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ピティナ「特級」グランプリ決定!ファイナルを視聴した感想

(トップ画像提供:ピティナ)

ピティナ2023特級公式レポーターの山本です。
ついにこの日がやってきました。

6月から足かけ3か月に渡り開催されてきたピティナ・ピアノコンペティション「特級」。8月21日の最終審査を経て、グランプリは鈴木愛美(すずきまなみ)さんに決定いたしました。おめでとうございます!!鈴木愛美さんはあわせて聴衆賞も受賞されています。

続く銀賞が三井柚乃(みついゆの)さん、銅賞が神原雅治(かんばらまさはる)さん、第4位が嘉屋翔太(かやしょうた)さん。また、ファイナルのステージにはいらっしゃいませんでしたが、サポーター賞第1位は塩﨑基央(しおざきもとちか)さんに決定しました。

今回は4名それぞれが「さすがファイナリスト」と感じさせるような、自分の色をしっかりと出したすばらしい演奏を聴かせてくださいました。私はYouTubeで視聴させてもらったので、その様子をレポートしたいと思います。

グランプリに輝かれた鈴木 愛美さん

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58

「(セミファイナルで演奏した)シューベルトのソナタと(今回演奏する)ベートーヴェンのコンチェルト4番は、自分にとってとても大切な作品。どちらも本当に美しく、この2曲をセットで弾きたいという思いがずっとあった。」と、インタビューでおっしゃっていた鈴木さん。ピアノ伴奏で演奏した三次予選のときから、曲への思い入れがよく伝わってくる息の合ったハーモニーを聴かせてくださっていました。きっと何度も聴いて、何度も弾いて、ピアノパートだけでなくオーケストラパートについてもしっかり頭に入っていらっしゃるのでしょう。

また、「ベートーベン4番の持つ幸せやあたたかさ、対照的なつらさや痛み、それら全部を含めて『愛』なのかなと思う」ともおっしゃっていたので、鈴木さんのそういった思いを想像しながら今回は聴かせていただきました。

冒頭は静かで優しいピアノの音色で祈るようにスタート。第1楽章ではオーケストラとピアノが一つに溶け合い、あたたかなハーモニーが生みだされていたのが印象的でした。悲しみをたたえた暗く冷たい曲調の第2楽章を経て、躍動感にあふれた第3楽章。最後は指揮者の梅田さんの晴れやかな笑顔とオーケストラの力強い響きが鈴木さんのピアノの明るい音色を支え、喜びに満ちた感動のフィナーレを迎えます。今回聴衆賞を受賞した鈴木さんですが、「愛」をかかげた鈴木さんの演奏に私自身おおいに魅了されました。

銀賞|三井 柚乃さん

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18

三次予選でも音楽の大きな波をとらえて演奏されていた三井さん。インタビューでは「ずっとオーケストラに入って演奏するというのが夢だった」とおっしゃっていたこともあり、今回はその夢をかなえたことへの誇らしさが感じられる堂々とした演奏を聴かせてくださいました。

この曲について三井さんは「特に1楽章は暗くて重いけど、その中にもほんの少しの希望やかすかな幸せみたいなものが感じられる。人生においても大切なことが学べる作品」と説明してくださっています。

そんな思いの込もった第1楽章は、暗く冷たい北の大地が連想されるような重厚な音色でスタート。オーケストラと共に大きなうねりを果敢にとらえて演奏されていらっしゃいました。第2楽章ではクラリネットとピアノが哀愁ただよう調べを切々と歌い上げます。クラリネットの素朴なあたたかみのある音色と、ピアノの華やかで透き通った音の対比がとても美しく感じられました。第3楽章ではオーケストラとぴったり息の合ったスピード感のある演奏で聴き手の心を惹きつけつつ、ラフマニノフの雄大な世界観を表現されました。

銅賞|神原 雅治さん

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18

三井さんと同じくラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を弾かれた神原さん。三次予選でも毅然とした力強いタッチで聴き手の心を掴んでいましたが、今回はオーケストラとの共演でよりダイナミックな音楽をつくり上げ、聴衆を魅了していらっしゃいました。

プログラムには「小さい頃から、いつか弾きたいと思ってきた作品。ラフマニノフらしい重厚感で弾いていてとても楽しいです」という神原さんの言葉があります。また、インタビューでは「サントリーホールはなかなか弾きたくても弾くことのできないコンサートホール。そこで演奏するのにふさわしい演奏がしたい」ともおっしゃっていました。

第1楽章は緊張感のある厳しい面持ちで作品の雄大な世界観を熱演。第2楽章ではクラリネットやフルートなどの木管楽器との繊細で優しいハーモニーが大変美しく、第1楽章との振り幅の大きさが強く印象に残りました。躍動感のある第3楽章では再び情熱的に、一つ一つの音をかみしめながらオーケストラとともにクライマックスへと向かい、確信に満ちた音色でしめくくられました。

第4位|嘉屋 翔太さん

サン=サーンス/ピアノ協奏曲 第2番 ト短調 Op.22

トップバッターを務めた嘉屋さんは、今回三次予選以上に楽しそうにノッて演奏されていたように思います。ただし、三次予選のときからしっかり共演者とアイコンタクトを取って弾かれていた点は、一貫して感じられました。身振りが大きく感じられたのも「自分が何をしようとしているのか」をオーケストラに伝えようとしたからではないかと想像します。「オーケストラと一緒に音楽を作り上げる」という揺るぎない決意が伝わってきました。

プログラムによると嘉屋さんは2021年のフランツ・リスト国際ピアノコンクールで最高位の第2位に入賞するとともにサン=サーンス最優秀解釈賞を受賞されているのだそう。そんな嘉屋さんの曲の解釈を今回は存分に楽しませていただいたように思います。

悲劇的な趣で幕を開ける第1楽章。冒頭から指揮者やオーケストラとぴったり息の合った演奏に心を掴まれます。軽妙で愉快な第2楽章を経て、スピード感のある第3楽章。最後は緊張感を保ったまま情熱的に弾ききってしめくくられました。サン=サーンス/ピアノ協奏曲 第2番を本格的に聴いたのは実は今回が初めてだったのですが、演奏を聴かせていただいて私自身この曲が大好きになってしまいました。

最後に

6月から足かけ3か月に渡って開催されたピティナ特級。ハードなスケジュールのなかでたくさんの課題をこなされたファイナリストの皆さま、本当にお疲れさまでした。課題と向き合いつつ自分自身とも対峙する、濃い3か月だったのではないかと想像します。

私は、真摯に音楽と向き合う皆さんの情熱的な姿を拝見し、生きる活力やエネルギーをいただきました。そして「音楽」のすばらしさや「音楽」の持つ力を、あらためて感じることができました。私だけでなく多くの聴衆が、同じように胸を打たれたことと思います。

ここで出会った素敵な曲や魅力的なピアニストが、これからも多くの人の生活を彩り人生を豊かにしていくことでしょう。ファイナリストの皆さま、その他コンテスタントの皆さまの未来が、それと同じように、いやそれ以上に彩り豊かで明るいものでありますように。これからのご活躍を心より願っております。

心のこもったすばらしい音楽を聴かせてくださって本当にありがとうございました。

(撮影:石田宗一郎)


※おまけ
今回のピティナ「特級」ではYouTubeを通してたくさんの曲を視聴させていただきました。遠方でどうしても会場に向かうのが難しかったため、大変ありがたかったです。また、演奏者のお顔や手元をアップで見ながら聴けるのは、目からの理解が深まり、とても楽しかったです。

ただ、セミファイナルまではあまり感じなかったのですが、今回はオーケストラとの共演だったこともあり、YouTubeでの視聴だと音量の調整が少し難しく感じられました。(大きい音と小さい音の差が大きいため)

今回YouTubeでの視聴をしっかり堪能させていただいたので、次回はできればファイナルだけでも会場で鑑賞してみたいです!ファイナリストの繊細な音楽表現も、会場であればよりしっかり肌で感じ取ることができるでしょう。また来年もピティナ「特級」を楽しみにしています♪



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