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カルぺ・モリ

酒に浸かって意識は朦朧。舌はもたつき、足取りはおぼつかない。それでもなんとか明日からの現実にまたピントを合わせようと、ピンボールの玉よろしく民家の外壁や工事現場のフェンスにぶつかり跳ね返りながらドタドタと終電を目指した。

30分前まではいとも簡単に、自分を疎外する社会に、目を覆いたくなる将来に毒を吐き、怪物みたいにチャンジャを頬張っていたのに、ふと乗り換えアプリで終電の時間を確認するとたちまち心の襟が正された。

月明かりに照らされて輝く吐瀉物を飛び越え、駅構内をひた走り、改札を通ろうとするもフリッパーのようにバインと弾き返された。Suicaのペンギンが絞られた雑巾のようにガリガリになっていた。

やむを得ず駅から出ると、乗るべきだった電車が暗闇の向こうに鼻息荒く走っていくのが見えた。そんなに急いでどこへ行くんだ。

行き先を失った思いをぶつけようと月を睨んだら、持ち前の乱視で5個も見えて恐ろしくなった。

どうせいつか死ぬんだから明日死んでも同じだという思いが、あらゆる節制から自分を遠のける。
黄緑の、近未来みたいなゲロを吐かせる。
生活習慣がまともじゃない。

終電に見放され、壁に手をついて徒歩で帰る。
同級生がみんな全力で疾走している道の、遥か後ろに自分だけが取り残されてしまった。

ほとんどノックアウトのように寝床につき、5個に分裂した常夜灯を睨む。涙がこめかみを伝って枕に染みをつくる。