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第2話|制度はつねに動く、つくられていくもの|社会福祉士

※この記事は網羅的に支援策を紹介するものではありません。具体的な支援策については首相官邸の各種支援策一覧など公的機関のwebサイト、相談内容に応じた窓口へお問い合わせください。

戦後生まれにとって、今ほど国の存在感を感じる事態はなかったのではないか。その中で様々な支援策が自分も使う(かもしれない)ものとして一挙に身近になっている。たとえば今ほんとうに困った場合、公的支援だけでひとまず暮らすことはできるんだろうか。さて、私にはごく近くに、ながらく社会福祉の領域で働いてきた人がいる。母である。母は神奈川県の福祉専門職として約40年勤めあげ、この3月に定年退職したいわば社会福祉のプロ。ということで、オンラインで聞いてみました。

2020.4.27 ⇄ 神奈川

−今どうですか?

4月は旅行に行きたかったけど無理になったから、今は家で次の仕事のための本を読んだり近所を散歩したりしてるよ。

−5月からは何をする予定なんだっけ。

まずフリーランスで成年後見人をはじめるのと、週2で母子生活支援施設のアドバイザー、あと家庭裁判所の調停委員にも応募してて。

−それぞれどういう仕事なの?

成年後見人は、認知症とか知的障害をもってるために意思決定能力が弱い人の代弁者として、その人の声をくみとって支援する人。

家庭裁判所の調停委員は、離婚調停において当事者の合意点を見つけ出して、柔軟な解決を図るための提案等をする人かな。離婚て子どもが受ける損失が大きいから、親権とか監護権とか養育費とか面会の権利とかを調整して、子どもにとっての最善策を導き出せたらと思って。

−そうか、司法って犯罪だけじゃなくて個人間に入って問題解決してくれる手立てでもあるんだね。

母子生活支援施設は昔でいうところの母子寮で、アドバイザーの仕事はスタッフの相談にのったり、困ってる母子家庭のお母さんがどうやって生活していけるのか一緒に考えていくこと。どの仕事も「エンパワーメント」だね。

−今年はもっとゆっくりするのかと思ってた。すごいパワフルだね。前にコロナ関係の支援策の話をしてたけど、それってどういうもの?

この前話したのは「緊急小口貸付」のこと。今はコロナの影響で特例給付ができて、対象者の拡大や返還するときに非課税の経済状態だったら返さなくていいとか、いつもと違った支援策が出されてて。他にも失業した等で生活の再建に必要な生活費を3ヶ月借りられる制度もあるんだけど、これも特例給付で、今までと違った柔軟な対応が取られてるみたいよ。

−でも借りるってことは返さないといけないわけだよね?

もともとは生活福祉資金貸付制度で、その制度の中の総合支援資金は3ヶ月の貸付が可能なんだけど、その間は生活困窮者自立支援法の担当者がついて、就業に導く支援とかを受ける設計になってるのね。でもちょっとこの事態での特例給付でどうなっていくかは私にはなんともいえないな。現場も離れてるしね。

−生活困窮者自立支援法っていうのは?

社会保障と生活保護の間にある支援策。

−え、社会保障?全部が社会保障なんではないの?

日本の社会保障って3段階の組み立てになってるの。第1が社会保障。年金、健康保険、雇用保険、児童手当、扶養手当とかそういうもの。

−そっか、年金て老後だけじゃなくて障害年金や遺族年金もあるものね。健康保険は医療費3割負担だけじゃなくて高額医療費返還とか出産一時金、雇用保険は失業手当や育休手当とかか。

そうそう、ただものによっては企業次第だったり自営業だとなかったりもするから、全ての制度が全ての人にあまねくではないのだけど。で、第2が生活困窮者自立支援法。第3が生活保護。

これまでは生活保護の前段階がなかったのが、生活困窮者自立支援法が平成27年にできたの。リーマンショック以降急激な経済情勢の悪化で、家族・地域・社会保障のネットからもれて生活に困窮する人が増えて、生活保護の手前の制度が必要ってなった。それがいま特例的につかわれていて。

−そうなんだ!それは全然知らなかった。

この事態でその法律の良さが周知されるかなっていうのはあるよ。

−なるほど、基本的に制度は法律に基づいてつくられるわけだよね…前にお母さんは、障害者施設や、児童相談所、女性相談所、保健福祉事務所や県の生活援護課と様々な福祉の現場の経験に恵まれたから、社会保障制度に詳しい方だけど、制度は変化していくし、全部頭に入れておくのは難しいって言ってたよね。

そうだね。生活保護の仕事をすると、他の全てを使っても無理な場合の選択肢が生活保護だから、詳しくなるんだけどね。

−今回のような場合、自分で事業やってたら、また相談場所は違うよね。商業と農林水産業でも違うだろうし、ワンストップですべて適う窓口はない。逆に駆使しまくれば思ってる以上に併用できるものも色々あるのかもしれない。移住とかリフォームとかもそうだもんなあ…制度を全て人が把握するのは難しいからAIが診断するとかはどうなの?

うーん。まず「何が必要なのか」判断して質問を入力する必要があるでしょ。で、出てきた診断が正しいのかまた判断できないといけないよね。制度の使い方ってどういう生き方がしたいか考えることでもあるから、もっとその人から引き出していくような温度のある支援が必要っていうか。

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母が生活援護課在職中にNPOと共同でつくったサイト

−そうか、使いこなせるかは結局人次第になるのか…超高性能AIといわずとも今はネットで調べられるわけだしね…生活保護はやっぱりハードルが高いの?

原則としては持ってる財産をすべて活用してからでないと受けられないからね。でも本当に困ったら生活費、住宅費、教育費、医療費も出て、生活を守ってくれる。困ったことになった理由は問わない、良い制度だよ。人としての最低生活を守るもの。日本はこれで生存権を守ってる。

今受けている人の半数は、年金がない人や年金受給額が少ない分を働いて補ってたのが解雇されたり、貯金を切り崩して生活してきた高齢者で、他は障害を持つ人や、病気や事故や失業で収入が減った人や、とにかくいろいろな理由で生活保護を必要としている人。

−生活保護への偏見てやっぱりあったりするのかな。

本当は必要なんだけど、抵抗感を持っている人はいると思う。当たり前のものとして根付いてはいないね。ただ必要な時は受けるべきだし、受けていい、国民の権利なのよ。同時に働ける人は可能な範囲で働いて、働けない人もその人のできる自立を目指す義務もある。

−完全に生活できなくはならない仕組みは、仕組みとしてはあるわけだよね。

今ある日本の制度を全て活用すれば、最低限の生活はできると思う。ただお仕着せの支援は窮屈で嫌っていう人もいる。あと、日本の社会保障制度は住んでる場所が基本になってて、住民票がないと使えないものが多いから、家から逃げてきた人に届くものが少ないのね。逃げて福祉事務所に駆け込んでくれたら受けられる支援もあるんだけど、なかなかそうはならなかったり。そこはまたすごく複雑な問題というか、なぜそうなるかの背景はほんとうに人それぞれだから、簡単には説明できない。

−制度はあっても偏見や差別が生きづらさに繋がるところもあるのかな。

差別をする人っているけど、ほんとうのことはわかってないんじゃないかな。生活に困ることには理由があるのよ。

ほんとうに色んな、人それぞれの理由があるの。そこを知ると、誰も責められなくなる気がするよ。


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