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2. 路地裏での窃盗

薄暗い路地裏に、ハルキの小さな足音が響く。彼は身を縮めるようにして、ビルの陰を縫うように進んでいた。街の中心から離れたこの場所は、危険だが物資を見つけるチャンスも多い場所だった。誰かが放置した荷物、壊れた自販機、時折見つける使い捨てのもの。ハルキにとってそれらはすべて、命を繋ぐための貴重な資源だった。

ハルキは、角を曲がったところで小さな店の前に立ち止まる。店はすでに廃業して久しいのか、シャッターが半分開いたまま錆びついている。中を覗き込むと、埃にまみれた棚の上に数個の缶詰が置かれていた。ハルキの目は、それらに鋭く向けられる。彼の腹は空腹を訴え、胸の鼓動が高鳴る。

「これだけあれば、しばらく持つ...」

ハルキは自分にそう言い聞かせ、慎重に店の中へと足を踏み入れる。ガラスが割れた音が足元で響き、ハルキは思わず息を飲んだ。急いでしゃがみ込み、缶詰を一つ手に取る。その重さに少しの安心感を覚えながらも、彼の耳は常に周囲の音に集中していた。

「誰かが来るかもしれない...」

ハルキの心の中には、常に警戒心があった。この街での生活は常に危険と隣り合わせであり、一瞬の油断が命取りになる。彼はもう一つ、そしてもう一つと缶詰を手に取り、慎重に店を後にしようとした。その時、背後から突然、怒声が響いた。

「おい!何してやがる!」

振り返ると、店主と思しき男が凶悪な表情で立っていた。男は手に鉄パイプを持ち、今にも殴りかかろうとしていた。ハルキの心臓は一気に跳ね上がり、体が本能的に動き出した。彼は缶詰を抱えたまま、全力で路地を駆け抜ける。

「待ちやがれ!泥棒め!」

男の叫び声が背後から響く。ハルキは周囲のビルを盾にしながら、曲がりくねった路地を全速力で走った。狭い通路をすり抜け、塀を飛び越え、足を滑らせながらも立ち上がり、また走る。男の足音は徐々に遠のいていくが、ハルキは決して後ろを振り返らなかった。彼の頭の中には、ただ「逃げなければ」という思いだけがあった。

数分後、ようやく安全そうな場所にたどり着いたハルキは、荒い呼吸を整えながら身を隠した。足は震え、手の中の缶詰は汗で滑りそうだった。それでも、ハルキは何とかして逃げ切れたことに安堵した。

「これで今日も生き延びられる...」

ハルキはそう呟きながら、目を閉じた。彼にとって、生きるために奪うことはもう当たり前のことだった。罪悪感や恐怖はまだ完全には消えないが、彼にはやるべきことがある。家族を失った彼に残されたのは、生き延びるためのこの小さな闘いだけだった。

ハルキは再び立ち上がり、路地を歩き出す。彼の足取りは決して軽くはなかったが、その目には再び生き延びるための決意が宿っていた。路地の先には、まだ見ぬ新しい一日が待っている。ハルキはその先を見据え、静かに歩みを進めた。

(3. 消えた温もりへ続く…)


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