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長男の決断

旦那が今、電話で別れ話をしている。

と言っても、私が不倫をされたわけではない。

長男のテニスのダブルスのペアを解消したい、と言う話をパートナーの親と話しているらしい。

夏の全国大会という大きな区切りを一旦迎え、次の冬、春への大会に向けて、タイミングはここしかない。

2年前からペアを組んだパートナーは、年下だったが歴が長く、実力も上だった。
しかし負けん気の強い性格だったため、なかなか決まったペアが見つけられず、歴の浅かった長男とペアを組むことになった。

長男はどちらかというと温和な性格だ。
優しい、というと聞こえはいいが実際は他人に自分の気持ちを伝えるのがあまり得意ではなかった。
人の顔色を伺い、なるべく嫌われないように自分を抑えてしまう。
それは相手にとって都合が良かったのだろう。
パートナーはのびのびとプレーが出来、ペアの成績は上がっていった。

パートナーの親からは
「良いペアが見つかってよかった、ありがとうございます。」
といつもお礼を言われていた。

テニスが好きだった長男は、パートナーの負けん気の強さに引き上げられたのもあって、この2年で彼なりに力をつけていった。
親の欲目もあるだろうが、今ではパートナーともそんなに実力差はないように感じる。

しかし、年下でチームの所属も早かったのもあってか、結果が出ると褒められるのはいつもパートナーの方だった。
逆にミスが続いたり、流れが悪くなると一方的に長男が責められる。

試合中に、長男が何度もパートナーに口汚く罵られる様子を私も見ていた。

試合前に、コーチに
「お前は余計なことをするな」
と、指示という名の呪いをかけられたこともあった。

一時期、長男は挫けていた。
1人で自主練をして体得した技術や攻撃を、実際の試合では試せなかったり発揮出来なくなっていた。

失敗すると、責められる。

そう思うとついつい無難なプレーに徹してしまい、結局「攻めきれないショボいヤツ」というレッテルを周りからも貼られてしまう。

親としては正直、見ていて歯痒かった。
1番近くでいつも長男の練習や努力を見ていた旦那の思いは私の比ではないだろう。

春の予選の頃から、長男の
「もうアイツとのコンビはキツい」
という愚痴は聞いていた。

しかし、非があるのは相手だけではない。
プレーの実力、精神的な強さ、試合に対する気迫…全てがパートナーより劣っていたのも事実だ。

両親はスポーツの経験も、チームへの貢献度もそれほどない。
そもそも子どもの問題に親がしゃしゃり出るのはいかがなものかと…とも思っていたので、
「相手は変えられない、自分が変わるしかない」
と言い、彼の話を聞きながらも慰めのようなアドバイスしかできなかった。

パートナーがミスした時には、険悪にならないように率先して年上の自分が励ます声かけをしてみたり、流れが悪くなって拗ねるパートナーを気遣ったり…
長男もいろいろやっていたが、結果はパートナー(とその親)がさらに調子に乗っただけだった。

相変わらず長男には、わずかなミスも許されない。

2つ年下のパートナーに
「クソ雑魚が」
「オマエのせいで負ける、◯ね」
などと試合中に暴言を吐かれたり、声かけを無視されたりしていた。

パートナーの親も、コーチ陣もその様子は知っていた。

しかし、

「(パートナー)はまだ子どもだから」

「(長男)が年上な分、大人になって欲しい」

と長男は大人達になだめられていた。

歳の差があるとはいえ、何故パートナーは「子ども」であることを許されて、自分は「大人」になることを強いられるのか。

長男は葛藤していた。

言葉では「ペアを解消したい」と言っていたが、長男には迷いも見える。
今のパートナーは、チーム内で実力は上位。
彼と組んでいるからこそ、大舞台への道が開かれつつあるのも長男は自覚していた。

自分には足りないものを相手は持っている。
そのおかげで自分1人の力では辿り着けない場所へ行くことができている。
それもわかっていた。
そして、それを手放したくないという欲望も少なからずあったのだと思う。

何度となくコーチとパートナーとの3人で話し合いを持ちながら、徐々にではあるが実力的にも格差を埋め、相手の暴言や試合中の態度の悪さをうやむやにしながら、なんとか夏の大舞台までは漕ぎ着けた。

全国大会では、初戦突破という素晴らしい結果が出せた。

自分たちより順位が上の相手に臆することなく、実力を存分に発揮できていたと思う。
相手のミスにつけ込んだ勝利でなく、自分たちから果敢に攻めて勝ち取った一勝だった。

長男は決心がついたようだ。
どんな形であれ、大舞台を経験できた。
そこでパートナーとの関係を気にすることなく自分の実力を発揮できた。

でも、相手の意識は変わらない。

パートナーの親にも
「いやぁ、(長男)くんもよくここまで頑張って付いてきてくれましたよねぇ!」
と、未だ対等には扱ってもらえない。

「俺は楽しく強くなりたい」
「代表落ちしても良いから、組みたい相手と組んでそいつともう一回全国を目指したい」

長男はそう言った。
私たちも、それが良いと思った。

だから、少し手を貸す。

最後に自分の口で「ペアを解消したい」とパートナーに言えるように話し合いの場を作る。

どうなるかは、わからない。

喧嘩別れになるのか、すんなり解消するのか、それとも腹を割って話せばペアを継続できる道筋が見えるのか。

2人に決めさせたい。

Xデーは明後日だ。

何かとパートナーの後ろをついて回り【助言】という体で発言をする彼の父親に何も話させないために、旦那も同伴するらしい。

私は、母親だから。
自分の子どもが1番だから。

息子の思う通りになって欲しい。

後悔するかもしれない。

ペアを解消して、もしかしたらチーム内で肩身が狭くなって、「あの時、我慢しておけば良かった」とまた長男は思い悩むかもしれない。

それでもいい。

明後日までに考えて考えて考え抜いて、その時思ったことを相手にぶつけて、自分が今、思う通りにして欲しい。

彼の成長を、ただ願っている。

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