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イスラムが残虐だという嘘



【中東の非武装化が始まった】



4月13日の夜になって、イランから数百機のドローンがイスラエルに向かって飛んでいるというニュースが入ってきて、世界中の多くの人たちが、いったいどうなることかと情報を追っていた。イランからイスラエルへは、ドローンで数時間かかるということで、イスラエルはドローンが来る前から、迎撃の態勢を整えていた。

極超音速ミサイルをイスラエルまで飛ばす技術も持っているイランが、いったい何だって数時間もかかるドローンを飛ばしているのかと思った。ドローンの迎撃に手いっぱいになっている間にミサイルを撃ち込む作戦かと思っていたら、案の定そうだった。何十機ものドローンがイスラエルの市街地上空に飛んできたというので、アイアンドームやパトリオットシステムで次々と迎撃していた。その間に、極超音速ミサイルが7機ずつ、ネヴァティムとラモンの空軍基地に命中したということだった。

イスラエルは、イランからの攻撃はほとんど迎撃して、空軍基地への被害はごくわずかなものだったと発表していた。しかし、イランは飛ばしたミサイルのすべてが命中したと発表していて、報復攻撃は予想以上の成功だったと言っていた。

イスラエルは、これはイスラエルの主権を侵すものだとして、国連安保理に訴えたらしい。それで、EUやアメリカは、いっせいにイランを非難したのだけれど、4月1日にイスラエルがシリアにあるイラン大使館を爆撃して、大勢の人が亡くなったことについては、イスラエルを非難していなかったのだ。イランは、この攻撃に対する報復として、今回の攻撃を行なった。大使館はイランの領土のようなものだし、軍事施設ではない。それを攻撃したら、イランが報復するのは、国連憲章で守られている自衛権に当たる。それなのに、そのことは言わず、イランを一方的に非難しているのだ。このことは、NATO諸国のダブルスタンダードを露骨に示すことになった。

イランは、イスラエルの市民も市街地も攻撃しなかった。軍事施設だけをきれいに狙ったのだ。この攻撃で、子供が一人重傷を負ったとイスラエルは発表していた。これについては、くわしい情報は出ていないのだけれど、砂漠の中の空軍基地に子供が一人たまたまいて巻き添えになったということなのだろう。とにかくイスラエルが発表したのは、その一人だけで、他には誰も被害を受けなかったらしい。

これについては、イスラエルが事実を隠している可能性もあるから定かではないのだけれど、だとしたら、イランは軍事施設だけをきれいに破壊して、たまたま巻き添えになった一人しか傷つけなかったことになる。実に見事な報復だ。この見事さは、イスラエルがガザの市民を攻撃して、すでに何万人という死者を出している事実と、実に鮮やかな違いを世界中に示すことになった。

私も2022年2月にウクライナへのロシアの軍事介入が始まるまでは知らなかったのだけれど、国際法では、市街インフラや市民を狙って攻撃することは禁じられていて、これは戦争犯罪に当たる。軍事施設を攻撃することだけが、自衛権の行使として認められているのだ。この事実を多くの人が知らなかったのは、NATOの戦争のやり方が、これをまったく無視したものだったからだ。都市を空爆して、市街を絨毯攻撃したりするのが当たり前で、戦争とはそのようにするものだと、多くの人が思い込んでいた。

だから、ロシア軍がウクライナでどのような攻撃の仕方をしているのかを見て、こんなに馬鹿正直な戦争の仕方をする国があるのかと思ってびっくりしたのだ。西側主流メディアでは、真逆のことが報道され続けていたけれど、ロシア軍はウクライナの軍事施設だけをきれいに狙って攻撃していたのだ。キエフだって、軍事司令部などが攻撃されたことがあるくらいで、街はほとんど無傷のままだった。

実際、自衛が目的なのであれば、市街地を爆撃するなど、何の意味もない。武器や軍事施設を破壊してしまえば、攻撃できなくなるのだから、軍事施設を攻撃することに集中するのが、よほど効果的なのだ。それなのに、市街地を攻撃したりするのは、人々に脅威を感じさせて、支配しようとしているからだ。そして、それがまさにNATOのやり方だったわけだ。防衛ではなく、支配が目的だった。

このイランの報復攻撃は、イランもまた、ロシアと同じように国際法を守った攻撃の仕方をするのだということを、世界にはっきりと示した。本当に平和のために武力を行使するとは、このようなことを言うのだと。そのことにより、NATOの嘘がさらにくっきりとすることになった。

アメリカの軍事専門家のスコット・リッターは、この攻撃は、イスラエルの軍事力には実は大きな弱点があることを示してしまった、と言っていた。それというのも、ネヴァティムとラモンの空軍基地は、世界でも最も重厚に武装している基地だというのだ。それなのに、イランの7機のミサイルが7機とも迎撃されずに命中してしまった。重厚な迎撃システムも、実は難なくかわすことができるということを示してしまったのだ。

イスラエルが軍事国家としてアラブの真ん中に陣取っているのは、実のところアメリカ政府がアラブを支配するためなのだろう。イスラエルに攻撃されたら大変だと思うから、アラブ諸国はアメリカの言うなりになる。アメリカが世界中から非難されながら、イスラエルを支援し続けるのは、まさにそのためなのだ。だから、イスラエルが実は軍事的に弱いということを、イスラエルもアメリカ政府も知られたくない。しかし、アラブ諸国はこのイランの攻撃の鮮やかさを、はっきりと見たはずだ。

この攻撃で、イランは何百という迎撃にアイアンドームやパトリオット・ミサイルを使わせた。空軍基地の破壊だけでなく、それによっても、イランはイスラエルの武器を破壊したのだ。敵を非武装化させるという目的では、大成功だったということなのだろう。イランは、大使館を攻撃された報復としては、これで完了したと言っていて、イスラエルが攻撃してこないかぎり、これ以上イスラエルを攻撃する意図はない。

しかし、イスラエルは、イランが脅威を与えたといって非難していて、何か報復をするつもりらしい。もし攻撃してくれば、イランに再びイスラエルの軍事施設を攻撃する正当な理由を与えることになる。それで、中東の非武装化は進むことになる。

イランがついにイスラエルを攻撃したことで、第三次世界大戦になるのではないかと多くの人が心配しているのだけれど、この背景にあるのは、BRICS諸国とNATO諸国の勢力争いだということを考えれば、第三次世界大戦はすでに何十年も前から始まっていたということになるのかもしれない。これが今、イランが入ってきたおかげで、中東でのNATOの非武装化が進んで、中東がついに平和になっていくのかもしれない。

2024年4月14日


イラン大統領のイブラヒム・ライシ




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【イスラムが残虐だという嘘】



イスラエルへのイランの報復攻撃では、イスラムが野蛮で残虐だという話は真実ではなかったということを、世界中の人々にはっきりと見せてしまったようなところがあると思う。もちろん、アメリカの傘下にある国の主流メディアでは、イランが理由もなくイスラエルの市街を攻撃してきたかのように報道していたから、それだけ見たら、イランはやっぱりイスラムだから恐い国なのかと思った人も多かったかもしれない。しかし、イランがイスラエルを攻撃したのは、イスラエル軍がシリアのイラン大使館を爆撃して、大勢のイラン人を殺したからであり、その報復として、イランは大使館を攻撃した空軍基地を爆撃したのだ。イランは、市街地も市民も狙っておらず、軍事施設だけを破壊した。イスラエルの報告では、被害を受けたのは空軍基地の周辺にいた子供が一人だけだった。

それで、イランが残虐だと非難しているイスラエルの政治家たちを見て、いったいイスラエル軍がガザでやっていることは何なのかと、思わないではいられない。ガザでは、もう半年も続く攻撃で、3万人以上の人が犠牲になっていて、そのうち約半数は子供なのだ。イスラエル軍は、ハマスの戦闘員を攻撃しているのだと表向きは言っているけれど、病院や避難所などを無差別に攻撃している。それなのに、イランの攻撃でたまたま巻き添えになった子供一人が犠牲になったと言って、イランは残虐だと非難しているのは、あまりにも見え透いているように思える。

これまで、イスラムは野蛮で残虐な人々だという印象が、メディアによって繰り返し植えつけられてきたのだ。イラク戦争でも、リビアやシリアでも、いつも同じだった。イスラム教徒が残虐行為を行なったという話がまことしやかに語られて、アラブ諸国に対する攻撃が正当化されてきた。イスラム教徒は、神のためなら人を残虐に殺すのも正義だと信じている、というようなことが言われてきた。しかし、今回のイランの報復攻撃の仕方は、軍事施設だけを破壊して、市民を犠牲にしないという、実に見事なものだった。イスラエル軍がパレスチナに対してやっていることと比べたとき、イスラムが野蛮だという話は、実はまったくの嘘だったのではないかということに、気づかされてしまうのではないかと思う。

2020年に始まった奇妙なパンデミックや、その2年後に始まったウクライナ紛争で、メディアがどのように操作されているのかを見てきた人たちは、昨年10月に起こったパレスチナのイスラエルへの襲撃も、同様な煽り報道が行われていたのを見て取っていた。パレスチナのハマスの戦闘員が、イスラエルの市民に残虐行為を行なったというようなことが報道されていたけれど、こうした報道も、つまりはイスラエルへの軍事支援を正当化するためのものだったようだ。

ちょうど今日、パレスチナのイスラエル襲撃事件の真相を扱ったアルジャジーラのドキュメンタリー番組「10月7日」がネットで公開されたところだった。これは、当時の現場を見た証言者の話やアナリストの話、その戦闘で亡くなったハマスの戦闘員が撮影した映像などを集めて調査したもので、ハマスがイスラエルの市民に対して残虐行為を行なったという話は、実は作られた話にすぎなかったことがよくわかる。

赤ちゃんが首を斬られたとか、子供が手を縛られて焼かれたとか、女性がレイプされて殺されたとか、恐ろしい話がいくつも語られていた。アメリカの大統領や外務大臣も、そうした話を公に語っていた。ところが、こうした話のほとんどが、実は一人のイスラエルの警備隊の人が語ったものにすぎず、他に何の根拠もなかったことがわかったのだ。死亡者のリストには、それに該当する人物はいなかった。その話を語った証言者は、画像を持っているといって、ジャーナリストにスマホを見せていたけれど、残虐な画像だから、公開したくないと言って、カメラには画像が映らないようにしていた。しかし、その画像を見たジャーナリストは「私には殺された子供は見えませんが?」と不審な表情で言っていた。

イラク戦争のときも、イラク兵がクウェートの病院の新生児室で子供を保育器から放り出して殺していたという話を、ナイラという女性が語っていたけれど、それはまったくの作り話にすぎなかったことが、あとになってわかった。小さな子供が残虐に殺されたというような話を語るのは、どうも常套手段なようなのだ。そうした話は、議論の余地なく悪いという印象を与えて、容易に多くの人の感情に訴えるからなのだろう。

ガザ周辺の野外音楽フェスティバルの人たちをハマスが襲って、残虐に殺したということが報道されていたけれど、それについては、国連の調査団が視察すると言ったのに、イスラエル側がそれを拒否したのだそうだ。現場にいた人の証言や、スマホで撮影した映像などを見ると、ハマスというよりも、イスラエル軍がハマスも市民も一緒くたにして攻撃しているような状態で、多くはイスラエル軍が撃ちまくっていた弾に当たって死んだということだった。国連の調査を拒否したのは、遺体を調べたら、イスラエル軍の弾が出てきたりする可能性があったからなのかもしれない。

ハマスが襲撃を計画していることは、イスラエル政府も知っていたはずだというのだけれど、ハマスの戦闘員が国境を破って出ると、いつもなら厳重に警備されているのに、そのときはイスラエル軍がいなくて、容易に出られてしまったのだそうだ。そのさまを撮影している映像も出てきた。ガザは周辺を刑務所のように高い塀と警報装置で囲まれていて、いつもなら生命の危険を侵さなければ、外に出ることなどできなかったのに、そのときは簡単に出られたというのだ。

戦闘を予想して国境を越えたハマスの戦闘員たちは、誰もいないので混乱して、周辺のキブツに入っていって、略奪したりしていたことはあったらしい。ハマスの戦闘員ではなく、ガザの市民もたくさん出ていたから、そういう人たちがお店に入って物を盗ったりしている映像もあった。しかし、当時キブツにいた人の証言では、ハマスというよりも、そのあとに来たイスラエル軍が撃ちまくっていて、死んだ人たちはそれで撃たれて死んだのだと言っていた。キブツの建物は、壁や屋根に大きな穴が開いていたけれど、これはハマスが持っていたライフルみたいな武器で開くような穴ではないことは明らかだ。ハマスの戦闘員たちは、Tシャツにサンダルみたいな格好で、ライフルみたいな小さな武器しか持っていなかったのだから。あとからやってきたイスラエル軍が、戦車でやってきて、あたりを撃ちまくっていたのだ。

ハマスが捕虜を連れてガザへ戻ろうとするのを、イスラエル軍がヘリコプターで上から攻撃している映像もあった。多くの人がバラバラとガザの方へ走っていっているのを狙って撃っているのだけれど、それがハマスなのか、イスラエルの捕虜なのか、あるいはパレスチナの市民なのかの区別はつかない。その攻撃で殺されたイスラエル市民も少なくなかったはずだという。ハマスの捕虜になって返された女性は、ハマスがイスラエル軍から守ってくれたのだと言っていた。イスラエル軍が無差別に撃ってくるのを、ハマスがガザに連れて行って助けてくれたのだと。

イスラエル軍がイスラエル市民を殺していたなど、そんなはずがないだろうと思えるけれど、しかしネタニヤフ政権は、これまでもいつも何かと理由を見つけては、ガザを攻撃していたのだ。10月7日のハマスの襲撃をきっかけに、ガザの人々を皆殺しにする勢いで攻撃し始めたことを考えれば、イスラエル政府は、これだけのことをするための理由を何とかでっち上げたかったのだろう。それで、ハマスが攻撃を計画しているのを知っていて、わざと防備を薄くして、周辺を襲わせた。その上で、軍隊を出動させて、ハマスを攻撃すると見せかけて、イスラエルの市民を攻撃していた。それで、これだけの残虐行為をやられたのだからと、ガザでジェノサイドを行うことを人々に納得させたわけだ。実際、イスラエルの人たちは、多くの人が犠牲になったために、感情的になってパレスチナ人を憎んでいた。

ある国が残虐行為を行なったという話をでっち上げて、戦争を正当化するようなことは、実はもう百年以上も前から行われていたようなことだった。百年くらい前にも、ロシア人がドイツ女性を残虐に殺したという話が語られて、それがロシアに侵攻しろというドイツの国民感情になっていたということだった。その話も、実はまったくのでっち上げに過ぎなかった。

いつも、子供とか女性とかが殺されたという話なのだ。毎回そういう話が語られて、それが憎悪を煽り、戦争に加担させられていく。そうしたことが百年以上も繰り返されていたのだけれど、2020年から、それが変わってきたようだ。パンデミックにしても、ウクライナ紛争にしても、情報操作によって煽られていることに気づく人が増えていった。そして、そのたびに、恐ろしい存在だと思わされてきたものが、実はそんなものではないということに気づかされていったのだ。ウクライナ紛争では、ロシアが恐ろしい国だというのは作られた話だったことがわかった。パレスチナの紛争では、イスラム教徒が実は女性に礼節を尽くす人たちだったことがわかり、今度のイランの報復攻撃では、軍事大国イランは国際法を遵守して市民を犠牲にすまいとする国なのがよくわかった。

結局のところ、私たちはある人々が恐ろしいと思わせられて、それでたがいに殺し合うようなことをさせられてきたのだ。だけど、落ち着いてよく見れば、恐ろしい人々などではなかったことがわかる。2020年の頃から、風の時代に入って、もうどっちが強いかで支配し合う時代ではなくなってきているからなのかもしれない。本当は共に生きていける同じ人間だったことが、少しずつ見え始めているのだと思う。もし、それが見えてしまったら、もう私たちは戦争などする必要がなかったことがわかる。行き違いがあったら、話し合いで解決すればいいことなのだから。

実際、昨年くらいからそれまで互いに敵対し合っていたアラブやアフリカの国々がロシアや中国の仲介で友好関係を結んで結束し合うようになっていった。それも、まったく何ということもなく、結束してしまったのだ。おそらくは、互いに敵対させられていたカラクリさえわかってしまえば、人間はもともと違いを超えて共生していくようにできているからなのだと思う。

2024年4月15日



アルジャジーラのドキュメンタリー番組「10月7日」。ドイツ語吹き替え版ですが、元は英語版です。


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【イランの報復攻撃から、何が変わったのか?】



4月13日の夜に、イランはシリアの大使館を爆撃された報復として、イスラエルに数百機のドローンを飛ばし、弾道ミサイルでイスラエルの2つの空軍基地を爆撃した。イスラエルは、イランの攻撃を99%迎撃したと言っていたけれど、イランは「予想した以上の成功」だったとして、ミサイルのすべては目的に命中したと言っていた。アメリカの軍事専門家のスコット・リッターは、この爆撃によって、空軍基地の2本の滑走路と倉庫3つが破壊されたと言っていた。

もし、イランが空軍基地を全壊させるつもりだったら、ミサイル30発を撃ち込んだだろうと、スコット・リッターは言っていた。7発しか撃たなかったのは、ただ何ができるのかを示したかったからなのだと。この空軍基地は、世界でも最も重厚に防空システムが装備されている空軍基地で、イランからのミサイル攻撃から守るべく作られていたという。ところが、今回のミサイル攻撃で、イランは難なくイスラエルの防空システムをすり抜けてしまう軍事力を持っていることを、示してしまったのだ。

イランはまず、数百機のドローンをイスラエルに向かって飛ばしたのだけれど、これが最も遅いドローンで、イスラエルの上空に到達するまでに、何時間もかかった。それでイスラエルは、避難させるものは避難させて、迎撃の準備をする時間があった。イランは、それを計算して、わざわざ一番遅いドローンを飛ばしたのだと、スコット・リッターは言っていた。イランはドローンで何かを攻撃するつもりはまったくなかったのだ。イスラエル軍の防空システムのすべてを使わせるのが目的だった。それでほとんどのドローンは撃ち落とされた。そのためにイスラエルは、一千億ドル以上の武器を使うことになった。

そのため、今回のイランの攻撃は、イスラエルにさほどの被害を与えはしなかったけれど、巨額の損害ではあった。このことは、イランを挑発したら、それだけのことがあるということを、イスラエルにはっきりと示してしまったわけだ。その意味で、スコット・リッターは、これは歴史的な快挙と言えるような、見事な軍事力のデモンストレーションだったと言っていた。

イランは、報復攻撃はこれで完了したとして、イスラエルがまたイランを攻撃してこないかぎり、これ以上の攻撃をするつもりはない、と言っている。イスラエルは、すぐに報復攻撃をすると言っていたけれど、それはイランのみならず、世界中が待ち望んでさえいるかもしれない。イスラエルが再びイランを攻撃するようなことをすれば、今度はイランはイスラエルの空軍基地を完全に破壊するだろうし、それだけでなくアイアンドームやパトリオットなどの防空システムを破壊していくだろう。今回の攻撃で、イランはイスラエルの防空システムがどこにあるのかの情報をすべて集めただろうから。

アメリカは、イスラエルを支援するとは言ったけれど、イランへの報復攻撃にはアメリカは一切関わらないと言った。アメリカが関わったら、イランはシリアやイラクにある米軍基地を攻撃してくるだろう。イランは、弾道ミサイルで精確に基地を狙えるし、迎撃システムをすり抜ける技もあることがわかってしまったのだから。アメリカは、その事態を招きたくないのだ。

ところでその後、イスラエルはすでに計画されていたガザのラファへの侵攻を延期した。それは、イランへの報復攻撃を優先するためだというような理由だったと思うけれど、イスラエルは16日にイランへの報復攻撃を計画していたのに、これも延期したということだった。このことは、スコット・リッターが言ったように、今回のイランの攻撃が抑止力として効果を現したということを示しているように思える。

ウクライナの戦争で、NATOが支援するウクライナはもはやロシアに勝ち目がない状態で、ウクライナはNATOの軍事力を消尽する場所のようになっている。それでも、とにかくアメリカの軍事産業に世界中のお金が流れてくるので、あくまで戦争を続けようとしているようだ。戦後ずっと続いてきたアメリカ覇権主義による世界支配は、もはや終焉を避けることができないのは明らかだ。それで、少しでも生き延びようとしているのかもしれないけれど、もうあまりにも気狂いじみているように思える。

フランス大統領のマクロンは、今年の夏に予定されているパリでのオリンピックの間、停戦するようにして欲しいと、ロシアに言ってきたそうだ。つい最近、フランス軍をウクライナに送ると言っていたのに、一体何を言っているのだろう? NATO諸国がウクライナへの軍事支援をやめれば、戦争は数週間以内に終わるのだ。ロシアは、ウクライナが攻撃を続けないかぎり、戦闘を行うつもりなどないのだから。

もちろん、西側諸国は、ロシアが何の理由もなくウクライナに侵攻してきたという嘘を言い続けているのだから、ウクライナの戦争が終わるには、ロシアが停戦するべきだということになる。しかし、この戦争が始まってすでに2年以上が経つ今、世界中はこれがアメリカ覇権主義が作り出した嘘だということを知っている。知らないのは、ただ西側諸国の主流メディアを信じている人たちだけだ。

それで、マクロンがロシアにオリンピックの間、停戦をと申し入れているのは、世界中の多くの人々にとっては、見え透いた芝居にしか見えないし、そればかりか認知障害みたいな病的な症状にさえ思えるくらいだ。ロシア外務省報道官のマリア・ザハロワは、すかさず「それならば、フランスはウクライナへ武器を送るのをやめるべきだし、友好国のイスラエルにも同じ要請をしたらどうなのか」とやり返していた。

ドイツ首相のショルツは、中国を訪問して、習近平にロシアに停戦するよう働きかけて欲しいと頼んでいたけれど、それもマクロンの言動と同じくらいに現実からかけ離れている。中国はすでに、ウクライナの停戦のために仲介しようとして、停戦案を出していた。それをNATO諸国が拒否したのだ。それで、中国が停戦のために積極的に動いていないと批判して、ロシアに働きかけろなど、あまりにもバカバカしくて、相手にもしていられない。

事実、ショルツが特別機で中国に到着したとき、中国政府からは誰も出迎えがなく、ただ空港のある重慶の市長代理が出迎えただけだった。ニュースエージェントは「外務省の重要人物」が出迎えたと伝えていたらしいのだけれど、あとでそれが市長代理に過ぎなかったことが判明した。中国政府は、ドイツ政府など最初からまともに相手にしていない、という暗黙の表現なのだ。習近平は、ショルツに対して、「いい国際関係を保つためには、たがいの立場を尊重することが重要です」というようなことを言っただけだった。

中東では、アメリカは一方的な理屈をつけて、都合のいいように攻撃するようなことをさんざんしておいて、いつも軍事力や経済力で黙らせてきたのだ。しかし、それがもう通らなくなっていることを、イランは今度の報復攻撃で、世界にはっきりと示してしまったのじゃないかと思う。アラブはもう、NATO諸国の勝手な論理を黙って受け入れてはいないのだ。

今回のイランの攻撃は、いつまでも現実離れした論理を押しつけて、戦争を続けようとするNATO諸国に、冷水を浴びせて目を覚まさせるような効果があったのかもしれない。そしてまた、NATOに苦しめられてきた世界中の国々をさらに勇気づける効果もまたあったような気がする。

2024年4月17日


ドイツ首相ショルツの中国訪問


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【自衛のための戦争とお金のための戦争】



4月13日の夜にイランがイスラエルに対して行なった報復攻撃で、イスラエルはイランから何時間もかけてゆっくりと飛んでくるドローンを迎撃するのに、1500億円もの武器を使ったのだそうだ。イランは、時速300キロほどで長距離を飛ぶことができるドローンを500機くらい飛ばしてきたという話だった。このドローンは、一機が2万ドルほどだというから、イランのドローン攻撃に対して、イスラエルの方は150倍もの費用をかけたことになる。

イランがドローンを大量に飛ばしてきたのは、まさにイスラエルに防空システムを使わせるために他ならなかった。イランはドローンで攻撃しようなどとは考えていなかったのだ。イスラエルが高度な防空システムを備えているのは、最初からわかっていることなのだから、攻撃しようと思ったら、わざわざイスラエルまで飛行するのに何時間もかかるようなものを飛ばしはしない。

それで、イスラエル軍だけでなく、アメリカ軍もイギリス軍もフランス軍も、イランから次々飛んでくるドローンを迎撃するのにいっぱいになって、一発で一千万円とかかかるような武器を撃ちまくっていたわけだ。そうしているうちに、イランから飛んできた弾道ミサイルが、防空システムをすべてすり抜けて、イスラエルの空軍基地に命中してしまった。

アメリカが、地中海に停留していた航空母艦を引き揚げたのも、数十万円くらいでできるドローンで攻撃してくるのを、その何十倍もかかるような武器で応戦しなければならなかったかららしい。あまりに採算が合わないので、引き揚げることになったのだ。

ウクライナでは、ドイツやアメリカ、イギリスから送られてくる高価な戦車を、ロシア軍は数万円ほどの小型のドローンで攻撃しているそうだ。それだけではないのかもしれないけれど、アメリカ製のエイブラム戦車は一台で十億円くらいするらしいから、いずれにしても、何千分の一とかの費用で、破壊していることになる。

ウクライナは、西側から送られてくる戦車をすでに140台も破壊されているということで、そのうちの30台はドイツの最強の戦車と言われていたレオパードだった。こうした戦車は、ものすごく高価だけれど、実戦ではあまり使い物にならないらしい。雪解けのぬかるみにはまったまま動けなくなっているところを爆撃されたりしていて、その多くが前線に到着する前にあえなく破壊されていた。

ロシアでは、ドイツの戦車といったら、第二次世界大戦のときにナチに侵攻された記憶があるので、大いに復讐心を駆り立てるらしい。それで、ロシアの企業家たちが、西側の戦車を爆撃した兵士に賞金を出していて、それが総額でけっこうなお金になるのだそうだ。だから、レオパードやエイブラムが来たといったら、ロシア兵たちは大喜びして狙ってくる。それで、最強の戦車と言われる戦車も、乗ったらまず確実にやられるという、危険極まりない乗り物になっているのだそうだ。

ウクライナの戦争の仕方を見ていると、戦果もないのに、高価な武器をまるで湯水のように使っているように見える。もちろん、日本やEUなどアメリカの傘下にある国の主流メディアでは、そんな実情は報道していないから、西側の武器がウクライナが自衛するのに役に立っているように見えているのだろう。しかしウクライナでは、高価な戦闘機や戦車が、戦闘に出る前から、次々破壊されている。一方、たった一人のジャーナリストを攻撃するのに、一発で一千万円くらいかかるハイマースミサイルを撃ち込んだりしている。

そういうのを見ていると、アメリカがウクライナやイスラエルを使って戦争させているのは、軍事産業に儲けさせるためなのだということが、実によくわかる。武器が防衛の役に立つかどうかも、どうでもいいかのようだ。レオパードやエイブラムがウクライナでは役に立たないことがもうわかっているのに、もっと役に立つものを代わりに送ろうとは考えていないようだ。兵士たちがどんどん死んでいるのに、それもどうでもいいかのようだ。

パトリオット・システムも、ミサイルを迎撃する防空システムだとは言っても、一発迎撃するのに何百万ドルもかかるらしい。しかも、ロシア軍はドローンを囮に飛ばして、パトリオットの位置を確認しておいて、難なく爆破しているから、いくら配備してもほとんど何の役にも立たない。そのたびに巨額の税金が蕩尽されるだけなのだ。しかし、軍事産業はそれで大儲けできるので、そんなことを気にかけてもいないようだ。つまるところ、アメリカがウクライナやイスラエルを使って戦争させているのも、政府が軍事産業資本の言うなりになっているからなので、ウクライナもイスラエルも、それでどれだけの犠牲が出ようが、どうでもいいかのようだ。

そもそも2020年から奇妙なパンデミックがあり、ウクライナの戦争があり、パレスチナの戦争があり、とアメリカの傘下の国が、巨額の税収をアメリカの企業に投資させられているのは、米ドルが危機に瀕しているからだという話がある。これは、コロナ・パンデミックの時に、金融のエキスパートたちが言っていたことだけれど、2019年の秋に金融危機が起こっていて、その頃から米ドルの総額がうなぎ上りに上がり続けているのだそうだ。貨幣の総額が増えていったら、インフレが起きて価値が下がるはずだけれど、増えた分、使われているならば、価値は下がらない。それで、世界中でアメリカの医薬品や武器を強制的に大量に買わされるようなことになっているらしい。それも、パンデミックの医薬品でもウクライナに送る武器でも、値段が何倍にも釣り上げられていた。そんなことを認めさせるために、パンデミックでもウクライナの戦争でも、ものすごい情報操作が行われ、事実を暴露してしまうジャーナリストがいると、一千万円もするミサイルで命を狙われるようなことにさえなっていた。

それとは対照的に、イランやロシアの武器は、ずっと安くて、しかも効果的にできている。ロシアの兵士たちは、ウクライナ軍が持っていたありとある西側の武器を実戦に使ってみて、結局ソ連時代の銃が一番性能がいい、と言っていた。扱いやすいし、遥かに長持ちするのだそうだ。ドローンでもミサイルでも、精密に狙えるようにできていて、市民を巻き添えにしないで、軍事施設だけをきれいに破壊することもできる。

何故かと言って、単純に言って、イランやロシアは自衛のために軍備を開発しているからなのだ。軍事産業が国を支配しているわけではない。そうなると当然、なるべく安価で、効果的に防衛できるように考える。だから、自ずと安くて使いやすい武器ができてくる。

それに対して、西側諸国で作っている武器は、高いほどお金がまわるからいいという発想でできているのだ。この差は実に対照的だ。実戦で使いやすいのか、効果が上がるのかなども、どうでもいいのだ。極端な話、買えば無敵になれるかのようなイメージを与えることさえできればいい、ということになる。実際、レオパードやエイブラム、パトリオット・ミサイルなどの惨めな終わり方を見ると、そういう発想で作っているようにしか思えない。

ソ連崩壊後の30年くらい、世界で戦争が止まないような状態になっているのは、つまるところ、戦争でまわるお金に人々が惑わされてきたからなのだろう。ロシアもイランも、そうした戦争に最も振り回されてきて、それに対抗するべく、安価で無駄なく、効果的な武器を開発してきた。その意味では、今ウクライナや中東で起こっているのは、お金を回すために戦争しようとする勢力にとどめを刺すための戦いだと言えるのかもしれない。

アメリカの十億円もする戦車を、ロシアの数万円のドローンが破壊し、2万ドルのイランのドローンを撃ち落とすのに、イスラエルが200万ドルのアメリカの迎撃システムを使っているという事態になって、それが今、現実に結果を出しつつあるように思える。

2024年4月20日


イスラエルの防空システム


イランの戦闘ドローン



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【ロシアを離れたとてもロシア的なロシア人】



アメリカのジャーナリスト、タッカー・カールソンが、ドバイでテレグラムの創始者パヴェル・デュロフに会って、インタビューした動画が、この頃、公開された。2020年に奇妙なパンデミックが始まってから、アメリカのSNSで検閲が激しくなったので、検閲のないテレグラムに大勢の人が移動し、テレグラムは世界的に重要なSNSになっていった。2022年にウクライナへのロシアの軍事介入が始まってからは、ロシアからの情報はことごとくブロックされ、テレグラムがほとんど唯一のロシアからの情報源になっていた。

アメリカのSNSの創始者たちがメディアの表舞台で注目を浴びているのに対して、テレグラムの創始者のことは、ほとんど知られていない。パヴェル・デュロフがインタビューを受けたのは、このインタビューの前は、10年前のことだったそうだ。

パヴェル・デュロフは、1980年代にソ連に生まれたロシア人だった。彼が子供のときに、家族はイタリアに移住し、ソ連崩壊後に再びロシアに戻ってきた。彼の兄は子供の頃から数学の天才で、数学チャンピオンになったりしていた。その兄がプログラムを作って、彼がまだ20歳の頃に、最初のSNSを立ち上げたのだそうだ。

それから兄弟は、ロシア政府とぶつかることになる。2011年頃に、イギリスの支援を受けた反政府組織がモスクワで大規模なデモを行っていて、その組織がデュロフ兄弟のSNSを使っていた。それであるとき警察がやってきて、その組織のSNSの使用を禁じるように言ってきた。デュロフは、これは中立なプラットフォームなのだからと言って、それを拒否した。その後2013年になって、キエフでマイダン革命に発展していく反政府運動が起きた。それでまた警察が来て、デモを組織していたグループのデータを渡すように言ってきた。デュロフは外国のユーザーの信頼を裏切ることはできないと言って拒否したのだけれど、その年が終わる頃には、ロシアを離れる決断をしなければならなかったと言っている。

デュロフにとっては、何よりも言論の自由を守ることが大事だったのだ。ソ連の中央集権的なシステムから逃げるために、イタリアに移住した家族だったから、西側には自由があるという意識があったのだと思う。だから、ロシア政府に反抗してでも、自由を守るべきだと思ったのかもしれない。

それから兄弟は、世界中を放浪することになる。まずベルリンに行き、ロンドンに行き、シンガポールに行った。だけど、どこでもさまざまな障害に出会って、事業を立ち上げることができなかった。サンフランシスコに来たときは、これでうまく行くと思ったのだけれど、当時のツイッターのオーナー、ジャック・ドーシーに会いに行ったら、その後ホテルに帰る道で、3人の暴漢に襲われた。パヴェル・デュロフは、たった一人で3人を相手にして戦い、逃げてきたそうだ。

その話が出たときに、「彼らはロシア人を襲ったことがなかったんだろう」とカールソンは言って笑っていた。3月のモスクワでのテロ事件のときにも、ロシア男性の武勇伝の数々が語られていて、それで思ったのだけれど、ロシア男性は戦う力を奪われていないのだ。パヴェル・デュロフは、決して腕力の強い男のタイプではないけれど、それでも何とか戦って身を守った。何かを守らなければならないという瞬間に、西側諸国に生まれ育った人間だったら、必ずしも戦うという選択にはならないと思う。しかしそういうとき、ロシアの男たちは、自分に損かどうかを考えて別な選択をするという考えはないように思える。

この暴漢が、ジャック・ドーシーと何か関連があるのかどうかはわからない。しかしその後、デュロフは、FBIにつけ狙われていることに気がついた。それで、やはりアメリカにもいられないということになり、アラブ首長国連邦のドバイに行った。ここは何よりも中立だし、事業の立ち上げが簡単だった。それで以来ずっとドバイに事務所を構えているそうだ。

アメリカでは、政府機関もつけ狙ってきたけれど、それよりもひどかったのはグーグルとアップルだとデュロフは言っていた。テレグラムは、外からハッキングされないように、特別なセキュリティがプログラムされている。そのコードを欲しがって、追いかけてくるのだと言っていた。

2021年1月6日のアメリカのキャピトル襲撃事件のときには、民主党の政治家から手紙が来て、デモの参加者のデータを渡さないと、憲法違反になる、と言ってきたそうだ。デュロフは弁護士に相談して、無視することにした。するとその後、今度は共和党の政治家から手紙が来て、デモの参加者のデータを渡したら、憲法違反になる、と言ってきたそうだ。

ロシアで警察にデモの組織のデータを渡せと言われたときは、西側諸国には自由があると思っていたのだろうけれど、実はアメリカの方がよほど自由がなかったということに、兄弟は気がついたのかもしれない。ロシアでは、警察が来てデータを要求しはしたけれど、それで兄弟は逮捕されたわけでも、罰金を科されたわけでもなかった。ところで、これは実際に犯罪に関わるような話だったのだ。2011年頃の反政府デモというのは、おそらくナワリヌイのことなのだと思うけれど、彼はイギリス諜報機関のエージェントで、ロシアに内紛を起こさせるために、支援を受けて活動していた。だから、テロ組織あるいは外国のエージェントとして、法的にもSNSの使用を禁じる権限があった可能性がある。

2013年のキエフのデモの話も同様なことで、あれは翌年クーデターに発展して、政権を乗っ取る国家反逆行為に繋がっていく。その結果、ウクライナはロシアに対するテロ国家のようになっていったのだ。そのことから考えたら、あのときロシア警察がデュロフ兄弟に要求したデータは、国際的な犯罪組織に関わるものだったことになる。

それでもロシアでは、警察が来てデータを渡すように要求しただけだったのだ。デュロフ兄弟は訴えられもしなければ、逮捕されもしなかった。ところがアメリカでは、追いかけ回されて暴漢に襲われたり、憲法違反になると言って脅されたりする。それも、犯罪対策のためなどではなく、国民を監視するためなのだ。そうしたことは、アメリカ政府が公にやっているわけではないけれど、だからこそ、ロシアよりもさらにひどく自由が制限されるようなことになっている。

デュロフは、中立なプラットフォームを提供することが彼にとって何よりも大事なので、どちらの側にもつかないと言う。テレグラムは宣伝もしないし、株もすべて彼らが所有していて、外の投資者を一切持っていない。何にも依存しないことが大事なのだと彼は言う。実際、西側諸国のメディアがほとんどすべて投資者によって支配されていて、事実上グローバリストの言いなりになっていることを考えれば、中立なコミュニケーションの場を保とうと思ったら、他からの資本に一切頼らない姿勢が必要になるのだろう。

彼は、お金を儲けることには興味がないし、不動産とかジェット機を買うことにも興味がないという。実際、そうしたものは一切持っていない。豪邸とか買ったら、インテリアの色を選んだりするようなことに時間と労力を取られるけれど、そんなことは時間の無駄だと彼は言う。彼にとって大事なのは、自由と独立を守ることだ。彼は、中立なプラットフォームを提供することで、最も貢献できると思うから、それが大事なことなのだと言っている。

お金とか成功とか、そういうものよりも、自分がするべきことをしているということが大事なのだ。ソ連時代のコメディ映画を何本か見ていて思ったけれど、こうした意識のあり方も、すごくロシア人的だと私は思う。西側諸国のコメディ映画に出てくる人物は、自分のお金とか名誉とか成功とか、そういう自分の得になることを動機にして動いているけれど、ソ連のコメディ映画では、そうではないのだ。登場人物は、全体に意識が向いていて、自分がその場でできることは何なのかを考えて動いているようなところがある。そして、それを追求するためには、かなり頑固になったりもする。承認欲求でさえないのだ。それはむしろ、共生感覚といったようなものから来ているように思える。

デュロフは、中立なSNSを提供し続けることが、彼にとって大事なことで、それによって彼は最も貢献することができるのだと言っていた。それを聞いて、やっぱりロシア人だなと私は思った。こういう風に考える人は、西側世界にはまずいない。少なくとも、事業者の中にはいない。社会の中で、つねに権威に妥協することを強いられてきて、自分の意志を生きる満足感が得られないので、お金や成功や名声みたいなものを代償にするようなことになっているのかもしれない。だけど、ソ連に生まれたロシア人の彼は、たとえロシアを離れていても、やはり自分の意志に従って生きることの方が、利益や成功よりも大事だと考えるのだ。

テレグラムは、今や世界的な事業なのにもかかわらず、ほんの30人ほどの技術スタッフで切り回していて、パヴェル・デュロフは今でもマネージャーとして、すべてを仕切っているのだそうだ。製品の性能がよければ、宣伝などしなくても顧客は増えていくからと、宣伝にも労力を投じていない。すべてをシンプルにして、効率よく仕事をしているのだという。テレグラムでITコンテストを開催して、優秀な人材を集めているから、人事部も必要がない。スタッフはすべて彼が個人的に知っていて、共同のチームとして動いている。

デュロフは、ツイッターだって同様にやれば20人でできるとドーシーに言ったそうだ。ドーシーは同意した。だけど、今さら従業員を大量解雇したら、株が下がるから、そうはいかないのだとドーシーは言ったそうだ。もちろん、大勢の従業員を抱えていたら、工作員に入り込まれてもなかなかわからないわけなので、テレグラムほどの中立とセキュリティを保つことは難しいということになるのだと思う。

検閲の嵐のようになっているSNS業界の中で、テレグラムが中立を保ち、言論の自由を守り続けることは、おそらく容易なことではないのだろう。それはパヴェル・デュロフの緊迫した表情からも読み取れる。事業に不利になるようなことは言うまいとして、言葉を選んでものを言っている。その難事業を、彼はまさにロシア人的な意志の力でやり遂げているのだ。そしてまさにそれこそが、唯一守られたパイプのように、西側の情報操作網を破り続けている。

パヴェル・デュロフはまだ30代の若い事業家だけれど、これからの世界の事業はこういう風になっていくのかと思わせるものがあった。お金とか名声みたいなもので動くのが、これまでの資本主義経済の世界だったけれど、そうしたものを餌にして、私たちは国が滅びるほどに依存させられてきたのだ。これほど生産性が上がった世の中で、お金や名声はもう本当に人を動かすだけの力を失っている。若い世代は、それよりも本当に自分の仕事と言えるようなことをすることに飢えているのじゃないかと思う。

パヴェル・デュロフみたいなやり方をする事業家が増えていけば、世界はずっと透明性があって、共生の原理で動いていくものになるのだろう。競争ではなくて共生だ。それがまさにロシア的だと私は思うのだけれど、これがこれからの多極化世界の原理になっていくのじゃないかと思っている。

2024年4月21日



パヴェル・デュロフのインタビュー。英語版です。

https://tuckercarlson.com/the-tucker-carlson-interview-pavel-durov/

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【支援するほど、ウクライナは滅びる】



アメリカ議会で、600億ドルのウクライナへの軍事支援が可決されてしまったというので、アメリカの軍事専門家のスコット・リッターは、これでウクライナは終わりだ、とものすごく怒っていた。

NATO諸国は、ウクライナに武器を送らないと、ロシア軍がヨーロッパまで侵攻してくると言い続けているから、これはヨーロッパを守るために必要な支援なのだという話になっている。しかし実際には、ロシアはヨーロッパに侵攻するつもりなどまったくない。キエフでさえ侵攻するつもりなどないのだ。占領する気があったら、とっくにしているだろう。現に2022年3月、軍事介入が始まった数週間後には、ロシア軍はキエフ付近まで来ていた。あのときキエフから撤退したのは、イスタンブールでの停戦交渉が成立したからだ。そのときの交渉では、ウクライナ軍がドンバスから撤退して、ドンバスとルガンスクの独立を認め、中立に留まることだけが条件だった。ロシアは、ドンバスを領土にする気さえなかった。

アメリカのジャーナリスト、タッカー・カールソンは、モスクワに行ったあとで、「ウクライナを軍事支援することは、ウクライナ人を殺すことだ」という動画メッセージを出していた。イスタンブールの停戦交渉を破棄して以来、ウクライナは戦争を続ければ続けるほど、領土を失い、犠牲が増えていくという事態になっている。とりわけ昨年夏の反転攻勢の失敗以来、一日に千人近くのウクライナ兵が犠牲になり、西側から送られてくる戦車や戦闘機が次々と破壊されていくようなことになっている。

いくら武器を送り込んでも、この状況は変わらない。武器を送れば送るほど、破壊されていくだけなのだ。それで、また新たにウクライナ兵たちが犠牲になることになる。NATOの軍隊も、傭兵という形ですでに大勢来ているけれど、やはり同じことだ。武器が来たら、それを使う人が必要になるので、ウクライナ政府はまた動員の枠を拡大したらしい。西側諸国に避難しているウクライナ人たちも動員しようとしていて、5月以降は動員対象になっているウクライナ人にはパスポートが更新されなくなるということだった。それで今、更新停止になる前に更新しようとするウクライナ人たちが、各国の大使館で長い行列を作っているということだ。

そんな状況で、ウクライナ軍の兵士たちは、戦う気などとっくに失せている。ただ一日も早く戦争が終わることを願っているだけだということだ。前線に出たらどんどん死んでいくだけなのがもうわかっているのだし、司令官は兵士たちに暴力をふるっているだけで、ちゃんとした司令さえ出していないと、投降して捕虜になったウクライナ兵たちは言っていた。捕虜になった方が、よほど人間らしく扱ってもらえる、と。まるで終戦間際の日本軍と同じような状況だ。ウクライナでは、西側諸国から巨額の支援が行っているはずなのに、現場の兵士たちは、武器も食糧もろくにない状態で戦わされているのだそうだ。

ウクライナは今や世界でも最も腐敗がひどい国で、支援のお金も武器も、現場に届く前に、大半が転売されて、政治家たちが着服しているということだ。ウクライナ議員のオレクサンドル・ドゥビンスキーは、このアメリカの新たな支援で起こることは、「アメリカの軍産ロビーとウクライナのエリートたちが儲けるために、ウクライナがさらに犠牲になる」ことだけだと言っていた。

ところで、600億ドルの軍事支援といっても、そのすべてがウクライナに送られるわけではない。そのうち80%は、これまでウクライナに武器を供給して空になった米軍の軍備を補填するための費用だという。つまり、大部分はアメリカの軍事産業に行くことになるのだ。残りの120億ドルほどがウクライナに行くのだけれど、これも実はクレジットとしてで、ウクライナが返済することが条件になっているお金だという。

アメリカは、もうウクライナに軍事支援する財政的な余裕がないからと、昨年から支援を停止していた。アメリカが支援をやめれば、ウクライナは停戦に応じるしかないから、これで戦争は終わるはずだった。ところが、アメリカは自分が支援する代わりに、EUに軍事支援を押しつけた。それで戦争は延々と続いていったのだけれど、今度はクレジットにするということで、ウクライナ支援に反対していた共和党議員たちを納得させて、可決にもっていったということらしい。

ウクライナ政府はすでに財政破綻しているので、クレジットにしたって返済する能力はないはずなのだけれど、アメリカはEUなどに保証させるつもりなのだろうと、ロシア在住のドイツ人ジャーナリスト、トーマス・レーパーは言っていた。アメリカは、アメリカの銀行にあるロシアの資産を経済制裁で凍結していたけれど、これをウクライナ支援に充てることになったのだそうだ。それで、EUが凍結しているロシアの資産も、保証人としてクレジットを返済するためにということで、ウクライナへの軍事支援に使わせようとしているのだろうと。

勝手に資産を凍結したり、それを自国の財産にしてしまったりしたら、通貨の信用は落ちる。実際そのために、世界中で米ドル離れが激しく起こっている。それで、まだ信用を保っているユーロでも同じことをさせて、ユーロの信用を落としてしまえば、米ドルに有利に持っていけると計算しているのだろうと、レーパーは言っていた。

気になるのは、あれほど頑強にウクライナ支援を拒否していたアメリカ共和党が、どうして急に支援に賛成したのかということだ。トランプは、自分が大統領だったら、そもそもこの戦争は起こらなかったと言って、ウクライナを支援するバイデン政権を批判していたけれど、今回のウクライナ支援については、反対しなかったのだ。下院は共和党が過半数を占めているから、共和党が反対していれば、可決することはなかったのに、だ。

トランプもやはりグローバリストの仲間なのだという説があるけれど、このことはそれを証明しているようにも思える。しかし、私にはどうもそういうことでないように思えるのだ。それというのも、トランプもやはりグローバリストの仲間だと言っている人たちは、その根拠として、在任中にロシア、中国、イランに厳しい経済制裁を科したということを言っているけれど、今のこの3国の状況を見れば、経済制裁がこの国々にダメージを与えたようには思えないからだ。そればかりか、この3国は今や軍事的にも経済的にもアメリカに対抗できる勢力になって、アメリカ覇権主義に終焉をもたらす勢いになっている。

アメリカが経済制裁を科すということは、アメリカ資本の支配から解放するということでもある。実際、ロシアはアメリカに経済制裁をかけられて、米ドル決済以外の取引方法を取る以外になくなった結果、ますます経済が繁栄することになった。アメリカ政府は、米ドルが国際通貨として循環することで入ってくる収益で、世界中に軍隊を駐留させるだけのお金を得ているのだとも言われている。それがまさにアメリカ覇権主義の元になっているわけなのだから、トランプは意図的なのか計算違いでなのかは別として、ロシア、中国、イランに厳しい経済制裁をかけることで、この3国を米ドルの支配から解放し、アメリカ覇権主義に亀裂を入れる元を作ったということになる。

トランプは、まるでそのときどきの気まぐれでこうした決定を行なっているように見せているけれど、彼はチェスの名手で、立体になった五次元チェスが得意なことでも知られている。実のところ、彼は先の先の先まで読んで手を打つという思考に慣れているのだ。そうした思考から出てくる結論は、普通の人にはまるで逆のことをやっているように見えるかもしれない。そうしたことをポーカーフェースでやっていたら、まるで気まぐれでおかしな手を打っているようにしか見えないかもしれない。そうしたことを考えたとき、トランプが急にウクライナ支援について考えを変えたのは、何か裏の裏の意味があるのではないかと、私には思えるのだ。

スコット・リッターは、いくらウクライナを支援しても、ロシアが勝ち続ける状況を変えることは不可能だから、これ以上ウクライナを支援して戦争を続けさせれば、ウクライナが消えてなくなることになるだろうと言っていた。7月には武器が切れるだろうし、その間ロシア軍はドンバスを解放し続けるだろう。今ウクライナが停戦に応じれば、オデッサとハリコフは失わないで済むだろうけれど、それも失うことになる。ウクライナは国を保っていることはできなくなり、分割されて消えてなくなることになるだろうと。

トランプは、民主党がウクライナ支援をしろしろとあまりにも圧力をかけてくるので、それに譲ったといった風だったけれど、実はまさにこの事態を想定して、バイデン政権のやりたいように道を開けたようにも思えるのだ。今回の決議では、ウクライナ、イスラエル、台湾への軍事支援が決まったのだけれど、この3つはどれも、周辺の国と紛争を起こして支配するために、アメリカの諜報機関が工作して、軍事化させた国だ。ウクライナはロシアと敵対するために、台湾は中国と敵対するために、イスラエルはアラブと敵対するために、アメリカ政府が武装させている。

しかし、ロシア、中国、イランが経済的にも軍事的にもアメリカに依存しないで強くなった今、ウクライナ、イスラエル、台湾は、もはや消えてなくなる運命にある。現に今、ウクライナで起ころうとしているようにだ。もともとはウクライナはロシアの一部だったし、台湾は中国の一部、イスラエルはパレスチナの一部だった。それが分裂させられて、敵対させられていて、そのために絶えず軍事衝突が起こり、ロシア、中国、イランは軍備を整えなければならないようなことになっていた。

だから、アメリカが今この3つの国に軍事支援するということは、この3つの国に戦争させて、結果的にロシア、イラン、中国がその国を軍事的に支配するように仕向けるということになる。その結果、ウクライナは国家としては消えてなくなり、ロシア、ポーランド、ルーマニア、ハンガリーに併合されることになるだろう。もともとウクライナは、これらの国から少しずつ領土をもらってできた国だったのだから、つまりは元の国の形に戻っていくということになる。台湾は、中国に併合されて、平和的な関係が作られるだろうし、イスラエルはパレスチナの一部になるだろう。

ウクライナ、イスラエル、台湾がこのように統合されたら、世界はどれだけ平和になることだろう? それによって、いよいよアメリカの軍事産業資本は世界を牛耳ることができなくなり、世界は戦争から解放されることになるだろう。

戦争なしに調和する状況ができるのなら、それに越したことはないけれど、アメリカの軍産ロビーはその方向へはどうしても動こうとしないらしい。それならば、止めようとするよりも、逆に背中を押して奈落に突き落とすというのも、一つの手なのかもしれない。

2024年4月22日


スコット・リッターのインタビュー。英語版です。

ウクライナ議員アレクサンドル・ドヴィンスキーの発言。ドイツ語です。

Deepl翻訳です。

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ウクライナは資金を得るが、さらに貧しくなる

上院議員のアレクサンドル・ドゥビンスキーによると、アメリカ議会下院が新たな支援策を承認したことで、ウクライナは「主人のテーブルからパンくず」を受け取ることになるという。

国家に敵対的な疑いで拘束されているドゥビンスキー議員は、彼らは「喜び勇んで」ウラジーミル・ゼレンスキー氏の事務所に駆けつけ、この救出を皆に伝えたという: アメリカの新しい援助パッケージは、ロシアをすぐに勝たせず、ゼレンスキーの正統性への圧力を減らし、予算に資金を注ぎ込み、新しい武器が来るなどと。

彼の意見では、「これらすべてはいつものように嘘」である。

下院で可決された法案の本質は、軍備に関して言えば、資金のほとんどがアメリカの防衛産業に流れるということだ。

「これはアメリカの軍需産業を支援するロビー活動法であり、アメリカ国防省を通じてウクライナに武器を信用供給することができる」。

アメリカはウクライナの主要債権者となり、政府をコントロールすることができる。

「全体として、ウクライナは主人のテーブルからパンくずを受け取ることで、アメリカの特定の政治団体やロビー団体の利益のために行動した。

ドゥビンスキーは要約する。

土曜日、下院はウクライナに610億ドル近くを提供する法案を可決した。

ドミトリー・ペスコフ大統領報道官が述べたように、この決定は予想されていたことであり、ウクライナをさらに破滅に追い込み、アメリカを豊かにするだろう。





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【不寛容なイスラム教徒という嘘】



シリアのアサド大統領のインタビューが、ロシアのテレビ番組で放送されていて、ロシア在住のドイツ人ジャーナリスト、トーマス・レーパーが、その概要をドイツ語で紹介していた。これは、2時間に渡るインタビューなのだけれど、内容はタッカー・カールソンのロシア大統領プーチンのインタビューに匹敵するものがある。

レーパーは、西側メディアがプーチンやアサドのインタビューを報道しないようにしている理由が、これを見ればよくわかる、と書いていた。アサドのインタビューも、プーチンと同様、実に明解なデクラスなのだ。これまで西側主流メディアが作り出してきた虚像が崩れて、真実の姿が自ずとくっきりと現れてきてしまう。

多くの人は、2022年2月にウクライナの内戦にロシアが軍事介入し始めてから、これまで起こってきた戦争が、実は偽旗とフェイク報道とで作られていたことを知った。それによって、シリアの紛争が何だったのかも、だんだん見えてきたようなところがある。あの頃、主流メディアは、アサド大統領を独裁者のように報道していて、軍隊を出動させて反政府派を残虐に弾圧していると非難していた。あの頃、アラブで次々と内戦が起こっていて、アラブ人というのは戦争ばかりしている血の気の多い民族だみたいな印象が作られていた。

しかし、イスラム諸国で起こっていた内戦や国際紛争は、実はアメリカの諜報機関によって意図的に作り出されていたものだったのだ。ウクライナで何が起こっているのかを見ているうちに、戦争がどのように仕掛けられ、作られていくものなのかが、よくわかった。そうなって初めて、アラブで起こっていたことも、実は外から作り出されていたのだということが、ようやく納得できたようなところがある。

2011年にアラブの春が起こって、シリアも内戦状態になるのだけれど、この事件が起こる前に、シリアとトルコとイランは同盟を結ぼうとしていたのだと、アサド大統領はインタビューで言っていた。もし、この同盟が成立していたら、アラブは結束して、西側諸国の支配から脱することができていただろうと。アラブの春とは、実はこの同盟を阻止するために、アメリカの諜報機関が工作員を送り込んで起こしたものだったのだ。

内部分裂を起こさせて支配するというのが、アメリカの諜報機関のやり方で、そのために表向きは慈善活動をしているNGOが送り込まれていく。これは実のところ、スパイ組織というべきもので、情報を集めて、支配するのに使っているのだと、アサド大統領は言っていた。メディアやインターネット、衛星放送を使って、大規模な情報操作が行われたりもした。そうやって内紛を起こさせたら、政府は軍隊を出して鎮圧するしかなくなる。それで軍隊を出すと、反政府派を武力弾圧したと言って、独裁国家だと報道し始めるのだ。ウクライナでやっていたのも、まったく同じやり方だった。実のところ、アメリカの諜報機関とソロスなどのNGOは、あちこちで同じ手を使って、紛争を起こしてきたのだ。

そのために、シリア政府は国際的に非難されることになり、アラブ連盟はアメリカ政府から圧力をかけられて、シリアを除名することになった。そのために、シリアとイランの関係が断たれることになり、イランも弱体化して、アメリカ政府の圧力に抵抗できなくなり、核兵器保有で非難されて、経済制裁をかけられた上、軍縮を迫られることになった。

その状況が、ロシアのウクライナへの軍事介入で、大きく変わったのだ。ロシア軍は、シリア紛争のときにもテロ組織と戦ってシリアを守ったけれど、シリアだろうとウクライナだろうと、敵にしているのは同じ相手なのだと、アサド大統領は言う。シリアを脅かしているテロ組織は、個々の独立した組織ではなくて、国際的にネットワークを作っている大きな組織なのだと。つまり、それがまさにアメリカの諜報機関が作り出している世界的な一極支配の構造なのだ。そこに、あらゆるテロ組織もNGOもメディアも繋がっている。同じお金で同じ目的に向かって動いている巨大なネットワークが、その状態を作り出している。

だから、それがウクライナで起ころうとシリアで起ころうと同じことだ。ウクライナでその巨大なネットワークのテロ組織が敗退すれば、世界の他のところでも、支配力が弱まっていく。そのたびに、それまで圧力をかけられて従わされていた国々は、主権を取り戻していく。まさにそうしたことから、昨年アラブ諸国は次々と国交を回復して、結束していくことになり、シリアもアラブ連盟に戻ることになったのだ。

イスラム教徒と言ったら、他の宗教に不寛容で、異教徒は殺してもいいと思っているとか、戒律が厳しくて、残虐な刑罰があるとかいう印象がある。しかし、それも実は、アラブを分裂させるために、アメリカの諜報機関が作り出していたものだった。シリアには、イスラム教ができる以前から住んでいるキリスト教徒たちもいて、もともといろいろな宗教の人たちが調和して暮らしていく伝統があったのだと、アサド大統領は言っていた。

パレスチナでも、第二次世界大戦後にイスラエルの移民が来たときに、アラブの人たちが歓迎して、料理を振る舞う場面があった。その様子を撮影した白黒の映像を見たことがあるけれど、その映像からは、中東のイスラム教徒たちにとっては、さまざまな宗教、さまざまな民族の人たちを歓待して共生していこうとするのが当たり前なのだということが感じ取れる。実際、イスラムの聖典でも、キリスト教、ユダヤ教、仏教などの、ユニヴァーサルな教えを持つ宗教には寛容であるべきだということを言っている。シリアもレバノンもパレスチナも、実は同じ文化圏なのだそうで、もともとさまざまな宗教が共生してきた伝統がある土地だったのだ。

ところで、不寛容で攻撃的なイスラム教徒というのも確かにいる。しかし、これは何と、100年ほど前にイギリスがエジプトで作ったムスリム同胞団という組織から始まっていた。これが後に、アルカイダやIS、アル・ヌスラ戦線といった暴力組織になっていくのだけれど、つまり、他の宗教を一切認めないというジハード主義だ。これは、イスラムにもともとあったものではなくて、イギリスがアラブを分裂させて支配するために作り出したものだったのだ。

ウクライナで内紛を起こしているのも、ウクライナ民族だけを認めて、他の民族を排除するべきだという排他的な民族主義者なのだけれど、これもイギリスとアメリカの諜報機関が資金を出して作り出したものだった。お金を出して人を動員し、心理操作して、過激な集団を作り出すメソッドを、彼らは持っている。そのメソッドを使って、世界中いたるところで、排他的な過激集団を作り出して、紛争を起こさせているのだ。

つまり、イスラム過激派もウクライナのアゾフも、形は違うけれど、同じものなのだ。どちらも、内部分裂を起こさせて、紛争を起こさせるために、人々に排他的な思想を植えつけて、資金を与え、武装させて、作り出したテロ組織だ。こうした排他的な過激思想を持つ組織を、イギリスとアメリカの諜報機関は、100年にわたって世界中に作ってきた。そしてそれを、世界中の国々に圧力をかけ、支配する手段として使ってきたのだ。ドイツのナチも、ロシアのボルシェビキも、すべて同じだ。

アサド大統領はこのインタビューの中で、世界はもともと多極的にできているのだと言っていた。それが一極支配になったのは、ソ連崩壊後のことで、そのために世界は不自然な状態になり、混乱に継ぐ混乱を引き起こすことになっているのだと。

実際、ソ連が崩壊するまでの冷戦の時代には、アメリカの一極支配に対抗する勢力が存在していたので、ともかくも均衡が保たれていた。それが、ソ連が崩壊して、もはや妨げるものがなくなったとき、世界中で残虐な戦争が続いていく事態になった。そのすべてには、アメリカやイギリスの諜報機関が関わっていて、NATOが直接間接に攻撃に関わっている。民主主義を守るためという名目なのだけれど、国連憲章が保障している国の主権は踏みにじられている。それで、アラブもアフリカもアジアも中南米も、攻撃を恐れて言うなりになるしかないようなことになっていた。

それが、プーチン政権下になって、ロシアが経済的にも軍事的にも立て直されていくと、状況が変わってきた。ロシアが軍事介入することで、シリアはともかくも独立を保つことができた。そして今、ウクライナでロシア軍がNATO諸国から大量に送られてくる武器を次々と破壊するという状況になって、もはやアラブ諸国はNATOを恐れなくなり、もともとあった多極的な結束を取り戻していっている。

イスラム諸国が排他的で独裁的だという印象は、実はロシアや中国が独裁国家だというのと同様に、作られたものにすぎなかった。中東は、すべての宗教がたがいに認め合い、調和する伝統を作り上げてきた、多極的な土地だったのだ。

2024年4月25日


トーマス・レーパーの、アサド大統領のインタビューの概要。30分ほどのロシアのテレビ番組を文字起こししてドイツ語に翻訳したものです。とても興味深いので、ぜひ翻訳アプリを使って、全文読んでみてください。

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【伝統を壊せば、お金で支配できる】



シリアのアサド大統領のインタビューを見ると、シリア紛争がどのように起こされていったのかが、とてもよくわかるのだけれど、その中には考えさせられるような内容がたくさんあった。その一つが、アメリカの諜報機関は、国のアイデンティティを壊すことで、支配しようとしてくる、ということだった。これがソ連崩壊後、90年代から強く行われてきた。だから、国の主権を守るために、国の伝統文化や伝統的な価値観を守ることが重要になるのだと。

これもまた、ウクライナで、私たちは見てきた。もともとウクライナは、ロシアと同じ文化伝統を持つのだけれど、それが2014年のマイダン革命以降、ロシア文化を排除するように操作されていったのだ。とにかくロシア人は悪い民族だからという理由でだったのだけれど、それによってウクライナは独自の文化や伝統から引き離されていった。ウクライナはロシア正教会の信者が最も多いのに、それも禁止されることになり、ウクライナは昨年からローマカトリックやプロテスタントと同じように12月25日にクリスマスを祝うことになった。クリスマスは、伝統的に一番大きなお祭りで、土地の文化や価値観、民族的なアイデンティティと深く結びついたものなのにもかかわらず、だ。

何故、アメリカの諜報機関は、支配しようとする国の文化をまず壊そうとするのかというと、文化が壊れれば、国の結束を作ってきた民族としてのアイデンティティが失われてしまうからなのだと、アサド大統領は言う。そうなると、それまで行動の基準になっていた価値観がなくなってしまい、お金で動く人間になってしまう。こうなれば、お金でどうにでも支配できてしまうのだと。

実際、ソロスなどの国際NGOが、あちこちの国で、民主化のためといって反政府組織を作って、反政府デモを行わせたりしているけれど、多くの場合、日当を出して、やらせている。デモを過激化させて、火炎瓶を投げたり、放火したりといったテロ行為さえ、お金を出してやらせている。自分の国を乗っ取らせるようなことさえも、お金がもらえるのであれば、少なからぬ人々がやってしまうのだ。

そうした人々を作り出すために、アメリカの諜報機関は、土地の伝統文化を壊そうとする。既存の伝統を、窮屈で抑圧的だとか、閉鎖的だとか、あるいは野蛮だとかいう風に思わせたりする。それで、アメリカやヨーロッパみたいな西側資本主義経済の国へ行けば、自由になれるかのように思わせるのだと思う。これも、ウクライナで90年代からずっと行われてきたことだった。ロシアとの繋がりを切り離して、ヨーロッパと一緒になれば、自由で豊かになれるかのように思わせていた。

田舎の土地を捨てて、都会に行った人たちは、都会とは、お金に縛られてしか生きられない場所だということを知る。都会では、生きるために必要なものは何もかもお金を出して買わなければならないので、お金を稼がなくては生きていけない。そして、お金を稼ぐには、雇い主の言いなりになるしかないのだ。伝統文化から自由になるとは、実はそのようなことに他ならない。

民族学や文化人類学を学んだことのある人なら知っていると思うけれど、伝統的な風習というものは、それだけでいいとか悪いとか、抑圧的だとか閉鎖的だとか、一概に言うことができない。すべては、社会全体の中で、網目のような構造として機能しているからなのだ。たとえば、イランでは、イスラムの風習で女性が外に出るときには、ヒジャブという黒い布を頭からかぶっていなくてはならない。これを、イランでは女性が不当に抑圧されていると言って、西側諸国は批判している。それで、ソロスのNGOとかが、イランでヒジャブ反対運動を組織したりしていたらしいのだけれど、実はほとんどのイラン女性は、ヒジャブをかぶることに反対してはいなかった。

イスラムの人たちは、何よりも戒律によって動いているのだけれど、それには女性を大事にしたり、貧しい人たちに施すことなども含まれていて、つまりは社会全体として自立して共生していく形なのだ。その中に、ヒジャブをかぶることなども含まれているので、それだけを取り出して、いいとか悪いとか評価することなどはできないのだと思う。だから、外から見て、いくら抑圧的に見えても、当のイラン女性たちに不満がないのなら、抑圧的だと言うことはできない。

社会全体で繋がっていることを、一つだけ取り出して、抑圧的だと思わせ、その伝統を壊してしまうと、社会全体として機能していた共生の原理も破壊されてしまうのだと思う。男と女のバランスの取れた関係性が壊れ、共同体の中で支え合っていた関係が壊れてしまう。そうなると、都会へ行って、お金に縛られて生きる方向へ、容易に持って行かれてしまうことになる。アサド大統領が言っている、国の伝統文化を壊して、国のアイデンティティを破壊するとは、つまりはこうしたことなのだと思う。

日本では、村の共同体が閉鎖的だとか家父長制が抑圧的だというようなことが言われて、特に戦後、多くの人々は自由を求めて都会に出ていった。しかしそこで、土地や家族親族、村の人々などと支え合っていた関係がなくなって、お金でどうにでも動くような人間にされてしまったのだ。村の共同体が、自立的に共生していく原理として機能しているようなところでは、人は容易に外のお金で動かされはしない。そういうところでは、お金よりも、土地の関係性に支えられて生きていくのだから、そこでの価値観に沿って生きていくことの方が大事なことなのだ。

国のアイデンティティがあれば、ノーを言うことができるのだ、とアサド大統領はインタビューで言っていた。何でもアメリカ政府が言う通りに従ったりはしない。国の主権を守るために抵抗することができる。だから、国の文化や伝統的な価値観を守り、国のアイデンティティを守ることが、今日では国の主権と独立を守るために、重要なことなのだと。

日本ではとりわけ戦後、核家族化が進み、人が孤立していくようになっていった。昔だったら、困ったことや悩みごとがあったら、まわりに相談に乗ってくれる人がいくらでもいて、人肌脱いでくれる人もいた。だけど、核家族化が進んでいった結果、悩みごとの相談をするにも、しかるべき職業の人のところへ行って、お金を払わなければならなくなっている。それを考えると、私たちはいかに人工的に孤立させられてきたかがわかる。義理や人情みたいな価値観も、抑圧的で窮屈なように言われてきたけれど、まさにそうした価値観を大事にする人々が、たがいに支え合って生きていく原理を作り出していたのだ。そうしたものが抑圧的だとか不自由だとか言われて捨て去られたあと、人々は孤立して、自分のお金のことしか考えないようになっていった。

2020年に始まった奇妙なパンデミックで、お金がもらえるからとか、お金がもらえなくなるからというので、人権侵害になるようなことや犯罪のようなこと、自分や家族を傷つけるようなことにさえ従ってしまう人々がいかに多いかを思い知らされた。もちろん、操作されたメディアを信じてやっていた人たちも多いのだけれど、そこでは、伝統的に存在していた自分や家族の健康を守るための知識や、自立的に生活していく原理といったものが失われていて、テレビに出てくる権威の人の言うことを無条件に信じてしまうようになっていた状況がある。

明治生まれの世代くらいまでは、田舎のおばちゃんとかでも、自分で自分の健康を管理する感覚というものを持っていた。代々伝わる健康法みたいなものがあったし、薬草を採ってきて使うこととか、お灸のツボとか知っている人も多かった。それが、何でも医学の言う通り、政府の言う通りに従うようになったのは、伝統的な自立的な生き方から人々を引き離そうとして、メディアや学校を使って操作してきたからだ。

つまるところ、リベラリズムというものは、伝統的な生き方を古いとか抑圧的だとか自由がないとか言って、壊してしまう論理だったらしい。それで、あらゆる既存の価値観を破壊するようなことが、新しくてかっこいいと思われてきたのだけれど、つまるところそれは、お金に依存して生きる生活にすぎなかったのだ。何故なら、伝統的な生き方とは、自立した共生する生活の形に他ならなかったのだから。自由になったつもりでも、実は野生の世界を出てしまって、飼い馴らされた動物のようなものだった。

かつてのソ連や東欧、あるいはイスラム世界は、西側から入り込んでくるリベラリズムの危険を知っていたのだと思う。ソ連では80年代までロックが禁止だったし、そうしたものは、資本主義の堕落した文化だと言われていた。それを西側世界では、ソ連は共産主義だから自由がないのだと言っていたけれど、今にして、あれが文字通り資本主義の堕落の文化だったのだということがわかる。堕落というより、お金に依存する奴隷にしてしまうための、悪魔の誘惑のようなものだと言った方がいいかもしれない。既存の伝統文化をすべて壊してしまえというのが、そこに入れ込まれたメッセージだったから。

90年代の初めに私が東京からオーストリアに移り住んだのは、あの頃まだヨーロッパには、伝統的な価値観というものが生きていたからだった。バブルの頃の東京を経験して、すべてがお金で動いていくことに息が詰まりそうだった。それでヨーロッパに行ってみて、ここではまだ筋が通った価値観が生きていると思ったのだ。ところが、ソ連崩壊後、ヨーロッパでも徐々にそうした価値観が破壊されていき、同時に伝統的な自立した生き方もできなくなっていってしまった。

結局のところ、人間としてやっちゃいけないことはやっちゃいけない、というようなことなのだけれど、それが守られるためには、自立し共生する生き方が機能している社会があることが必要だったのだ。それが失われたら、個々人は自由になったと思っていても、自分で考えることさえできず、正常な危機感を持つことさえもできない集団ができてしまうだけだった。

2024年4月26日




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【世界はどこへ向かっている?】



4月13日の夜に、イランがイスラエルに見事な報復攻撃を行なってから、ちょうど一週間した頃に、アメリカの議会がウクライナ支援を可決したのは、決して偶然ではないのだろう。つまるところ、イスラエルの戦争でもウクライナの戦争でも、背後で仕掛けているのはNATOであり、アメリカの諜報機関であり、軍事産業ロビーなのだ。イランの報復攻撃は、1000キロを越える距離から、人命の犠牲を出さずに精確に軍事施設を破壊できることを世界に示してしまった。そのため、イスラエルもアメリカも、中東ではうっかり手を出せないような状況になっている。

米軍の空軍基地があるシリアとイラクは、米軍が基地からイランに対して報復攻撃を行うことを禁止したそうだ。1月にイランのスレイマーニ司令官の命日に集まった人々が攻撃されたときにも、イランはシリアとイラクの米軍基地を報復攻撃した。それで、イラク政府が怒って、米軍に撤退を要求したことがあった。安全保障のためにということで、米軍基地を置かせているのだから、勝手に近隣の国を攻撃して、逆に攻撃されるような状況を作られるのでは、何のための安全保障協定なんだかわからない。

だから、やはりウクライナに武器を供給しようということになったのか何なのか、アメリカの議会でウクライナへの610億ドルの軍事支援が可決した。8割がたは米軍の武器を補填するのに使われるということだから、実際にウクライナに送られるのはそのごく一部にすぎないのだけれど、とにかく武器が来るのであれば、それを使って戦う人間が必要になる。それでウクライナは、国外に避難した人たちを動員しようとして、ウクライナ大使館は動員対象のウクライナ人たちに、パスポートを更新しないことになった。国内では相変わらず、志願兵を集めるという名目で、街頭で男たちを捕まえて、強制的に前線に連れ去ったりしている。

昨年夏の反転攻勢が失敗して以来、ウクライナでは毎日1000人近い兵士たちが犠牲になっている。2月にドンバスのアフデーフカが解放されてからは、毎日の戦死者は1000人を越えるようになった。まともな政府ならば、この状態で戦争を続けようとはしないだろう。しかし、ウクライナ政府はアメリカとイギリスの諜報機関に支配されている上、政治家たちは腐敗のお金で動いているので、やめようとはしないのだ。状況がわかっている人たちは、アメリカの軍事産業の雇用を増やすために、ウクライナ人が犠牲になるのだ、と言っている。戦況がよくなる見込みさえないのに、軍事産業に税金をまわし続けようとしているのだ。

ロシア政府は、アメリカが軍事支援を可決しても、大した変わりはないと言っている。ロシア軍は西側から送られてくる武器を片端から破壊しているし、ドンバスを次々と解放していっている。西側で最強の武器と言われていたレオパード戦車やエイブラム戦車も、ロシア軍は数万円でできるようなドローンで簡単に破壊している。3月22日のモスクワでのテロ事件のあとで、ロシアでは志願兵がまた増えたそうだ。

数日前から、モスクワの広場で、生け捕りにした西側の戦車を展示しているそうだ。何台もの戦車が、無傷で召し上げられて、展示されている。ということは、乗っていたウクライナ兵たちは、降伏するか逃げ出すかして、戦車をそのまま置き去りにしたわけだ。レオパードやエイブラムを破壊したら、けっこうな額の賞金がもらえるので、ロシア兵たちは喜んで狙ってくる。だから、戦車を置き去りにして、逃げた方がいいし、そもそも誰も乗りたくなどないのかもしれない。

そのせいなのか、ウクライナ政府は、エイブラム戦車は欠陥があるというので、使わないことにしたそうだ。F-16戦闘機も、ウクライナ政府がさんざん送って欲しいと言っていたのに、4月初めに、もう合わないからと断ったという話があった。この戦闘機は、特別に訓練したパイロットと地上チームが必要だからというので、ウクライナ兵を訓練していたというのだけれど、戦闘機などというものは、数カ月の訓練で乗りこなせるようなものではないらしい。結局、すぐに撃ち落とされて、無駄な犠牲を払うだけのことなのだ。

アメリカ国務大臣のブリンケンは、中国を訪問して、ロシアへの支援をやめさせようとしていたけれど、少し前に訪中したドイツ首相ショルツよりも、さらに冷たい扱いを受けていた。ショルツは、到着した重慶の空港で、市長代理が迎えに来ただけだったけれど、一応タラップに赤い絨毯が敷いてあって、出迎えの花束くらいはあった。しかし、ブリンケンが来たときには、赤い絨毯さえもなく、花束もなく、地方の何かの委員長が出迎えに来ただけだった。北京の空港から帰るときは、中国側からは誰も見送りに来る人もなく、来たのはアメリカ大使館の職員だけだった。アメリカ政府は、中国がロシアに輸出を続けるなら、中国に経済制裁をかけると脅しているらしいのだけれど、中国政府はもはやそんなものを恐れてはいないようだ。実際、経済制裁をかけたら、損害があるのはむしろアメリカの方なのだと思う。

NATOの武器が、ウクライナでもイスラエルでも勝ち目がないとなって、これまでアメリカの一極支配に抑えつけられてきた国々は、もうアメリカを恐れてはいないようだ。自分はウクライナにさんざん軍事支援してきて、中国にはロシアに支援するなとか、まるきり筋が通っていないし、もうそんな一方的な押しつけは、相手にもする気がないという意思表示なのだと思う。

一方、国連安全保障理事会では、中国は爆破されたロシアのガスパイプライン、ノルド・ストリームを国連で調査するべきだと、要請を出したそうだ。これまで、多かれ少なかれアメリカ政府の言うなりになっていた国連も、徐々に変わってきているようだ。

国外に避難したウクライナ人たちは、動員対象の年齢だともうパスポートが更新できないし、リトアニアやポーランドなどでは、ウクライナに送還すると言っているそうだ。戦場では毎日1000人以上も死んでいるのだから、誰も戦争に行きたくなんかはない。避難民を送り返すなんて、国際法でも人権侵害で違法だと思うけれど、そんなことは無視されているのだろう。

ところで、西側諸国に避難したウクライナ人たちの多くは、ウクライナに戻るくらいなら、ロシアに亡命するだろうと、ウクライナの元大統領顧問のアレストヴィッチが言っていたそうだ。西側諸国へ避難したウクライナ人たちは、ほとんどが戦闘のないウクライナ西部の人たちで、生活費がもらえるからと行っていた人たちも多い。さらには、戦争プロパガンダを広めるために、日当をもらって抗議活動をやっていた人たちも少なくない。こういう人たちを、ロシア政府が難民として受け入れるかどうかはわからないけれど、これはロシアを強めることになるだろうと、アレストヴィッチは言っていた。

アメリカの元大統領のトランプは、ドルから離れようとする国に経済制裁をかけると言っていたそうだけれど、ドルから離れようとする国は、そもそもアメリカとの経済取引を避けようとしているのだろうし、そういう国に経済制裁をかけたら、ますますドル離れするだけなのじゃないのだろうか? これもまた、トランプ特有の逆説的な発言のように思える。ロシアの資産を凍結した上、ウクライナ支援に流用してしまったために、世界中の多くの国は、米ドルをなるべく早く手放そうとしている。そして、アメリカではなく中国やロシアと取引しようとしている。

つまるところ、これまで世界を支配してきたアメリカの覇権が崩れ落ちようとしているのだけれど、アメリカ政府もアメリカの傘下の国々も、これまでのような一方的なやり方を変えようとはしないようだ。第二次世界大戦のときのドイツのナチ政権も、結局ソ連軍がベルリンを陥落するまで、戦闘をやめようとはしなかった。滅びるものは、滅ぼされるまで、とことん進んでいこうとするものなのかもしれない。

今はもう、アメリカの一極支配が崩壊することは確実なことで、ただどう終わっていくのかが違うだけなのだという気がする。適当なところで終わるチャンスは何度もあったけれど、やはり半端なところでは終わらないらしい。それなら、完全に滅びるしかないということだ。ウクライナもイスラエルも、国としては消えてなくなるのかもしれない。米ドルも国際通貨としての信頼を完全に失って、中国元やロシアルーブル、あるいはこれからできるBRICSの通貨が取って代わることになるのかもしれない。

今のところ、世界は混乱を極めているように見えるけれど、実は、進むべきところへまっすぐに進んでいっているのかもしれない。数カ月、あるいは半年後には、どこへ向かっていたのかが見えてきて、満足感を感じつつ、納得しているような気がするのだ。

2024年4月28日


モスクワで展示されているレオパード戦車


中国の空港でのブリンケン


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【戦争が作られる時代が終わる】



5月2日は、ウクライナのオデッサで、マイダン政権に反対する人たちの抗議デモが、暴力的に弾圧されて、多くの死傷者を出した事件があった10周年だったそうだ。2014年にキエフのマイダン広場で、EU加盟を要求するデモが行われていて、そこに過激な民族主義者のグループが加わって、暴力的なクーデターに発展した。それにより、ウクライナの政権はその過激な民族主義者に乗っ取られた。この政権が、ウクライナ民族至上主義を唱えて、ロシア語を話す人々を弾圧し始めたのだ。そのため、ロシア語を話す人々が多い東部で、この政権に抗議するデモが行われた。それが、いたるところで暴力的に弾圧された。

その弾圧というのが、通常の抗議活動で使われるような、催涙ガスだとか放水車だとかその類ではなかった。金属バットで殴る男たちがいて、銃を持って撃ちかかってきたり、戦車まで出てきたりもした。オデッサでは、デモの人たちが攻撃されて、労働組合会館に逃れると、過激な民族主義者たちが建物に火をつけた。そして、火から逃れようとして、人々が窓から出ようとするのを、銃で撃ってきて、道路に降りた人を、金属バットで殴り殺していた。

どう考えても凶悪な犯罪なのだけれど、捜査も行われず、誰一人として責任を問われなかった。ウクライナを追われた政治家のヴィクトール・メドヴェージェクは、この事件があった10日前に、マイダン政権の政治家たちが集まって、計画を立てていたということを、オデッサ騒乱10周年のインタビューで語っていた。オデッサの惨劇は、過激派グループが偶発的に起こした事態ではなく、計画的に行われていたというのだ。メドヴェージェクは、そのインタビューの中で、その政治家の名前も明かしていた。彼らは、この過激派グループをオデッサに運んでいたのだそうで、そのうちの一人は、計画が成功した報酬として、オデッサ知事のポストを得たということだ。

ウクライナでこのような暴力的な政権乗っ取りが行われたのは、ウクライナをロシアと敵対させて、戦争させるためだった。アメリカ政府は、プーチン政権がソ連崩壊後、ロシア経済を建て直して、NATOに対抗できる軍事力を持ってしまったのが、気に入らなかったのだ。何しろNATOは、ソ連崩壊後、世界中で不法な戦争のやり放題だったのだから。それで、何とかまた経済を崩壊させようとして、かつてソ連の一部だった国々の政権を乗っ取って、ロシアと敵対させようとしていた。それで、2年前にロシアがウクライナに軍事介入することになったけれど、この事態を引き起こそうとして、実はもう10年も前から計画が実行されていた。

5月2日は、1945年にソ連軍がベルリンを制圧して、ブランデンブルク門に国旗を掲げた記念日でもあった。79年前のことだ。ナチ政権に乗っ取られていたドイツは、やはり過激な民族主義者に支配されていて、ユダヤ系の市民を弾圧していた。しかし何よりも、ナチ政権はソ連のロシア人に敵対していて、ソ連に侵攻したドイツ軍は、いたるところで市民を虐殺していた。

当時ヨーロッパのあちこちにあったユダヤ人強制収容所には、ロシア人も多く収容されていて、虐待され、虐殺されていたのだ。この強制収容所は、実はもともとユダヤ人を収容するために計画されたのではなく、ロシア人を収容するためだったのだということを、ロスコスモスの元代表のドミトリー・ロゴジンが、ロシア在住のドイツ人ジャーナリスト、アリーナ・リップのインタビューで言っていた。しかしソ連は、ドイツ軍にモスクワまで侵攻され、最も多くの犠牲を出しながら、ドイツ軍をベルリンまで追い返し、第二次世界大戦を終結させた。

つまるところ、80年以上前にドイツに起こったことも、10年前にウクライナに起こったことも、同じことだった。ロシアを攻撃するために、英米のグローバリストたちが、まわりの国の政権を乗っ取って過激化させたのだ。そのために、もともとロシアと関係の深かったドイツやウクライナが分断させられて、敵対させられた。ウクライナなどは、関係が深いどころか、もともと同じ一つの国で、民族的にも違いがないのに、それでも違いがあるかのように思い込まされたのだ。

その一方で、今アメリカでは、学生たちの反戦デモが激しくなっている。大学でウクライナやガザの反戦デモが行われていて、警察が弾圧に入っているそうだ。アメリカ政府がウクライナやイスラエルを支援し続けていて、米軍の兵士たちも傭兵という名目で、ウクライナや中東へ送られている。そのような状況で、学生たちが抗議デモを行なっているのを、警察隊が催涙ガスやトウガラシスプレーで攻撃しているのだ。それで、この2週間で1500人も逮捕したということだった。まるで、ベトナム戦争当時の反戦運動と同じだ。いかに筋が通らなくても、いかに国民が反対していても、どうしても戦争を続けようとするアメリカ政府は、抗議活動を弾圧しようとして、国民に暴力を振るっている。

フランスでも、5月1日のメーデーに行われたデモで、多くの人々がウクライナやイスラエルへの軍事支援への反対を訴えていて、ここでも警察隊が放水したり催涙ガスを使ったりしていた。これもまた、ベトナム戦争当時の反戦運動を思わせる。フランスも、マクロンが軍隊をウクライナに送ると言い出して、騒ぎになっていたけれど、2022年からもう傭兵という名目でフランス軍の部隊がウクライナに送られていた。ロシア軍が兵舎をミサイル攻撃して、60人ものフランス兵が一度に犠牲になったこともあった。

ベトナム戦争も、国民の負担が重くなり、アメリカやフランスで反戦運動が激しくなった結果、米軍は撤退することになった。ちょうど十日ほど前に、アメリカの議会でウクライナへの支援が可決されたとき、ロシアの外務省報道官マリア・ザハロワは、アメリカはベトナムやアフガンのときと同じように、屈辱的な敗退を迫られることになるだろう、と言っていたけれど、その事態がすでに起こり始めているようだ。

やはりソ連の一部だったグルジアでは、今、外国のNGOを規制する法案をめぐって、激しい抗議デモが行われている。しかしこの抗議デモは、アメリカやフランスの反戦デモと違って、ソロスなどのNGOが組織しているものだ。アメリカの諜報機関は、グルジアもウクライナと同じようにロシアと敵対させようとして、工作を続けている。アメリカの諜報機関は、NGOを使って、民主化のためという名目で、反政府活動を組織して、政権を乗っ取るので、外国のNGOを規制する法律は、その影響力を抑えるために、必要なものなのだ。グルジアは、大統領がアメリカ政府の傀儡なのだけれど、与党の中には、グルジアのウクライナ化を防ごうとする政治家も多いらしい。それで、政府が出している法案に、大統領が反対するという、妙なことになっている。

ちょうど5月1日に、この法案が過半数で議会を通り、法律が可決されるまでには、もう一回議決を行う必要があるというところへ来たそうだ。そのため、抗議デモが激しくなり、テロも起こっていて、負傷者が出ているという。アメリカの諜報機関としては、この法律ができてしまったら、外国のNGOは外国のエージェントとして登録しなければならず、資金の流れをすべて報告しなければならなくなる。そうなったら、政治工作する活動が秘密裏に行えなくなってしまう。それで、何としてでも通すまいとして、ものすごいお金をデモを組織するのにばらまいているようだ。

しかし、ウクライナの戦争も、ベトナム戦争と同じように、終わる時がもう来ているような気がする。NATOがいくら軍隊を送り込んでも、もうウクライナには勝ち目はない。それでもとにかく、税金がアメリカの軍事産業に流れるから、何とか続けようとしているのかもしれないけれど、もうウクライナ人たちも、意味のない戦争をする気などなくなっているし、NATOの兵士たちも、ウクライナに送られるなどまっぴらなのだと思う。ウクライナでは、もう毎日のように1000人近くの兵士たちが犠牲になっているのだから。

これまでは、国際刑事裁判所も国連安保理も、NATOの戦争責任を問わずに済ませてきたけれど、この2年間で、世界の権力構造はすっかり変わってしまった。もうアフリカもアラブもアジアも中南米も、アメリカの言うなりになる国は少数派になっている。パレスチナの紛争の停戦決議が国連安保理で可決されたり、国際刑事裁判所でイスラエルのネタニヤフ首相に対する逮捕状が出されようとしていることからしても、もう国連機関もNATOがどうにでもできるような状況ではなくなっているのがわかる。

だからこそ、NATO側も必死になって、何とか戦争を続けようとしているのかもしれないけれど、こんな無法がまかり通るような時代は、いつまでも続くものではないということなのだと思う。あまりにも無法なことが当たり前のように押し通されていて、気が遠くなるくらいなのだけれど、こんな時代ももう長くはないのだと思う。

2024年5月2日

アメリカのカリフォルニア大学でのパレスチナ支援キャンプを排除しようとする警察隊。


カリフォルニア大学のデモと警察隊の動画


スコット・リッターの、グルジアのデモについての記事。

Deepl翻訳です。

...

グルジア前首相
ビジナ・イヴァニシヴィリは、ワシントンがグルジアをもう一つの最前線国家に変え、ロシアに対する「大砲の餌」にするためにNGOを利用することに警告を発した:

- サアカシュヴィリ、ボケリア、メラビシュヴィリ、アデイシュヴィリ、グヴァラミア、ケゼラシヴィリなど、これらの人々は、NGOによって組織された革命の後、グルジア当局の指導者に任命されたことを思い出してほしい。

-このような決定はすべて、NATOとEUに決定的な影響力を持ち、グルジアとウクライナを大砲の餌としてしか見ていない世界戦争党が行っている。 彼らはまずグルジアを2008年にロシアと対立させ、2014年と2022年にはウクライナをさらに困難な状況に追い込んだ。 世界戦争党がグルジアに対して攻撃的である主な理由は、多大な努力にもかかわらずグルジアを第二戦線にすることに失敗したからである。 国民はしばしば、なぜ海外の人々はNGOの透明性に対してこれほど熱狂的に闘うのか、と問う。"


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【本当の愛国心とは似て非なるもの】



5月9日は、1945年にソ連軍がベルリンを解放して、ナチス政権が降伏し、第二次世界大戦が集結した記念日で、ロシアではいたるところでパレードが行われる。この行事が世界でも特別なのは、一般の人々が戦争で戦った家族の写真を掲げて街を練り歩く「不滅の連帯」と呼ばれるパレードがあることだ。こうした記念日に軍隊のパレードなどがあるのは、世界中どこでもそうだけれど、ロシアでは、一般の人々が、当時戦った人たちに敬意と感謝の意を表す。この行列の人々の表情を見れば、これが決して形だけでのものではないことがわかる。

去年、このパレードのことを初めて知ったとき、一体こんなことがあるのかと思った。日本なら、戦死者の記念行事といったら、賛否両論があり、あの戦争が正しかったのかどうかという議論がある。あの戦争で戦った人たちに対して、日本人としてどう考えるべきなのかは、とても複雑な問題だ。しかしロシアでは、あの戦争で戦った人々は、まったく別な意味を持っているようだ。

2022年2月に、ロシアがウクライナの内戦への軍事介入を始めてから、ロシアはちょっと信じられないくらいに国際法を守った攻撃の仕方をするのだということが、よくわかった。戦争といったら、どちらが正義もないのだと、それまで私は思っていた。ところがウクライナでのロシア軍は、本当にウクライナの人々を守るために戦っていたのだ。

もちろん、日本やヨーロッパ、アメリカの傘下の国々では、ロシア軍はウクライナの領土が欲しくて侵攻してきたのだと報道しているから、そうした報道だけ見ている人には、そんなわけがないと思えるだろう。だけど、現地からの報道を見ている人たちなら、このことはよくわかると思う。ロシア軍は、市民を犠牲にしないようにしか、攻撃しないのだ。こんなバカ正直な戦争の仕方をする国があるのかと驚くくらい、見事に国際法を守っていた。つまり、ロシアはまったく「正しい」戦争の仕方をしていたのだ。

そんな現代のロシアで、ソ連のスターリン政権下で行われた戦争にこんな風に敬意を払うなんて、一体どういうことなのかと思ったのだ。それでいろいろ調べているうち、あの戦争はロシアにとって、他の国とはまったく違う意味を持っていたということがわかってきた。

第二次世界大戦は、イギリスもフランスもドイツも日本も、国外の領土をめぐっての戦いだった。いろいろな大義名分がついてはいるけれど、つまるところは植民地争いだったのだ。だから、ほとんどの戦闘は、国の外で行われていた。国外の領土のために、国民が戦争に駆り出されていたわけだから、当然、国民の間に賛否両論がある。それで、政府は戦争プロパガンダを流し、戦争を批判する人々を弾圧するといったことも起こる。

ところがソ連では、ほとんどの戦闘は国内で行われていたのだ。ナチ政権のドイツが攻めてきて、ソ連の市民を虐殺していたから、ソ連軍の兵士たちは、市民を守るために戦っていただけだった。実際、ソ連では第二次世界大戦で最も多くの犠牲者を出し、その多くは市民だったのだ。ここが、他の国とはまったく状況が違う。レニングラードでは長期間の包囲攻撃が行われ、そのために多くの人々が餓死したりもした。人々をそうした犠牲から救い出すために、ソ連軍の兵士たちは戦っていたのだ。そこには、戦争が正しいのかどうなのかといった議論の余地はない。戦うしかないから、戦っていただけだった。

ちょうど2日前の5月7日は、プーチンが新たに大統領に就任した就任式の日で、就任のスピーチで、プーチンはロシアの国民の利益と自由を守るために全力を尽くして、人々に奉仕するということを言っていた。当たり前のことを言っているだけみたいだけれど、プーチンが最初の就任以来、何をしてきたかを知っている人ならば、これがいかなる大仕事なのかは、よくわかると思う。ソ連崩壊後、西側資本に入り込まれて、ボロボロに食い物にされていたロシアを、プーチンは西側資本の腐敗を排除することで、建て直し、経済が国民の利益のためにまわっていくようにしていったのだ。プーチンが言う「国民の利益と自由のために」は、決して空文句ではない。まったく文字通りに、経済の収益が国民の利益になるようにし、人々が他の国に支配されたり操作されたりしないようにして、自由に生きられるようにすることを言っている。彼はまさにそのことを最初の就任以来ずっとやってきたし、これからの任期でもやっていくということを言っていたのだ。

英米のグローバル資本は、開発援助みたいなことを目的に掲げているNGOを送り込んできて、他の国の政府を腐敗させ、税金を自分たちの企業に流れるようにしたり、そればかりか内紛を起こして治安をかき乱したりもする。だから、領土が取られる以前に、国民の利益と自由がこうしたことで奪われていってしまうのだ。そして、こうした介入から「国民の利益と自由」を守るためには、超人的な技と結束した戦いとが必要になる。

ウクライナ紛争も、つまりはアメリカ政府がウクライナを操作して、ロシアと戦争するように誘導していって起こったことだった。だから、これは西側グローバル資本がロシアの主権を奪うために仕掛けたことだったと言える。ソ連が崩壊して、「国民の利益と自由」が西側資本に食い尽くされる状態になったように、ロシアを再び崩壊させてしまおうという計画だったのだ。そのための攻撃は、ありとあらゆる形で行われていて、ロシアは主権と独立を守るために、それと戦っている。

だから、プーチン政権のこれまでのグローバル資本との戦いも、第二次世界大戦のときのソ連の戦いも、つまりは国の主権を守るための戦い、「国民の利益と自由」を文字通りに守るための戦いだったと言える。そこには、戦いが是か非かという問いも、イデオロギーの問題もない。

そこまで見えてきて、ようやく、何故ロシア人たちは今でも、第二次世界大戦のときに戦った人々に敬意と感謝の念を表すのかが理解できる。そして、プーチンの就任式での言葉に、人々が涙を流さんばかりに感動していたこともだ。

今回のウクライナへの軍事介入でも、ロシアは志願兵がとても多いのだそうだ。ドイツ人ジャーナリストのトーマス・レーパーが、よく志願兵の部隊を取材していたけれど、ほとんどの志願兵たちは、人々を守らなければという思いで戦地に来ている。戦争が終わるまでは帰らないと言って、任期が終わってもまた戻ってくる人も多い。

戦争になると、「愛国心」が讃え上げられたり、強制されさえしたりするのが常だけれど、ロシアでは「愛国心」はそれとはまったく違うものなのがわかる。「愛国心」が強要されるのは、その愛国というのが、「国民の利益と自由」を守ってくれる国に対して、自然に湧いてくる愛のことではないからだ。それは実のところ、国民を支配する国家権力に自分から従うというようなことを意味しているにすぎない。そんな「愛国心」は、自然に湧いてくるものではない。騙されるか脅されるかでもしなければ、誰もそんなものを持ちはしないだろう。

ところがロシアには、本物の愛国心というものがあるのだ。それはロシアが、本当に「国民の利益と自由」を守る国、つまり国民に主権がある国だからに他ならない。

この何百年か、世界中で植民地争いが続いてきて、アフリカ、アジア、中南米はほとんどが植民地になり、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどでは、現地人が排除されて、イギリス人たちが白人の国を作った。世界中で、もともと住んでいた人たちが主権を持っている国は、実はほとんど残っていない。ヨーロッパも、外から操作された革命で政権が乗っ取られたり、最近ではNGOを通して操作されたりして、やはり主権が保てている国はほとんどない状態だ。だから、強要されなくても自然に愛国心が湧いてきて、そのために自分から戦地に行こうとするような人がいる国は、世界中でもほとんどないということになる。

ロシアは、世界中でもほとんど唯一、主権を持てている国で、私たちはロシアによって、主権がある国とはどのようなものなのかを知ることができるのだ。だから、ロシアがもし主権をグローバル資本に奪われてしまったら、もはや世界に自由はなくなるだろう。

今まさに、その瀬戸際の戦いが行われているのだけれど、ちょうどそのときに、プーチンが89%の歴史的な得票率で大統領に就任し、ロシアはかつてないほどに結束している。だからこそ、就任式のスピーチに、多くの人が涙を流さんばかりに感動していたのだ。こんな瀬戸際になって、これほどに結束しているからには、ロシアは勝利して、世界に平和と自由をもたらすことになるだろう。

世界中の多くの国、多くの人々は、プーチン政権のロシアとともに、グローバル資本から世界を解放する戦いを戦っているのだ。就任式のスピーチは、世界中のこうした人々にも向けられていたものだったのに違いない。私たちは、ロシアを通して、主権がある国とはどういうものなのかを知り、それを取り戻していくことになるのだと思う。

2024年5月9日


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【共生感覚とリベラリズム】



セミナーで、幸せだった過去の時間に戻って、その幸せを味わってくるというワークを皆でやっていると、不思議と誰も、大学に合格したとか、パーティの主役になったとか、事業に成功したとか、そういう普通に幸せと思われているようなことを思い出したりはしない。その代わりに、野原で遊んでいて楽しかったこととか、きれいな自然の中にいたときのこととか、あるいは誰かと一緒にいて楽しかったとか、そういう時に戻る人がほとんどだ。

実際、希望の大学に合格したとかそういうのは、いざ幸せの感覚を味わおうとすると、何だかものたりないのだ。そのときは最高の幸せだと思っていたはずなのに、実は頭でそう思っていただけだったらしい。本当にしみじみと幸せを味わっていたのは、何かに成功したとか、何かをもらったとかそういうことではなくて、野原で無心に遊んでいた子供の頃だとか、何ということもなく家族と過ごした時間だったりする。

私たち人間は、実はそういう風に自然の中で過ごすようなときに、一番幸せを感じるらしい。何かに成功するとか、何かを手に入れたとか、そういうことは、実は競争社会の中で植えつけられた価値観にすぎなかったようだ。結局のところ、自分の方が勝ったとか、自分だけ認められたとか得をしたとか、そうしたことは、つまりは自分の方が上だという優越感みたいなものでしかなかったりするからなのだと思う。

きれいな自然の中にいて幸せだというような感覚は、どっちが勝ったとかいうこととは、まったく無縁だ。それは、全身で感じる幸福感で、あらゆるレベルで大きな全体と有機的に繋がっているという感覚なのだ。自分がそうした全体の中の一部で、すべての感覚、すべての行動でたがいに作用し合っているという共生感覚だ。それこそが、至福の感覚になっているのだと思う。

多極的な世界とは、つまりはこうした世界なのだと思う。どちらが上もどちらが支配しているもない。ありとある繋がりがあり、すべてが作用し合っている、大きな全体があるだけだ。そして、その世界に生きることは、理屈ではなく、単純に幸せな感覚なのだ。

支配と戦いの時代が始まったとき、自然と共生する至福感の中で生きていた人たちは、次第に競争に勝つことが価値観になっていく。人より豊かであること、支配力を持つこと、人の上に立つことが、幸せなことだという価値観に置き換えられていくのだ。だから私たちは、ほとんど無意識に、人に勝つこと、人よりもよい成績を収めること、世間に認められること、人よりよい物を所有することなどを、幸せだと思って追いかけていく。しかし、そうしたときに感じる幸せは、理屈だけのもので、満たされる感覚ではない。おそらくは、だから私たちは、競争に勝つことや何かを消費することに、依存状態になってしまうのだろう。それは本当の幸福感ではないからだ。

先日、ロシアの哲学者アレクサンドル・ドゥギンに、アメリカのジャーナリスト、タッカー・カールソンがモスクワでインタビューした20分ほどの動画が、公開されていた。その中で、ドゥギンは西側諸国が危機的な状況にあることの根底的な原因になっているものはリベラリズムだと、興味深いことを言っていた。

それというのも、リベラリズムは、それまでの伝統的な価値観を束縛であるとして、そこから解放されるべきだとして、伝統的な集合的なアイデンティティから個人を切り離してしまうからなのだと、ドゥギンは言う。伝統的な集合的アイデンティティとはつまり、自分はどの一族の人間だとか、どの村の人間だとか、あるいはどこの神社の氏子だとか、神田川の水で産湯をつかった江戸っ子だとか、あるいは月山を見て育った庄内の人間だとか、そういう帰属意識だ。そこから、どう生きるべきかという価値観もあり、同じ価値観で生きている人間同志としての連帯感とか親しみとか信頼感とかそういうものも含まれる。

リベラリズムは、こうしたものを束縛であるとして、そこから脱出することで、自由になれるのだと言っている。しかし、伝統的な価値観への帰属意識を捨ててしまったとき、人は孤立した個人でしかなくなってしまう。そして、つまるところは、街へ出て雇われ人になることになるのだ。そこでは、お金を稼いで特別な消費をすることだけが、自由の表現のようになっている。してみると、リベラリズムは、自由になれると言いつつ、結局のところ、人を資本主義経済の奴隷にしてしまったということになりそうだ。これが西側諸国が危機的な状況になっていることの根本の問題だというのは、実に鋭い指摘だと思う。

このことは、ミヒャエル・エンデの「モモ」に出てくる灰色の男たちの話を思い出させる。灰色の男たちは、人々がのんびりとした時間を過ごして幸せを感じていたのを、それは時間の無駄遣いだと言い聞かせて、その代わりに「意味のあること」をするようにし向けていく。その「意味のあること」というのが、つまりはお金を稼ぐことだとか、学校でいい成績を取るべく勉強することなのだ。その結果、のんびりと幸せを感じて、たがいに助け合いながら平和に生きていた人たちは、たがいに口を利く暇もなくなり、仕事に追いかけられるようになっていく。

生きる意味がわからないという悩みは、近代になってから初めて出てきたことだと思う。伝統的な集合的なアイデンティティを持って生きている人たち、生まれ育った土地の自然との共生関係の中で生活している人たちにとっては、その多層的多極的な大きな全体の中で生きることそのものが生きる意味なので、意味があるとかないとか頭で考えるようなものではなかったのだと思う。このことは、自然な環境の中で、自然と共生する生活をしてみると、理屈ではなくわかる。野草を採って食べたり、畑を作って野菜を育てたりしていると、そうしたことをしながら生きていくことそのものに、深く満たされる感覚があり、それ以外に生きる意味などというものを探す必要などなかったことがわかるからだ。

自然と共生して、大きな全体の中で生きる至福感や、その土地に代々生きてきて、自然と共生する技を作り上げてきた先祖たちの末裔だという帰属意識。そうしたものこそは、自分が世界に存在する意味を感じさせるものだと思うけれど、そうしたものから、リベラリズムは人を引き離してしまうのだ。そんなものは束縛だとか、貧乏くさいとか、田舎者だとか、古くさいとか言って、もっと自由で豊かになれるのだと言って聞かせる。それはある意味、まるで悪魔の誘惑そのものだ。自由になれると言って、実は奴隷にしてしまうのだから。

本当に満たされる感覚がないままに、一時の成功だとか新しい所有物だとか、旅行だとかパーティだとかの快楽を幸福と取り違えて追いかけていっているうちに、私たちはそうした快楽にすっかり依存してしまう。いくら得ても、本当の満足感が得られないので、もっともっとと求めることになる。そして、得れば得るほど、ますます生きる意味がわからなくなっていくということになる。

アレクサンドル・ドゥギンは、だからリベラリズムはどんどん急進的になっていくのだと言っている。今やLGBTみたいに男か女かという集合的アイデンティティさえ束縛であると言って、人々にそこから解放されるよう言い聞かせているし、その次にはトランスヒューマニズムみたいに、人間であるということからも自由になるべきだという方向へ行くのだろうと言っていた。まさにリベラリズムは、自己破壊的な方向へ向かっていくのだ。

資本主義は、そうやってリベラリズムとともに、人々を伝統的な共生する生活から引き離して、お金で動く労働者にしていったのだ。しかし、生産性が上がっていくと、労働者層も豊かになっていくので、この支配構造はいつかは崩れることになる。

今、地の時代から風の時代に移って、2000年続いてきた支配と戦いの世界が、多極的な共生の世界へ再び切り換わろうとしているようだ。多極的とは、単に複数の政治権力が対等な協力関係を作って、世界のバランスを保つというようなことだけではなく、上へ上へと目指していくようなこれまでの生き方そのものが、根本的に変わるということなのだと思う。それは、経済繁栄を目指すとか技術開発を進めるとかいうようなことではなくて、自分の足元に意識を向けるようなこと、つまり、自然と共生する至福感を思い出すようなことなのだと思う。

2024年5月12日


ラズベリーの花



アレクサンドル・ドゥギンのインタビュー。日本語字幕版です。

アレクサンドル・ドゥギンのインタビューの日本語版文字起こし。

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【支配のための核兵器と自衛のための核兵器】



ロシアが戦略核兵器の演習をするというので、西側メディアは、ロシアが核兵器で脅していると大騒ぎしている。実際には、演習は定期的に行なっているもので、アメリカでもどこの国でもやっているようなことにすぎないらしい。ただ、NATO諸国がウクライナに軍隊を出すとか、ウクライナの外からミサイルでロシアの領土を攻撃するとか、この頃発言していて、ロシアとしては、その方向でいったら、どこへ行き着くのかを示す必要があるのだと思う。

プーチン大統領は、2022年2月に軍事介入が始まった当初から、これはロシアの存続がかかった戦いなのだということを言っていた。ウクライナ内部での紛争が、何故ロシアの存続に脅威を与えるのかということは、当初は理解できなかったけれど、この2年で、NATO諸国の狙いはロシアを弱体化させて、政権を乗っ取ることだったということが、だんだんとわかっていった。ウクライナは、2014年に起こったクーデターで、アメリカの傀儡政権に入れ換わったのだけれど、それはウクライナにロシアと戦争させて、ロシアを弱体化するためだったのだ。

アメリカは、核兵器を作った最初の国で、唯一実戦に使った国でもある。アメリカの政府は、軍事産業資本に支配されているけれど、彼らはまさにアメリカを、軍事力で脅して世界中を支配するマフィアのような国にしてしまったのだ。それで第二次世界大戦後、アメリカは世界中で戦争を起こしては、多くの国々を事実上の属国のように支配してきて、一度も攻撃されることがなかった。核兵器を持っている国を攻撃することはできない。そのため、アメリカの覇権支配から逃れようとする国は、自らも核兵器を所有することで、アメリカの脅しから身を守るしかなくなった。

核戦争の危機と言ったら、1962年のキューバ危機がある。10月16日から十日ほどの間、世界は核戦争の危機にさらされたと言われている。ソ連がキューバに核ミサイルを配備したからだという話だったけれど、改めて調べてみたら、実はアメリカの諜報機関がしかけていたことから来ていたことがわかった。ソ連は、理由もなくアメリカを攻撃しようと思って、キューバに核ミサイルを配備したわけではなかったのだ。キューバがアメリカに乗っ取られそうになっていたから、核ミサイルを配備することで、アメリカの侵攻からキューバを守った。それで、当時のキューバのカストロ政権は、政権を守ることができたわけだった。

キューバ危機の3年前に、キューバ革命が起きて、カストロが政権を取ることになったのだけれど、それまでのキューバはアメリカの傀儡政権に支配されていた。キューバの農地の7割が、アメリカの企業の所有だったというから、つまりは事実上の植民地だったのだ。カストロ政権は、アメリカの傀儡政治家を排除して、農地を接収し、国有にして、利益が国民に還元されるようにしていた。

それでアメリカの諜報機関が、カストロ政権を転覆させて、キューバを再び傀儡政権にしようとしていたのだ。そのために、キューバの亡命者たちを反革命軍として組織していた。キューバの亡命者たちというのは、つまりはアメリカの傀儡政権下で、賄賂をもらってはキューバの農地などを売り渡していた売国奴たちだということになる。こういう人たちに武器を持たせ、軍事訓練をして、キューバを攻撃させようとしていたのだ。

当時のケネディ政権は、軍部に説得されて、米軍が介入しないのであればということで、この作戦を承諾したそうだ。しかし、亡命者の反カストロ軍は作戦に失敗して敗退した。それで米軍はやはりキューバに侵攻しようとしたのだけれど、ケネディが承諾しなかった。そうでなかったら、米軍がキューバに侵攻して、イラクやリビアのようなことになっていたかもしれない。アメリカの諜報機関の目的は、まさにそれなのだ。解放戦争といって、政権を転覆させ、大統領を殺害して、事実上の植民地にすること。
その後、ケネディ政権はマングース作戦というカストロ暗殺を含むカストロ政権転覆計画に切り換えて、1962年10月までにはカストロ政権を転覆させる予定だったそうだ。キューバ危機は、まさにその10月に起こったのだ。

乗っ取られる危機に迫られたカストロ政権は、ソ連に援助を求めた。それで、ソ連軍が船に資材を積んでキューバにやってきて、核ミサイルを配備するための軍事基地を建設することになった。かなりの数の軍隊もキューバに来ていたらしい。しかし、そうでもなかったら、キューバは米軍に侵攻されて、再びアメリカの植民地のようにされていたところだったのだ。

1962年の10月に、ソ連の核ミサイルがキューバに配備されていることを、アメリカの諜報機関が発見した。そこから世界が核兵器戦争の危険にさらされた十日間が始まったということだった。しかし、ソ連もキューバも、米軍の侵攻を防ぐために、核ミサイルを配備していただけだった。アメリカがキューバ攻撃をやめさえすれば、核戦争に発展する危険などはまったくなかったのだ。

それが、まるでソ連がキューバを利用して、アメリカを核攻撃しようとしているかのように報道されていた。だから、核兵器戦争まであと一歩というところまで来ていたように思われていたのだけれど、事態はそういうことではなかった。起こったことはつまり、ソ連が核ミサイルを配備したことで、アメリカはキューバと平和的に交渉しなければならなくなったということだった。その結果、ケネディ政権は、キューバを攻撃しないと約束して、ソ連は核ミサイルを撤去した。

アメリカの経済学者ジェフリー・サックスは、アメリカの諜報機関は、他の国の諜報機関とは違って、外国で紛争を起こさせたり、クーデターを起こしたりする作戦を行う機関なのだということを言っていたけれど、キューバ危機の頃は、まだかなり大っぴらにやっていたことがわかる。あの頃は、中央情報局が直接やっていたけれど、後にはNEDのような「民主化のため」の活動をするということになっている政府機関だとか、海外支援のための慈善組織だとかが、その仕事を行うようになっていったのだ。そのために、構造が見えにくくなっていった。しかし、そうした表向きは平和そのもののように見える組織の後ろには、やはり中央情報局がついていて、その指示によって動いている。

そうやって、チベット紛争もウクライナのマイダン革命も起こされたし、最近では、ハンガリーでの反政府デモや、グルジアでの外国のNGOを規制する法案に反対するデモなども、同じようにして組織されていた。つまりは、アメリカのグローバル資本、とりわけ軍事産業資本の利益に反する政権は、そうやって転覆させようとして、あらゆる攻撃が加えられてきたのだ。

そこまで見えてきてようやく、ウクライナの紛争への軍事介入が、ロシアの主権を守るための戦いだったということが理解できる。30年前のソ連崩壊で、ロシアがアメリカのグローバル資本の言うなりになる政権に入れ換えられたあとで、プーチン政権ができて、政治腐敗を一掃してしまった。それで、西側のグローバル資本はそれまでのようにロシア経済を搾取することができなくなった上、アメリカの国外での政権乗っ取りに軍事介入してくるようになった。それで、プーチン政権を転覆させて、ロシアを再び言うなりになるようにしてしまおうという作戦だったのだ。そのために、ロシアが軍事介入する以外にないところまで、ウクライナ軍にドンバスの住人を虐殺させていた。

その後、ドンバスは住民投票でロシア併合が決まり、ロシア軍はドンバスを次々と解放していっていて、ウクライナ軍は壊滅状態だ。それなのに、西側諸国はウクライナに停戦させようとせず、軍事支援をやめようとしない。普通の方法で勝ち目がなくなったからか、ミサイルでロシアの国境の街を爆撃したりしている。それで今、ウクライナの外からロシアをミサイル攻撃することも許容の範囲だと言い出しているのだ。つまり、ロシアを核攻撃することもあり得るという事態になっている。

ロシアが核兵器を保有しているのは、まさにそうした事態に備えてのことなのだ。西側の軍事産業資本にとっては、自分たちが攻撃されないなら、他の国が核攻撃で廃墟になってもかまわないらしい。実際、できたばかりの核爆弾を、日本で2回も投下したし、その破壊力を見ていながら、さらに破壊力の強い爆弾を作り続けていた。まさに気狂いに刃物といった状況なのだけれど、これに対抗して主権を守るためには、同等の核兵器を保有して、何かのときには、それを使う用意があるということを示すしかない。それによって、相手を正気に戻して、平和的に交渉する道があることを、思い出させるしかないわけだ。

2024年5月14日


キューバ危機当時のフィデル・カストロ


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【なぜハルビンなのか?】



ロシアのプーチン大統領が、再選されて初めての外国訪問で、ラブロフ外相の他に新旧の防衛大臣2人を連れて中国に行ったのは、何かしら歴史的な変化を感じさせるできごとだった。防衛大臣を連れて行くからには、安全保障に関することが中心になるのだろう。しかも、中国の習近平が、ヨーロッパを訪れて、フランスとセルビアとハンガリーの3ヶ国だけを訪問して帰ったあとにだ。

セルビアとハンガリーは、ウクライナ支援に反対しているほとんど唯一のヨーロッパの国で、そのためにあらゆる形で攻撃されている。この2つの国を訪問して、熱い歓迎を受けている習近平の姿は、2つの国が受けている不当な扱いを中国は許してはいないのだということを示しているように思えたし、それによって、これらの国ももう負けてはいないのだという気がした。

プーチンの一行は、たった2日の訪中で、北京とハルビンを訪れた。ハルビンといったら、満州の主要な都市で、満州鉄道の要地として栄えたことで有名だ。満州鉄道といったら、満州事変のときに爆破事件があった鉄道だから、日本が作ったのかと思っていたら、作ったのは実はロシア帝国だった。シベリア鉄道の一部として、ウラジオストックから満州を通っていく路線が満州鉄道だったのだ。日本が満州鉄道を所有したのは、日露戦争に勝ってその一部をもらったからだった。満州の関東軍は、もともとは満州鉄道を守るためのものだったそうだ。

ハルビンは、1898年にロシア帝国がウラジオストックから満州を通る鉄道を建設し始めてから、ロシアや中国の移民が急激に増えて、栄えていったそうだ。そもそもロシア帝国が中国の地方に鉄道を建設することになったのは、日清戦争で遼東半島を取られそうになり、中国がロシアに助けを求めたからだった。ロシア帝国は、フランスとドイツとともに、遼東半島を中国に返還するよう勧告した。その後、ロシアと中国は安全保障条約を結び、中国はロシアに満州を通る鉄道を建設することを許可したということだった。だからハルビンは、中国とロシアの相互協力関係からできた街だと言えるわけだ。

日本の歴史では、ロシアが満州に鉄道を建設したのは、アジアへ向かって領土を拡大しようという帝国主義的野心のゆえだという風に解釈されているけれど、この2年間ロシアのことをいろいろ調べてきたあとでは、それこそはロシアに対する敵対意識をかき立てるための作り話にすぎなかったと思える。ロシア帝国は、あれほどの広大な領土を持っているけれど、そのどれもが侵略して奪い取ったものではなかったのだ。まわりの国が他の国に侵略されて、ロシア帝国に助けを求めてくるので、結果的にロシアの領土が増えていく。まさに今、ウクライナの東部地域で起こっていることと同じだ。

ウクライナの東部地域も、ウクライナ政府に弾圧されて、軍事攻撃されたりしなければ、ロシアへの併合を求めたりはしなかっただろう。ドンバスの再三の要請にようやく答えたのが、2022年2月のウクライナ侵攻だったのだ。その後、ドンバスは正式にロシアに併合され、ロシア政府が資金を投入して、街を復興し、道路なども整えた。こうしたことは、実はロシア帝国がずっとやってきたことだった。保護を求められて領土を併合したら、そこの人々が満足するように、帝国の富を投入して、整えるのだ。きれいごとのように聞こえるかもしれないけれど、ともかくそれがロシア帝国のやり方で、だからこそロシア帝国はあれほど広大な領土を持つようになっていった。

ハルビンでは、日露戦争後の1908年にロシア様式のカテドラルが建てられたり、極東最大のロシア系百貨店ができたりしているから、その頃にいよいよ栄えていたのだ。ハルビンは、まさに植民地支配の力に対抗しようとして、中国とロシアが結束した結果、栄えた街だったと言える。プーチンが今回のツアーで訪問したハルビン工業大学は、1920年にロシアが鉄道技術者を養成するために作った学校だった。今は宇宙開発技術でも有名だというから、まさにロシアと中国の協力関係によってできている大学なのだと思う。

日本が明治以降、イギリスの傀儡政権のようになって、急激に軍国主義化し、最初に侵攻したのが朝鮮半島から満州にいたるロシアと中国との間の領域だったことを思うと、まさにこの中国とロシアとの繋がりをこそ、イギリス政府は破壊したかったのだろうと思う。ロシアの西側では、ドイツとロシアの繋がりを破壊しようとして、ドイツを操作してロシアに侵攻させていた。ロシアとドイツという2つの強い国が結束してしまったら、イギリス政府は好き勝手に世界を植民地支配することができなくなってしまうからだ。それと同様のことが、ロシアの東では中国との関係だったのだろう。これを破壊することで、ロシアの世界的な影響力を殺ぐことができるということだったのだと思う。

事実、冷戦の時代には、NATOもまったく好き放題にするということはできずに、世界はかろうじて均衡を保っていた。それが、ソ連が崩壊したとたんに、世界中で乱暴狼藉と言えるような事態が次々と起こるようになっていったのだ。言いがかりみたいな理由でいきなり爆撃して、あとでそれが間違いだったとわかっても、何の責任を取るわけでもなく、裁かれもしないという状況だ。

2022年2月にロシアがウクライナの内戦に軍事介入してからの2年間、私たちは戦争がどのように作られ、演出され、嘘が報道されていくのかということを、ことごとく見てきた。どのように偽旗が工作され、どのように演出されて報道され、侵略が解放と呼ばれ、解放が侵略と呼ばれるのを見てきた。そうしたことを見てきたあとで、ようやく私たちは、とてもわかりにくい現代史を読み解くことができる。現代史がわかりにくかったのは、嘘やごまかしが入ったままで伝えられ、ちっとも筋が通っていなかったからだったのだ。

そもそもどうして日本は、朝鮮半島や満州に出かけていって、領土を増やすことになったのだろう? 日清戦争は、朝鮮半島の農民の反乱を日本軍が支援するというようなことから始まったらしいけれど、これはチェチェンやシリアでも使った手のようだ。反政府組織を作って武装させ、弾圧から解放すると言って政府軍を攻撃し、政権を乗っ取ってしまうというやり方だ。つまるところ、明治維新だって、そうしたものだった。維新軍は、イギリスが資金を出して武装させ、軍事訓練をして、江戸幕府を倒すために戦っていたのだ。

日清戦争に勝って、朝鮮半島を支配していた日本に、この領土化は不当だといって返還するように言ってきたのが、ロシア帝国だった。事実、日本は朝鮮半島を弾圧から解放するためにと言いながら、実のところ植民地支配していたのだから、これは正当な批判だ。それで日本は、ともかく遼東半島を返還することになった。それで次に日露戦争になり、日本はロシアを排除して朝鮮半島の領有を認めさせ、満州鉄道の一部の権益を得ることになった。

1931年の満州事変では、満州鉄道が中国軍に爆撃されたというので攻撃し始めたのだけれど、これは実は日本軍が爆撃して、中国軍がやったことにした偽旗作戦だった。そのときに、中国軍がやったという根拠になったのが、現場で中国兵の帽子と銃が発見されたからだというのだけれど、このときの写真はまるでやらせ写真そのもののリアリティのない写真だ。今だったら、911のときみたいに、現場にパスポートが落ちていたとかいう話になっていたところだろう。

それで、満州が清に攻撃されているというので、満州を保護するために独立させるということになったのだけれど、この満州国というのはつまりは日本の傀儡政権だから、事実上の植民地化だった。これも、コソボなどでも使われてきた手だ。少数民族の解放のためにといったら、一見よさそうに思えるけれど、実は分割して傀儡政権を作ってしまうようなことだったりする。ともかくそれでハルビンは日本に占領され、ロシア帝国が作ってロシア語で教えていたハルビン工業大学でも、日本語で教えることになった。

第二次世界大戦では、日本政府に支配されていた満州を、ソ連と中国がともに戦って返還させたのだ。ハルビンを訪れたプーチンは、ハルビンのソ連兵戦死者の記念碑にも献花していた。満州は、ソ連が主に戦って解放したのだけれど、ソ連は満州を領土化しようとはせず、中国に返還した。それを見ても、ロシア/ソ連が領土拡大のために他国に侵略しようとしているというのは、作り話にすぎないことがわかる。ハルビンは、その意味でも中国とロシアの結束の歴史を象徴する街なのだ。

北京での会談のあとの記者会見で、習近平とプーチンは、世界の多極的な構造を強めることにより、世界に平和的な秩序が生まれるということを言っていた。一極支配は世界を無秩序状態にしてしまう。だから、中国とロシアが対等な関係でたがいに違いを尊重した協力関係を強めることで、世界に公正で民主的な秩序ができるのだと。習近平がフランスとセルビアとハンガリーを訪問したのも、プーチンが北京とハルビンを訪ねたのも、対等でたがいのあり方を尊重し合う国際関係を強めていくためなのだ。

この200年ほど、世界は一極支配によって、筋も通らないような戦争や侵略がさんざん行われてきた。ロシア帝国/ソ連/ロシアは、それに対抗して批判したり、奪った領土を返還させたり、あるいは保護するために併合したりしていたから、一極支配の勢力に憎まれ続けてきたのだ。私たちは、国というものは自国の領土拡大や権益を追求して、他の国を攻撃したり支配したりするのが当たり前だと思っているようなところがあるけれど、これは作られたものにすぎないと思う。侵略されたり植民地支配されたりしないのならば、他の国を警戒する必要もなく、助け合って生きていこうとするものだからだ。

結局のところ、この200年ほどの戦争は、一極支配によって作られてきたものだったのだから、それに対抗する国が結束していけば、もう戦争で国際紛争を解決する必要などなくなるはずなのだ。誰だって本当は公正な世界を求めているのだし、裁かれるべきものがちゃんと裁かれるなら、戦争に発展することなどはもうあり得ないからだ。

2024年5月17日


ハルビン工業大学でスピーチするプーチン大統領


ハルビンのロシア系のチューリン百貨店


満州事変の口実になった満州鉄道爆破事件で、中国軍のしわざだという根拠になった中国軍の帽子と銃。


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【ライシ大統領のこと】



イランのライシ大統領が、ヘリコプターの墜落事件で亡くなったということだった。この頃、アメリカの覇権主義に抵抗している国の首脳がテロに遭うことが続いていたから、おそらくは諜報機関が工作したことなのだろう。少なくとも、多くの人はそのように考えているようだ。

悪天候の中での墜落だったので、テロかどうかの確定は難しい。イランは、テロ行為には相応の報復を行うと宣言していたけれど、確定できない状況では報復もできないだろう。しかし、イランがどう反応するのかで、中東の状況も大きく変わってくる可能性がある。

亡くなったライシ大統領の魂にアクセスしてみると、エネルギーがあまりにも暖かいので、ちょっとびっくりした。怨みの念も悲哀の念もまるでなかった。自分は決して譲らなかった、最後まで使命を貫き通したという満足感があり、まっすぐにアラーの元に還ったように思えた。イスラム教徒として生きてきた指導者とは、こんな風なのだろうか。だからイラン国民は、イランの指導者を信頼するのだと、何だか納得できた。

イスラム教は、神への絶対服従を命じているから、狂信的で独裁的な宗教なのだろうと思われているけれど、それはロシア恐怖症と同様に意図的に作られた印象にすぎない。イスラム教国は何をするかわからない恐ろしい国なのだと思わせて、NATOの攻撃を正当化するためなのだ。そうしたことを私たちは、アフガンでもイラクでもシリアやリビアでも見てきた。

イスラム教国は独裁国家だと言って、国民を独裁から解放するためにと爆撃するのだけれど、結局のところ、それで油田を独占しただけで、ボロボロに破壊された街はそのままに放置されている。これが国民を解放するためなどではなかったのは、明らかだ。大量破壊兵器を所有しているとかいう話も、あとで間違いだったとわかっても、裁かれもせず、賠償も謝罪もない。

コーランの中で、神が怒り狂って罵倒しているような部分だけが取り上げられて、だからイスラム教は恐ろしいという話がよく語られている。だけど、コーランをよく読んでみれば、神が怒っているのは、神を偶像化して、支配に利用している人たちに対してだけだということがわかる。むしろ、イスラムの人たちにとっては、何よりもアラーは、かぎりなく慈愛深い存在なのだ。

イスラム教は、ユダヤ教、キリスト教の改革といったもので、つまり組織化したことで本来の形から離れてしまった教えを元の形に戻そうとしたものだと言える。2000年ほど前にナザレのイエスが出てきて、無条件の愛である神の教えを取り戻したものの、その後まもなくローマ帝国がキリスト教の教えを支配に利用するために書き換えてしまった。イスラム教が生まれたのは、まさにそれを修正するためだったと言える。だからコーランの神は、あんな神は本当の神ではないと、ものすごい怒りようなのだ。

亡くなったライシ大統領の魂は、女性的にも思えるほどに柔らかく暖かな慈愛深いエネルギーだった。イスラム教徒として、慈愛深いアラーの神とともに生きてきた人だということを感じさせた。イスラム教でもキリスト教でも、死後の魂のために、生きている間は善行を積むようにと教えているけれど、本来は、それは生きている間は我慢して、死後のために貯金をしろというようなことではない。意識の領域のことを知っている人ならば、悪事を行なったときに、それがのちのち死後に至るまで魂に悪影響を与えて、それが代々継承されていくことを知っていると思う。それは悪事をなしたら罰されるとかいう問題ではなく、自分の魂に正直でないことをしたとき、心が閉じてしまうので、大きな力と繋がれなくなるからなのだ。

宗教は本来、こうした次元のことを人々に教えるものだ。そうした次元で何が起こるのかを知っていたら、人は目の前の損得で行動したりせずに、良心に従って生きようとする。それは、三次元的な現実の損得で動くのではなく、ずっと大きな多次元的な領域で生きることであり、その大きな連続性の流れの中で生きることだと言える。

だからこそ、支配者はこうした繋がりを断ち切ろうとするのだ。こうした連続性の中で生きている人を、支配することはできないからだ。しかし、こうした永遠の繋がりを断ち切ってしまうと、人はお金や脅しでどうにでも動かすことができる。支配者たちが、こうした大きな繋がり、宗教的、文化的、民族的な繋がり、家族の繋がりといったものから人を切り離そうとして、個人の自由が何よりも大事だと思わせているのは、実はそれによって、支配可能な人間にしてしまうためなのだ。だからそれは、悪魔の誘惑にかかった奴隷のようなものだ。

その意味で、イスラム教国とロシア正教の国は、こうした大きな連続性を保とうとしていると言える。ロシア正教は、ローマ帝国の支配の道具と化していくカトリック教会から、ある時点で離れていき、ナザレのイエスの精神を守った。だからある意味、ロシア正教とイスラム教は、同じ教えの2つの形だとも言える。

政治家が、宗教的な大きな連続性の中で生きていればこそ、国民は政治家を信頼することができる。お金や脅しで国民を売るようなことがないと、確かにわかるからだ。良心に従って、国民が幸せになるように奉仕すること。政治家とは、本来はその使命を果たすことで、報酬を税金から受け取るのだ。

ライシ大統領のエネルギーとアクセスしていると、絶えずイランを潰してこようとするアメリカ政府や諜報機関に対する憎しみのような念も感じられはするけれど、でも、それもすべてはアラーの御心のままだという信頼が、根底にあるように思えた。彼らは悪魔主義者たちだけれど、それもアラーの御心だからと、絶滅させようとは思っていないようだ。ただ、戦い続けることでバランスが取れるから、戦い続けることが大事だと思っている。

悪魔主義さえも、その戦いの中で、人間それぞれがどう生きるかを問われているだけなのだと思っているようだ。しかし、悪魔主義がいずれ消えていくのは、ちゃんと知っている。すべてはアラーの御心のままだから。それは、宗教的な信条であるというよりも、自然の生態系で自ずとバランスが取れていくのを知っているような、自然な感覚に思えた。

試練の中で、目先の利益に誘惑されずに、永遠の価値のために生きること。多くの宗教はまさにそのことを教えているのだけれど、今まさにその選択が問われているようだ。もし世界中の人々が目先の損得で行動したら、世界は悪魔主義者たちに乗っ取られてしまうだろう。しかし、それは起こらない。すべてはアラーの御心のままだからだ。イスラム教徒たちには、その信頼があるようだ。

イランは覇権主義に譲ることなく、抵抗し続けているけれど、それはイランのことだけではなく、世界が覇権主義から解放されるかどうかがかかっている。もしイランが折れてしまったら、世界のバランスは崩れてしまい、もはや世界が覇権主義から脱していくチャンスはなくなるかもしれない。

ロシアも、モスクワのコンサートホールでの大規模なテロに遭ったけれど、それによって覇権主義に折れることなく、ロシアはますます結束した。覇権主義者たちは、抵抗し続けている国の人々を絶望させて、もう従ってしまった方がいいと思わせるために、こういうテロを行うのだ。もはやまともに戦って勝つことができなくなったので、この頃は卑劣なテロばかりしかけてくる。それで折れてしまう国もあるけれど、しかしもはや多極化へと向かう世界の流れを変えることはできないだろう。それはもうあまりにも大きな流れになっているから。

イランは、5日間の喪に服すということで、追悼の祭礼が行われ、コーランが朗唱されて、人々が祈っていた。そのライブ動画を見ていて、イランの人々は、ライシ大統領のこの暖かい大きな慈愛のエネルギーを受け取っているのが感じられた。だからイランの人々は、このテロで絶望することなく、ますます結束して、世界を解放していくのだろう。そしてまた、この祈りを世界中でともにしている人々もまた、目先の利益ではなく、永遠の連続性を意識して生きていくことに、信頼を強めるのに違いない。

そうしたことを考えると、これもまた多極化へシフトしていくための、一つの力になったのかもしれない。少なくとも、この機会に世界中の人々が、ライシ大統領のこの大きな慈愛のエネルギーに触れることになったのだから。

2024年5月20日


イランのライシ大統領

ライシ大統領の追悼の祭礼の動画。

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【パレスチナは独立国家なのか?】



5月22日に、アイルランド、ノルウェー、スペインの3ヶ国が、新たにパレスチナを独立国家として承認したということだった。これで、パレスチナを国家として承認する国は、国連加盟国193ヶ国のうち、143ヶ国になった。ヨーロッパの3ヶ国が新たに承認することになったのは、EU外相のジョゼップ・ボレルが、EU諸国に5月末までにパレスチナを国家として承認するよう呼びかけた結果だということだった。

ということは、世界中でほとんどの国はすでにパレスチナを独立国家として承認しているのに、EU加盟国の多くは承認していなかったのだ。この事実には、かなり驚かされる。パレスチナは、第二次世界大戦後にイギリスから独立するのだけれど、1947年にはすでにパレスチナとイスラエルの2ヶ国に分割されるということが、国連で決議されていた。その翌年の1948年にイスラエルが独立国家として宣言していて、1949年には国連に加盟してさえいるのに、パレスチナはこの時点でまだ独立国家として認められてさえいなかったのだ。

パレスチナがようやく独立国家になったのは、1988年のことだった。そのとき、パレスチナを独立国家として最初に承認したのがソ連だった。そして、これまで国連加盟国193カ国のうち、140ヶ国が承認した。承認していなかったのは、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの英語圏の国と西ヨーロッパ、アジアでは日本、韓国、台湾、ミャンマーで、アフリカではカメルーンとエルトリア、中東ではイスラエルだけで、中南米はパナマとフランス領ギアナだけだ。つまり、パレスチナを承認していないのは、アメリカの傘下にある国だけだということになる。

昨年10月から、イスラエルがパレスチナを絶滅させるような勢いで無差別攻撃を始めてから、パレスチナを独立国家として認めるべきだという声が国際的に高まった。そのため、パレスチナを独立国家として国連に加盟させるべきだという決議が国連総会で行われ、143ヶ国が賛成した。その際に、EU外相のジョゼップ・ボレルが、EU加盟国にパレスチナを国家として承認するように呼びかけ、新たに3ヶ国が承認したということだった。

実に奇妙な話だ。パレスチナの地はもともとはイギリスの植民地で、第二次世界大戦後にイギリスがユダヤ人に言わば売ったのだ。それが、ホロコーストで迫害されたユダヤ人たちにもともとの故郷を還すべきだということで正当化されたのだけれど、その後イスラエルがパレスチナに住む人々を排除し続けていることを考えるならば、これはつまりは新たな植民地化にすぎない。国連では民族自決の原則に基づいて、2ヶ国に分割されるということが決議されていたのにも関わらず、50ヶ国ほどが今にいたるまで、パレスチナを独立国家として認めていなかった。つまり、パレスチナはイスラエルの植民地だというような認識だったわけだ。

パレスチナが独立国家でないならば、一体何なのだろう? イスラエルの一部であるならば、同じ国の人間を虐殺していることになるし、イスラエルのパレスチナ攻撃を支援するということは、内政干渉していることになる。それならば、イスラエルは国内の異民族を弾圧する独裁国家だということになるけれど、西側に与する50カ国は、パレスチナを承認せず、イスラエルを支持しているのだ。これはつまり、第二次世界大戦後、国連ができてから、手放したはずの植民地主義を、この50カ国はしっかりと保持していたということになる。民族自決ではなく、植民地主義的な領有権の方を優先しているわけなのだから。

昨年10月に始まったイスラエルとパレスチナの紛争は、このことを世界中ではっきりと見せてしまったようなところがある。イスラエルがガザで無差別攻撃を続けて、パレスチナ人を根絶させようという勢いなのに、アメリカの傘下の国は、イスラエルを支援し続けている。国連安保理で停戦案が何度も出されているのに、そのたびにアメリカの傘下の国が反対し、しまいにはアメリカが拒否権を使って否決した。パレスチナを独立国家として承認して、国連に加盟させようという提案も、アメリカの傘下の50ヶ国が反対している。まるで、もともとそこに住んでいたパレスチナ人には、そこで生きる権利がないかのようだ。

しかし、ウクライナの内戦にロシアが軍事介入を始めてから、国連が少しずつ変わっていった。最初の頃は、G7が望むように多くの国連加盟国が動いていて、ウクライナの戦争についても、ほとんどの国がロシアを批判する方に投票していた。ロシアへの経済制裁を行なっていたのは、アメリカの傘下の50ヶ国ほどだけだったのに、国連決議では多くの国がロシアを批判する方に投票していたのだ。

これは、この頃はまだ世界中のほとんどの国が、アメリカを恐れて言うなりになっていたことを意味している。実際これまでも、国連決議でアメリカに逆らったりしたら、経済制裁をかけられるとか、独裁国家扱いにされて爆撃されるとか、大統領が暗殺されるとか、ありとあることがあったのだ。

それが、ウクライナの戦争でロシアがNATOの武器に勝てることがはっきりしてきたら、徐々に変わっていった。昨年秋のG20では、もはやG7諸国は孤立した状態で、アメリカ政府が望むようなのとはまったく違う決議が採択された。その頃から、国連決議も変わってきて、国際刑事裁判所もウクライナの戦争犯罪を認めたり、イスラエルのジェノサイドを認めたりし始めた。それ以前は、国際刑事裁判所では、NATO側はさんざん戦争犯罪を犯していながら、一度も訴えられたことがなかったのに、だ。

国連で、民族自決とか民主主義とか人権とか言いながら、実のところ、NATO諸国は国連憲章を守ろうとはしていなかった。実際、国連憲章が守られていたら、世界で戦争はもはや起こっていなかったはずだ。武力闘争は、国連安保理で決議されたときのみ認められることになっていて、理事国が否決権を使えば、やはり認められないことになっていたからだ。だから、よほどのことでもなければ、国際紛争は話し合いで解決されることになっていて、国連とはまさにそのために作られた機関だったと言える。武力で国際問題を解決するのをやめて、話し合いで解決するためにだ。

第二次世界大戦の戦勝国4ヶ国のうち、イギリスとアメリカは、ともに国連を設立していながら、実は戦争をやめる気などさらさらなかったということになる。あとの2ヶ国の中国とロシアは、パレスチナも認め、国連憲章を守らせようとしていたけれど、おそらくはまさにそのために、アメリカの傘下の国々から、独裁国家扱いされることになったのだろう。

しかし今、西ヨーロッパの国もパレスチナを承認し始めていて、世界はようやく変わっていっているようだ。イスラエルは、新たにパレスチナを承認した3ヶ国を非難して、大使館を追い出すと言っているらしいけれど、パレスチナを承認しているのは、もはや世界の大多数だ。実のところ、本当は80年前にも終わっていたはずの植民地主義が、戦後もずっと続いていたということなのだ。そしてそれが今、ようやく終わろうとしているということのようだ。

2024年5月22日


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緑がパレスチナを承認している国。これに先日アイルランド、スペイン、ノルウェーが加わった。


タス通信が出した地図。パレスチナを承認した国が、年代別に色分けされています。緑が1999年までに承認した国、赤が5月に承認した3カ国、灰色が承認していない国です。


こちらは、コソボを承認した国。ほぼ逆です。

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