見出し画像

Lost in the pagesというものがある話

Lost in the pagesというのがある。あるというより、やっているというほうが正しい。東京上野でやっている。あなたがこれを読んでいるのが平日の月曜日か2024年の7月以降でない限り、今日もやっている。今日も、だ。

このnoteはその『Lost in the pages』とやらを宣伝……というと関係者っぽくなってしまうので、【布教】するためのnoteだ。

上述の通りこの作品は2024年7月には残念なことになくなっている。勿体ない話だ。しかしその一方で、筆者の私は一観客として「今までこういう系統のものに縁がなかったけど、この作品がピンポイントで刺さるという人がもっといるんじゃないか」と思うのだ。だから書くことにした。布教のために文章を書くのは初めてなので少し不安だが、これを読んだ人が誰かひとりでも興味を持ってくれたならうれしい。

※備考
このnoteにはLost in the pages公式HP公式PVに出てくる程度の情報が含まれますが、ネタバレには十分配慮しています。


Lost in the pagesとはそもそも何か

ジャンル的な説明をすると、Lost in the pagesとは「イマーシブシアター」の作品の一つだ。

……ただここで一つ問題がある。
昨今イマーシブシアターというのはかなり流行り始めていて、何かにつけてイマーシブイマーシブと聞くようになった。かといって厳密な定義があるわけではない。その結果、「Lost in the pagesってイマーシブシアターがあって」と言ったときに「あーはいはいイマーシブシアターね!ああいうやつでしょ」と返したあなたの思うそれとLost in the pagesが必ずしも一致するとは限らない、という事象が起きている。なんとも難しい。

それ故にここではあえてこう表現したい。
Lost in the pagesとは、『客席のないダンス舞台』の一作品である。

そして忘れてはいけないのが、この作品のテーマが『文学』だという点である。『文豪』という言葉選びのほうがピンとくる人もいるかもしれない。あくまでフォーカスが当たっているのは人物ではなく、彼らの作品ではあるのだが。

様々な文豪の縁の地、「上野」に、文学をテーマにした新たなイマーシブシアターが誕生します。
日本文学が紡いできた言葉の美しさはすなわち、情景の美しさであり、情念の美しさでもあります。
日本人の心の原風景でもある数々の文学作品たち。
そこで描かれてきた印象的なシーンを、ダンスカンパニー「DAZZLE」が再解釈し、ミステリー仕立ての体験型作品として制作しました。
幻想的な空間の中、まるで小説の世界に迷い込んでしまったかのような、かつてない体験をお楽しみください。

Lost in the pages 公式HPより

公式HPではこんな風に書かれている。

つまり要するに、文学をテーマにしたダンス作品が東京上野でやっていますよということ、舞台と客席の境がほとんどない形式の上演方法をとっているのでパフォーマンスがほぼゼロ距離で見れますよということだ。

ほぼゼロ距離のパフォーマンスがどれほど鮮烈かを表現するのは難しい。行った人にしかわからない。ただここで言えるのは、振り返ったそこに演者がいることも、真横でいきなり演者が踊りだすことも、演者がこちらに目を合わせてにこりと微笑みかけてくることも、この作品の中では日常茶飯事だということだけだ。

こんな人に

さて、こんな風に説明をしたときに言われそうなことが
「でもダンスとかよくわかんないし……」
「でも本とかあんまり読まないし……」
このふたつだ。

でも冷静になって考えてほしい。
ダンスにも文学にも造詣のある人間が日本にどのぐらいいると思う?
これはそんな一握りの超教養人だけを対象にしたコアな作品ではない。もっと広くひらかれたものだ。

ダンスがよくわからなくてもいい。筆者もダンスに関しては全くの素人だ。彼ら演者はプロのパフォーマーであり、嬉しいとか悲しいとか以上のものを雄弁に踊って語ってくれる。それを見てあなたがどう思ったっていい。そこに正解はない。加えて、本作にはキャラクターのセリフが音声で流れるシーンがいくつか存在する。彼らの心情を感じ取る手段は決して視覚情報に限らないから安心してほしい。

文学がよくわからなくてもいい。もちろん知識がある人が見れば「ああはいはいコレね」と『一を見て十を知る』ことができるだろうが、この作品はそれを前提には作られていない。むしろ知らない人の方を想定して作っているのではないかと思う。

Lost in the pagesでは上演時間65分の中で驚くべき本数の文学作品が取り扱われている。それをどうやって成立させているかというと、上手くダイジェスト版に落とし込んでいるのだ。原作(作品内で扱われている文学作品)を知っていると「よくもまあこんなに上手く圧縮したものだな」と思う程だ。しかも要点や重要なシーン・セリフを全く取りこぼさない。そして行間をダンスという身体言語で隙間なく埋めてくれる。その結果、全く文学作品を知らなくてもなんとなく読んだような気になれるのだ。あらすじを掴める。だから心配する必要はない。

Lost in the pagesのすごい所はまさにここで、4DX版の疑似読書体験ができるのだ。短時間で何冊も。高密度・高解像度で。

他にも、本屋で目的もなしに本棚の隙間をうろうろするのが好きだという人がいたら是非上野に足を運んでほしい。この作品の観劇は、まさにその行動に近しいものがある。無論、日本文学が好きだというあなたにも当然おすすめだ。

よく聞かれること

紹介はこんなところにして、以降は筆者が「Lost in the pages行ってみようと思ってるんだけど……」という友人によく聞かれる質問集をまとめておこうと思う。取り除ける不安はここではらってしまおう。

チケットについて

Q:チケットはどこで買えるの?
A:開演15分前までは『チケットぴあ』で。当日券があれば会場でも。

チケットサイトはここ(公式HP)から飛ぶのが簡単。
当日券は前売り券と価格は変わらない。なんならシステム利用料がない分だけちょっと安い。現金支払いも可能だ。ただ当日その時間になるまで当日券があるかはわからないのでご注意を。

ちなみに傾向としては平日昼間が空いている(おそらく)。もし日を選べるなら、混んでいない日時を選ぶのがおすすめだ。会場内をより自由に悠々と楽しめるだろう。

席種について

Q:初めて行くときは一般とプレミアムどっちがおすすめ?
A:個人的には一般がおすすめ。

Lost in the pagesにはチケットが2種類ある。一般チケットとプレミアムチケットだ。内容や演出がどう変わるかは詳しくは言えないが、『プレミアム』と謳うぐらいだからリッチな体験ができる。

ただ、決して安いチケットではないし、お話自体に合う合わないがあるものではあると思うので、まず行ってみるなら一般チケットが個人的にはおすすめだ。お気に召したらプレミアムも是非。

人数について

Q:1人で行った方がいい?友達と行った方がいい?
A:個人的には1人で行くか、気の許せる友人と2人程度がおすすめ。

初めての場所に1人で行くのは怖い。誰だってそうだ。でも友達を誘うにもハードルが……。なんて声はよく聞く。

そもそも大前提として会場内は【発声厳禁】だ。遊園地のアトラクションのように友達とわいわい楽しむものではない。会場内でも自由に動ける分、結局友達と行っても終演後出口で集合ね!という感じになる。ただ、感想戦ができる相手がいると嬉しい人もいるだろう。そういう意味で筆者的には1人か2人程度がおすすめだ。

また、文学作品を取り扱う都合上R-15程度の性的な表現が含まれる。そういうのが苦手な人は避けておくべきだし、誰かと行くならそういう作品を一緒に鑑賞しても気まずくならない相手を選んだほうが良いだろう。

服装について

Q:ドレスコードがあるんでしょ?
A:ある。迷ったら黒い服で行こう。荷物は最小に。

演出の都合上、観客は【暗色の服】で来場することが推奨されている。あくまで推奨であって、白い服で来てしまったからといって入口で追い返されることはない。ただ、守ったほうがより体験が高まる。

暗色の服というのは例えば黒・紺・チャコールグレー・ダークオリーブ……とか……どこまでが暗色に該当するかは正直筆者にもわからない。多分常連のお客さんもみんな分かっていない。ふわっとしている。迷ったら黒や紺にしよう。

夏場はガンガンに冷房が効いている。演者は汗だくだが、お客さん目線だとちょっと寒い。冷房が苦手な人は羽織れるものが1枚あると安心かもしれない。

加えて重要なのが、なるべく荷物を減らすことだ。なんなら手ぶらでもいい。両手があけられる状態がおすすめなので、ハンドバッグよりは肩掛けのポシェットがいいだろう。スマホと財布と鍵があれば案外丸一日過ごせるものだ。たまには身軽にお出かけしてみるのも悪くないだろう。

謎解きについて

Q:謎解きがあるって聞いたよ!
A:あるにはある。が、まず1回観劇を楽しんでほしい。

私の友人には謎解きが好きな人が多いのでこれはよく聞かれる。
謎解きはある。ある、が、あくまでLost in the pagesの世界に関わる手段の一つとして存在している。目的ではない。「謎解きがあるって聞いたから行ってみたい!」と言われると、若干のミスマッチの懸念をしないといけない。まずは1回鑑賞を楽しむのがおすすめだ。

おすすめの見かた

さて、数あるFAQの中でもダントツで聞かれるのがこれ。
「初見の時はどうするのがおすすめとかある?」だ。

イマーシブシアターには『追い』という概念がある。登場人物1人の後をつけていく行動のことだ。さながらストーカーである。大っぴらに人物をストーキングしても許されるのがイマーシブシアターの面白いところだ(?)

人物追いをすると、その人物の感情や話の流れを一通りつかみ切ることができるので、イマーシブシアターにおいてかなり主流な観劇スタイルのひとつになっている。Lost in the pagesには作家・少女・編集者・新聞記者・貴婦人・医師・魔女の7キャラクターがいて、魔女だけちょっと特殊なのだが残りの6人は自由に追うことができる。

誰を追うのがおすすめというのは、ない。
これはあくまで筆者の思想だが、そういう先入観なしに自由に作品内を泳いでほしいのだ。このキャラがおすすめ!というのはどうにもナンセンスな気がする。どのキャラも魅力的だ。

ただ、強いて言うなら、
・パンフレットの紹介を読んで設定にピンと来た人物
・セリフや立ち振る舞い・衣装が好きだなと思った人物
・「なんかこの人自分に似てそうかも」と思う人物
を追うのはおすすめだ。

あとは直感。こういうときの直感・嗅覚こそあてになる。私がおすすめして行ってくれた友人各位も、結局自分の直感に任せてキャラクターを追いかけた人が一番満足して帰ってくる傾向にあるような気がする。

かくいう私も初めてイマーシブシアターに行ったときは「なんかこの人のキャラデザ好きかも」というふんわりした理由で追いかける対象を決めたものだ。あとからその人が脚本・演出の長谷川さんだと聞かされて驚いた思い出がある。

だから「おきまり」とか「定石」とか、そういうのを取っ払って自由に楽しんでくれるのが一番だと思う。人物追いにこだわる必要だってない。Aさんを追いかけていたら途中のシーンでBさんと合流したので今度はBさん追いにシフトするのだっていい。劇中で聞こえてくる曲が好みだったらそっちに足を動かしてもいい。そのへんにある椅子に座ってみたっていいのだ。それこそイマーシブである。

おわりに

最初に言った通り、Lost in the pagesは今日もやっている。

上野のショッピングモールの一角に、ひっそりというにはちょっと物々しいぐらいの雰囲気で今日もたっている。ヒールのすごく高い靴屋の隣にある。かつてはパン屋だったというその場所に、一風変わった劇場が今日もたしかに存在している。並大抵のことではない。

しかし永遠にあるわけではない。そのショッピングモールは2024年6月に閉店することが決まっている。だから期限付きなのだ。

折角だからなくなる前に遊びに来てほしい。行こう行こうと思っているうちにきっとなくなってしまうから、このnoteを読んでしまったことを言い訳にして来てほしいのだ。そのために書いている。そしてあなたがLost in the pagesを気に入ったなら、私にとっても嬉しいことだ。

そしてもし会場で私によく似た誰かをみかけたら、そっと会釈をしてよろしく伝えておいてほしい。その人はきっとLost in the pagesの世界を彷徨っている「誰でもない誰か」だろう。


最後までお読みいただきありがとうございました。

公式HP


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?