見出し画像

なれそめバレンタイン

約束の日は、バレンタインの直前。それに気づいたのは、約束の日の2日前。閉店間際のお店に駆け込んで、慌ててチョコレートを用意したのが前日。
いつもよりちょっとだけオシャレした今日は−−もう、行くしかない。

きっかけは、すごくありふれたものだと思う。
たまたま職場の研修で一緒になって、作業している姿がちょっとかっこよく見えたこと。その後、友人の友人として「彼」と再開した時、話しかけてもちょっと照れてる感じがかわいいなと思ったこと。その癖、趣味のこととなると途端に饒舌になってきらきらし始めるところが、やっぱりかわいいなと思ったこと。

「彼」を含めた数人のグループで遊びやご飯に行って数ヶ月。
いつも通りみんなでご飯を食べながら、話題は唯一の楽しみである週末の予定について。
「今週輸入車の展示イベントあるじゃん。誰か行かない?」
珍しく「彼」からの提案。でも、他の友人は資格試験のテスト日が近くて行けない。私は別の友人と行く約束をしてる。

「えー、そっかー。俺も誰か誘っとけば良かったー。ひとりじゃん」

ちょっと残念そうな「彼」に畳み掛けるように友人が言った。

「って、ひとりじゃないだろ?こないだ紹介してもらってた女の子、いー感じらしいじゃん。ちょっと前も終電近くまで一緒に飲んでたって」

−−え、知らない。女っ気がないと思ってた「彼」に、いつの間にそんな人が。本人は全然そんなんじゃないって否定してるけど、なにそれなんか、いやだ、困る。って、いやだって何。困るって何−−。

その後はぐるぐるしながら家に帰って、家に帰ってもぐるぐるは治らなかった。時間は夜の10時前。まだ起きてるよね。電話する。やたら、コール音が長く感じる。「彼」が出た。

「週末の展示会どうするの?その女の子と行くの?」

「いや、行かないよー。別に今から誘うのもめんどくさいし」

「じゃあ、一緒に行かない?日曜日に!」

「いいけど…土曜に友達と行くんじゃなかったけ?」

「まぁ…そうだけど、別に全然大丈夫だから!!!」

何が大丈夫なんだよ、と自分に心の中で突っ込みながら、約束の時間と場所を決める。誘えたことに満足して、バレンタインのことはすっかり忘れてた。すんでのところで思い出したけど。

「彼」の好みは知ってる。車が好きでバイクが好きで−−というか乗り物が好き。甘いものが好きで、特にチョコレートは大好き。だから、普通の時に普通にチョコレートをあげるのには、迷惑がられたりしないはず。

女の子の好みは、ロングヘアで背が高くてスマートな大人っぽいお姉さん系。ショートボブで背が低くてけしてスマートでも大人っぽくもない私は、完全なる友達ポジションってことも知ってる。

「でも、バレンタインに気づいちゃったし、準備しちゃったしね」

少し大きめのカバンにチョコを忍ばせて待ち合わせ場所に向かう。黒くて小さいオープンカーの姿が見えた。今日はもう、行くしかない。

いいなと思ったら応援しよう!