、何より、別れ際の彼女の表情が網膜に焼き付いて離れない。

​───だから、ちゃんと覚えておいて。ぼくのきもち。

1人になって、新しい世界へ飛び込んだ。右も左もわからずに、挫けそうになるたび、彼女のあの言葉が蘇った。私は1人じゃない。そう思うだけで強くなれた気がした。

(……忘れられるわけないんだよなぁ)
もはや表面上だけの付き合いではなかった。しまむーが私達の"同僚"という名の壁をぶっ壊して"家族"にしてくれた。常識に囚われないあの子には本当に感謝している。あの子がいなければ、今の私達の関係性は無かったと断言できる。

そう、"家族"なのだ。たとえ離れ離れになったとしても、私達はその絆で繋がっている。


ピロン、とスマホから通知音が鳴り、心臓が跳ね上がった。恐る恐る画面を見る。

『遅かっちゃけど、どうなっとーと😡💢』

思わず頬が緩んだ。怒られちゃった。
『3日後、約束の地で会おう』とだけある。
「約束の地……どこぉ…?」
私は困惑しながら返信を打つ。
自然と笑顔になっていた。
動悸や眩暈はもう、ない。


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