お日さまを私にください【平和に暮らしたい】

私の家は、都心まで電車で30分ほどの東京近郊、駅徒歩7分の住宅街にある。東側に鉄塔がそびえ立ち、西側は交互通行の公道、北に駐車場、南に二階建てアパートという立地。次男は、昨年家を出て、都心のマンションで一人住まい、長男は先月まで都内のマンションに住んでいましたが、完全リモートワークと化した今、通勤が無いということで先月出戻り。現在は、長男長女次女の3人とロングコートチワワ2頭と平和に暮らしていた。

ワイワイと賑やかで楽しい暮らしは、今ほんの少し変化している。それは、お隣のアパートが、老朽化によって解体・新築工事を始めたから。広い敷地に、二棟のアパートを持っているお隣さんの解体工事を知ったのは今年のはじめ、ポストい投函された一通のお知らせから。工事開始日以外詳細が全く分からなかったため、私が問い合わせ先に2点ほど電話で尋ねると、直接説明に来るというので家へ案内することに。

私の知りたいこと。

・いつまで解体工事が続くのか

・新しく建てる集合住宅による日照時間はどうなるのか

解体は二カ月、新築するのは3階建て、2LDKが15室と言う。

元々敷地が南北に広く、旧アパートは南向きに並列して二棟でしたが、今回は西向きに一棟だと。南側に駐車スペースを確保して、北側は地境から1.2メートルのところに建つという計画だそう。

図面を見ると、この計画では1階南側に並んだ私の部屋と愛犬たちの部屋は完全に陽が入らない。私たちの部屋の真上にある次女の部屋と長男の書斎にも影響がある。最も困るのは、屋根に乗った太陽光発電。愛犬たち(当時は愛猫だけでした)が、夏涼しく冬温かく過ごすために、震災直後に日中の電力供給用にと設置したもので、旧式のため7枚で1区画として発電する様式で、セットになる7枚のうち1枚でも陰になると発電しない代物。こうなれば発電量が大きく変わってしまう。

私は、担当の営業さんに

「3階の最も北側の部屋を失くすか、3メートル南に移して北側を駐車スペースにはできませんか」

と、尋ねたが、

「この計画は、既に建築許可が下りていて、法律上何の問題もありません。住宅街に住んでいたら、日が当たらない部屋は普通です」

という回答だった。オーナーさんはご近所のとても素敵な品の良いマダムで顔見知り、実際に計画をしているのは、ご長男で東京西部に在住している。ご高齢の為に、相続税の対策と息子さんが管理する家賃収入を目的に建てるため、一部屋失くしてしまうと月の収入に大きく影響するのでただのひとつも変更はできないと。

「私の家に太陽の光を入れてほしいだけなんです。私には、家族と愛犬の健康を守る義務があります。不動産を売っているのだから、日の当たらない家に住むことの健康被害はご存知ですよね。どうにかこのことをオーナーさんへ伝えてください。」

そうお願いして帰っていただいた。

1週間後、担当の営業さんは、冬至・立春・夏至・立秋の太陽と日陰の図面を持参して再びやって来た。

「最も陽ざしの少ない冬至でも2階には日が当たります。今より前後2時間ずつくらい減りますが。太陽光も同様です。」

図面を広げて自信満々に説明するその人に、

「だから黙っていろということでしょうか。1階の部屋は完全に陽が入りません。私は、家にお日さまの光が欲しいとお伝えしています。」

そう言ったが、営業さんは黙っていた。

「オーナーさんにきちんと話してくださったのでしょうか。ここは住宅街だから、その土地を持っている方がお住まいになる家を建てるならば、お互い様と言える。しかし、相続税対策で家賃収入が目的であれば、どうか南にずらすか、3階北側の一部屋を失くしてください。」

私のお願いに、帰ってきた回答。

「西側はこれまで通り陽が入るので、西の部屋で過ごされたらどうでしょう。この計画は、法律上何の問題もないですから、訴えても無駄でしょう。」

私は、訴えようなどと微塵も思っていないし、ただお日さまの光を部屋に届けてほしいだけだ。

「オーナーさんにこちらの意向は本当に伝わっているのでしょうか。あの奥様がこんな事考えるとは思えないのですが。」

「奥様名義ですが、計画はすべて息子さんです。息子さんには伝えましたが、問題ないとの回答ですよ。」

このアパートに隣接する真北の家は私の家だけ。西側は我が家同様公道、東側は旅館だし、南は同じオーナーさん名義の30台程の月極駐車場、その向こう側、南にある数軒の住宅へ生活音の影響を配慮して南に駐車スペースを取ったそうだ。私は何とも情けなかった。たった一軒、真北の家への配慮は何故ないのか。許可を出した行政は、この図面を見て、建築基準法だけを確認したのか、現場の状況は確認しないのだろうか。敷地ギリギリで、真北の家は大丈夫なのだろうかと、行政の担当者は、真北の家への配慮をしないのだろうか。ここは住宅街だ。法律に則っていれば、何でもよいのか。ここが商業地なら、収入目的の建物によって日陰になってもしょうがないと思うが、何度も言うが住宅地だ。こんな法律はクソくらえだ。

「不動産業の営業をなさっていて、真南に大きな建物がある日の当たらない家を誰かに売りたいと思いますか?」

私は質問を変えた。

「それはちょっと。」

営業さんは言葉を濁し、少し笑った。そう、私は笑われた。

「『気に入らないなら、建て替えるか引っ越せば?』ということでしょうか。」

別の質問をすると、再び笑い、

「計画は変わりません。もしも訴えても何も変わりません。」

そう言った。

本当に何も変わらないのだろうか。何も変わらないまま、解体工事が始まり、地境ギリギリに設置された防音シートによって、既に私と愛犬たちの部屋にはお日さまの光が1秒も入らない。日中でも電気をつけなければ薄暗く寒い。窓辺に吊るしたサンキャッチャーも陽射しをキャッチすることはない。お日さまが当たるようにというのは、贅沢なお願いなのだろうか。引っ越す以外方法は無いものだろうか…。

そんな風に考えて、今頭を悩ませている。



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