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1. 荒廃した街の朝

灰色の空が重く垂れ込めた朝、ハルキは崩れかけたビルの一角からじっと外を見つめていた。窓ガラスはひび割れ、埃が積もった部屋には寒々しい風が吹き込んでくる。彼がいるのは、この荒廃した街の中でも特に打ち捨てられた一角。周囲には瓦礫と化した建物、使い物にならなくなった車の残骸、そして見捨てられた未来が広がっていた。

かつては人々が行き交い、生活の営みがあったであろうこの場所も、今では生きるために奪い合う者たちの影がちらつくばかりだった。ハルキはその小さな体をできるだけ縮め、外の冷たい風に身を委ねながら、自分のいる場所の脆さを感じていた。

「今日もまた、生きなければならない」

彼はそう自分に言い聞かせ、ゆっくりと立ち上がる。ハルキの目には、この街の風景が乗り越えなければならない試練そのものとして映っていた。建物の隙間から遥か彼方を見ると、壊れた工場や折れた煙突が、無言でその場に立ち尽くしている。

ハルキの足元には、わずかな持ち物が置かれていた。古びたトランク、泥にまみれたスニーカー、そしてポケットには昨日盗んできた食べかけのパン。これらが、彼がこの厳しい世界で繋ぎ止めている命のすべてだった。何もかもが限られているこの世界で、彼には毎日が戦いだった。

「こんな世界で、どこまでやっていけるんだろう」

ハルキはそう思いながらも、逃げ場がないことを知っていた。彼にとって、この場所は逃げるべき場所であり、同時に生きるための唯一の居場所でもあった。彼は窓際に立ち、朝の冷たい風が頬を撫でるのを感じる。風はビルの隙間を抜け、ハルキの髪をさっと揺らした。

ハルキは遠くを見つめ続けた。手の届かないところにある希望を探すように、彼の目は何かを追い求めていた。曇った空に差し込むかすかな光は、彼にとっての唯一の救いだったかもしれない。だが、その光はあまりにも弱く、そして冷たかった。

「こんなところで終わるわけにはいかない」

ハルキは小さくつぶやき、足元のスニーカーに目を落とした。擦り切れて穴の空いたその靴は、彼がどれだけの距離を歩き、どれだけの試練を乗り越えてきたかを物語っていた。彼はその靴を履き直し、もう一度決意を固めるように深呼吸をした。

ハルキはゆっくりとビルを後にし、荒れた街の路地へと歩き出す。その歩みは重く、まだ幼さを残していたが、彼の中には確かな決意があった。壊れたビルの向こうには、彼が越えなければならない無数の試練が待っている。それでも彼は、今日もまた生きるために歩みを進める。彼の前には、まだ見ぬ未来が広がっている。曇った空の下で、ハルキの影が静かに伸びていった。

(2. 路地裏での窃盗へ続く…)


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