-World Wide Lens- 第3話

1.モネロス 入国審査場 外観 昼

緊張した面持ちのルッカが、1枚の写真を持ち、巨大で荘厳な石造りの建物を見上げている。

まるで立ちはだかるようにこちらを見下ろす入国審査場。

タヒト「いつも思うけど結構威厳あるよな〜」
ルッカの横で呑気にしているタヒト。


2.入国審査場内 昼

ザワザワとした場内。
様々な身なりの人が作品や楽器を持ち5〜6列に並んでいる(大きな白い塊を抱える人、いかにも貴族な服装にヴァイオリンを持つ人、などなど)

2人が入国審査場に入ってくる。
タヒト「うわ〜今日は混んでるな」
緊張で少し挙動不審なルッカ。

突然、列の前方で大声がする。
男「なんだよ!俺の作品の何がいけないって言うんだ!これで何回目だと思ってる!」
審査官「理由は貴方が1番わかってるでしょ!」
入国審査を受けていた男が、警備兵に両脇を抱えられ連れて行かれる。
ルッカ「、、、」
タヒトはケラケラ笑いルッカを覗き込む。
タヒト「大丈夫。あんなの日常茶飯事さ!俺なんて9回連続で落とされたことある」
自慢げに話すタヒトの言葉に更に表情がひきつるルッカ。

タヒト「じゃっ!俺は先に行くから!」
ルッカ「えっ?」
タヒトが右端を指差す。
大行列の《ビジター》とは違い、右端に1つだけ用意された《アーティスト》の入国ブース。
タヒト「またあとでな〜」
ルッカ「ちょちょっと!」
人混みをかき分けて行ってしまうタヒト。
唖然とするルッカ。


《アーティスト》入国ブース。
中に入ってくるタヒトを、入国管理局の老夫ジィジ(執事のような身なり)が出迎える。
ジィジ「タヒト様おかえりなさいませ」
タヒト「ああ」
ジィジ「、、、今回も。王族と揉めたそうですね」
タヒト「げっ応麟のやつチクったのか」
ジィジ「あまり我儘されますと入国許可がおりなくなりますぞ」
タヒト「はいはい」
怠そうに返事をするタヒトに諦めのため息をつく。
ジィジ「応麟様は1週間前におかえりです。かの国の件、各国の一面に掲載後、中央政府の介入で落ち着きました」
タヒト「さすが世界新聞社のカメラマンは規模が違うね〜」
ジィジ「なにやらお連れの方に会うのを楽しみにされていましたが、、ご一緒じゃないのですか?」
タヒト「あー今あっちに並んでる」
タヒトが《ビジター》の列を指差す。
ジィジ「タヒト様のお連様であればこちらからお通しできましたのに」
タヒト「何言ってんだ。せっかく自分の作品をみせるチャンスなんだから。奪っちゃだめだろ!」
ジィジ「その通りでございますね」

ジィジ「しかし、タヒト様が先に入国されては、お連れ様が万が一通過できなかった場合どうなさるのですか?」 
タヒト「あっ考えてなかった、、」
突然アワアワし始めるタヒト。
タヒト「ジィ!どうしよう??戻って付き添うべきかな?いやでも過保護すぎないか?ん〜〜」
ジィジはタヒトの様子にくすりと笑う。
ジィジ「もし何かあればジィがお伝えします。しばらく出口で待たれてみてはいかがですか?」
タヒト「あ、ああ、、そうだな。わかった」

タヒトの頼りない後ろ姿を見送るジィジ。
ジィジ「タヒト様が誰かをお連れになるなんて何年ぶりでしょう、、楽しみですね」


《ビジター》の最前列。
自分を鼓舞してなんとか並んでいるルッカ。
ママン「はい次の人〜」
入国審査官のママン=モネ(ふくよかでテキパキとした中年女性)に手招きされる。

カチコチと入国審査ブースへ入るルッカ。
じっと品定めのように見つめられる。
ママン「あなたは、、絵描き、いや写真家ね」
ルッカ「は、はい!」
ママン「じゃあみせてもらえる?」
緊張で耳まで赤くなっているルッカ。
写真を出すのを躊躇するが、心を決めて勢いよくつき出す(ラブレターを渡すように)

ママンが写真を受け取りまじまじと見始める。
ルッカは恥ずかしそうに下を向いている。

ママンがゆっくり顔を上げる。
ママン「ねえ。どうして下を向いてるの?」
ルッカ「え、、とそれは、、」
ママン「この写真に自信がない?」
勢いよく顔をあげブンブン首を振る。
ルッカ「そんなことないです!!」

ママン「じゃあ、、自分がまる裸になったみたいで恥ずかしい?」

突拍子もない言葉に驚くが
ルッカ「、、、、、はい」

ママンはもう一度写真に目をやる。
ママン「この写真、ピントも画角も甘い。まだまだ未完成ね。、、でも」

《老女ミレイ(第二話)が車椅子の傍らに立ち、優しい笑顔をこちらに向ける写真。柔らかい光が差し込み、目元には温もりがある》

ママン「自分の子に会いたくなるのはどうしてかしら?、、想いのこもったいい写真」


ママン「入国を許可します」

その言葉にヘナヘナと崩れるルッカ。
ルッカ「よかった、、、」

ママン「ただし!条件付きよ」

ママン「”すっ裸で走り回れるようになること”
わかった?」

意味がわからずポカーンとするルッカ。
ママンはお構いなしに
ママン「ほらほら混んでるんだから早く行きなさい」
ルッカ「あっはい」
ペコリとお辞儀すると、足早に出口へ走っていく。


2.入国審査場出口の広場 昼

タヒトが心配そうに右往左往している。
タヒト「はぁ〜はぁ〜〜」

ルッカ「タヒトー」
ルッカが駆けてくる、安堵するタヒト。
タヒト「よかった〜〜入国できなかったらどうしようってヒヤヒヤしてたんだ」
ルッカ「えっ?!僕のこと放っていったくせに入国できないと思ってたのか?!」
タヒト「あっいやっそういう訳じゃ!」
ルッカ「はぁ〜あんまりだ」
拗ねるルッカ。

突然、谷間から大きな風が吹きあげる。
ルッカ「、、、わぁ」


3.地下都市へ向かう階段 昼〜夕方

ルッカの眼下には、大地を削り造られた地下都市が遥か向こうまで広がっている。

2人のいる広場から、都市へ降りる階段が下へ下へと続いている。

ルッカ「なんだこれ、、」
ルッカは呆気に取られたまま階段をぽつりぽつりと下り始める。

石の窓から漏れた出た光が美しい。

ルッカ「、、すごい」
目を輝かせているルッカ。
ルッカ「てっきり赤や青でカラフルな感じなのかと思ってた、こんな土色だなんてびっくりだ」
タヒト「ははは!」
タヒト「芸術家には迫害された歴史があるからね。自分達を守る為、そして何よりここで生み出された技術や技法を守る為。都を地下に築いたんだそうだ」
タヒト「だから入国審査も独特ってわけさ」


タヒトは突然階段を駆け降りると、振り向く。
タヒト「ようこそ!芸術家の故郷モネロスへ!」

×××

中腹まで降りてきた2人。
応麟「おっきたきた!おーーい!」
地表で2人に向かって大きく手を振る応麟の姿。
タヒト「げげっ」
応麟「この間の借り返してもらいにきてやったぞー!」
ドンと構えニヤニヤ笑顔の応麟。


4.大衆酒場 夜

応麟「わーっはははは!!」
大ジョッキを持ち腹を抱えて大笑いしている応麟。
テーブルには、タヒト、ルッカ、応麟、照明師、ライターの5人。
応麟「タヒトお前!自分は何十回も落とされてるくせに置いてったのか!さすがだな!」
タヒト「うるせーな!それに何十回は大袈裟だろ!」
応麟「こいつ『俺は審査されたくない』って手ぶらで強行突破しようとしたこともあるんだよ!」
ルッカは、タヒトが大暴れしているところを想像してクスっと笑う。
タヒト「おいそこ!」

応麟「、、それにしても。確かに新人にしてはよく撮れてたけど、ママンが一回で通すとはね〜」
ルッカ「でも条件付きって言われて、、意味がよくわからなかったんだ」
応麟「何て何て?」
ちょっと顔を赤くしながら
ルッカ「すっ裸で走り回れるようになりなさいって」
4人「わっははは!」
タヒト「ルッカにぴったりのアドバイスだよ!」
ルッカ「そ、そうなのか?!」
まだ笑っている一同。
ルッカ「そんな笑わなくても、、」
仲間外れにされたようでムッとするルッカ。
応麟「大丈夫!私のみたとこあんたは、そのうち全裸で爆走してるよ!」
自分の言った言葉にまた笑う応麟。
ルッカ「、、、」
応麟「何はともあれ!お祝いお祝い〜!」
立ち上がるとバーの中央の鐘を鳴らす。
応麟「さぁ!さぁ!世界を愛する現代美術家達よ!今日はタヒト様の奢りだそうだ〜!」
タヒト「はぁーー?!」
応麟「か、り、か、え、せ」
タヒト「わかったよ!」
タヒトがグラスを掲げるとドンチャン騒ぎが始まる。

×××

酔い潰れ眠っているタヒトや応麟達。


5.大衆酒場外 深夜

椅子に体操座りし、輝く岩の街並みを見上げているルッカ。



6.業火の戦場 タヒトの夢

炎が轟々と燃えている。
カメラを構え無我夢中で炎を追っているタヒト。
タヒトー!タヒトー!と誰かが呼んでいる。
振り向くと炎に包まれた人影。



7.タヒトの借家 昼前

必要最低限の家具、岩の壁、暗めな室内。
寝起きで身支度をしている2人。
ルッカ「こんな時間まで寝たの初めてだ。太陽が入ってこないからわからなかった」
タヒトはまだ眠そうに欠伸している。
ルッカ「眠れなかったのか?」
タヒト「うーんよく覚えてないけど悪い夢でも見たかな」
タヒト「あっそうそう!今日はカメラ屋へ行く前に寄る所がある。ちょっと面倒なんだけど、、」

突然、家のドアがバタンと開き日傘にサングラスをした巻き髪の女性エリカが入ってくる。

タヒト「げっ噂をすれば」

エリカはルッカを見つけると、傘を投げ捨て凄い勢いで抱きついてくる。 
エリカ「ルッカちゃ〜ん!会いたかったわ!!」
ルッカ「?!」

タヒト「ちょっとルッカが驚いてるだろ」
サングラスを外しタヒトを睨みつけるエリカ。
エリカ「あんた!昨日の宴に呼ばなかったでしょ!」
タヒト「はぁ、、また応麟だな」

タヒト「だってエリカ姉さん酔うとめんどいだろ」
ルッカ「おお姉さん?」
エリカ「あらっ!私のこと話してもなかったの?!ひどい!昼も夜もこき使ってる癖に!!」
タヒト「だから今から行こうかと、、」

エリカはルッカの手を取ると
エリカ「ささ!あんな薄情やろうは置いて現像場ツアーに行きましょうね〜」
ルッカ「えっあ」
半ば強制的にルッカを連れて出て行く。
タヒト「はぁ〜〜」
めんどくさそうに後を追うタヒト。

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