衝撃 58 「仮面舞踏会でつかまえて」
秋野ひとみ「つかまえてシリーズ」全95タイトルを全巻レビューするのが目標。無作為に選び一冊ずつ順不同にいきます。
58作目「仮面舞踏会でつかまえて」1999年
「ごはんができたよ」と、桜崎探偵事務所の楽しい夕食の時間から始まる。明が登場してレギュラーメンバーになってから、夕食を桜崎兄弟、由香と左記子、菊地さんと明くんの六人で事務所で食べる、のがおなじみの習慣として描かれるようになる。圭一郎さんの作るおいしそうな料理の数々。初期のころからお料理上手な設定にしておいた甲斐があるよねえ。
夕暮れ時になって、ぽつぽつ集まってくるのが楽しい。左記子、菊地さん、明の順に現れてそれぞれにおみやげを持ってくる。菊地さんの持ってくるデリの紙袋なんて、センスのいい物が入ってるの予想できるから見てみたい。
北海道旅行がきっかけだった。シリーズ末期には当たり前になるこの習慣ができたのが、前作まで三作使った北海道への旅行。あの旅行で事務所メンバーたちのお互いへの親密感が増した。読者としてはいつのまにか自然に、だと思ってたけど、こうしてきっかけがちゃんとあったのね。
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圭一郎さんの美大時代の恩師に招かれ、美術館のセレモニーに参加する事務所メンバー。その場で起こった事件は、初公開される予定だった彫刻「ジークフリート」の落下による全壊、その下敷きになり死亡してしまった雑誌カメラマン。由香は関係者の証言をとりながら、その真相を明らかにしようと取り組む。圭一郎さんの恩師からの依頼だということで張り切る由香が可愛い。
証言が延々と続くだけの退屈な場面も続きながら、今作では、前作の北海道旅行でほんの一瞬絡みのあった、速水青史という芸術家が再登場する。この人は今後、シリーズ最後まで重要な人物として登場を続けることになる。
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さんざん証言シーンを取り入れたのに由香が「わからない」まま過ぎる。誰がどの関係者でどれくらい怪しいのか、もはや読者にはわからない。外国人出てくるし。最後に出てくる美術館改装の資料から、展示物の場所の移動詳細を見て、はっ、って。展示場所に関する嫉妬から起きた事件だった。
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菊地さんが由香におさえきれない気持ちをぶつけ、圭二郎さんともめて出ていってしまう。そりゃそうだわ、と大人になった今は思う。当時は、こういう関係もあるのでは、なんて理解のある大人ぶってた。本当に大人になったら、んなわけあるかい、だった。
これからよろしく速水さん、ひとまずさよなら菊地さん、の巻。
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