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(自然科学の)数式を見るとき気を付けていること

こんにちは。工学系Vtuber の足立千鳥です。

この記事は「学術教育サイエンスコミュニケーション系 Advent Calendar 2020」の12/7の記事です。カレンダーを作ってくださったYUKIYAさんどうもありがとうございました。

ここでは私が数式を見るとき気を付けていること、私なりの数式の見方、みたいなものを説明します。また私は数学者ではないので純粋な数式というよりは物理的意味を持った自然科学・工学で出てくる数式の見方についての説明をします。そして最後に学術教育に絡めて「学ぶとき・教えるとき」についての所感を述べます。


例としてコイルとキャパシタのリアクタンスをとりあげます。電気系の勉強をしたことがなく「それって何?」という方は雰囲気だけでも楽しんでください。別にテストするわけではないので気楽に。

コイルとキャパシタというのは回路の部品です。キャパシタはコンデンサとも言います。リアクタンスというのは交流電流の流れにくさみたいなものです。中学校で電池と抵抗の回路を勉強したことがあるかなと思いますが、あれの電池がコンセント(交流)になったときの抵抗の話をしている感じです。

さて教科書を開いたとき、コイルとキャパシタのリアクタンスについて次の画像のように書かれていたとしましょう。

ノート_リアクタンス

こういう式を見たときに何を考えましょうか?


・変数と定数は何か?(自分が好きにいじれるのはどれ?)

まず、「2」「π」は定数ですね。私たちには変更しようがない定数の係数です。

次に「f」「L」「C」はどうでしょうか?これらを変数と見るか定数と見るかは状況によります。

例えば「ある周波数 f = 594 [kHz] でこういう値のリアクタンスになるような L を設計したい」という目的のときは、f は固定の定数で、 L を動かしていって適切なリアクタンスになるような L を見つけることになります(L を動かす方法は、L の式を見てコイルの巻き数を増やしたら、とか断面積を増やしたら、とかを考えることになります)。

「部品屋さんでキャパシタを買ってきて、ある範囲の f についてどんなリアクタンスをとるか調べたい」というときはキャパシタンス C は固定の定数として、f を変化させて見ていくことになります。


・変数を変えたらどういう結果になる?(大きくなる?小さくなる?)

周波数 f を変数としましょう。周波数を大きくするとコイルのリアクタンスは比例して大きくなっていきます。一方でキャパシタのリアクタンスは周波数を大きくすると反比例して小さくなっていきます。そこから、「コイルとキャパシタは逆の効果を持っているんだな。じゃあ2つを一緒に使ったら効果を打ち消し合うことができるかも」などといったひらめきに繋がるかもしれません。


・極端な例を考える(変数を極限に飛ばしたときってどんな状態?)

周波数 f = 0 のときを考えてみます。これは f を小さくした極限です。このときコイルのリアクタンスは 0, キャパシタのリアクタンスは ∞ (無限大)になります。この状態はどういう状態を表しているのでしょうか?

まず f = 0 というのは周波数 0 Hz、振動していない定数の電流、つまり「直流」を表しています。

直流の時、コイルとキャパシタはどういう状態にあるのでしょうか?これを考えるときはコイルとキャパシタがどんなものかを考えます。

コイルというのは導線(銅線)を巻き巻きしたものです。交流のときは不思議なことに抵抗になり電流を通しにくい特性を出してきますが、直流のときはただの導線になってしまいます。ショートしているのと同じ、なので抵抗ゼロです。

キャパシタは平板導体で絶縁体を挟んだものです。絶縁されているにも関わらず交流のときは不思議なことに電流が流れますが、直流の時は開いたスイッチと同じことになります。オープン、つまり抵抗無限大です。

ノート_直流

ここまでくると、ただの記号だった数式がきちんと物理的な物質、現象に結び付いています。また、ただの暗記では「コイルの式とキャパシタの式、どっちがどっちかわかんなくなっちゃった~」となりやすいのですが、具体的な値を入れるとどうなるかに結び付くと間違えなくなります。

この例では周波数を 0 にしましたが、自然科学・物理の世界では、例えば「無限大の時間が経ったあとにどんな状態になっているか」「角度がごく小さいときはこんなふうに近似できる」「ある物理量の比が1のときはこういう現象が起きる」みたいな具体例による解析はとっても重要な洞察を与えるときがあります。


とりあえずこんな感じのことを考えて式を見ています。


学ぶとき、教えるとき

最初の数式は純粋な「ルール」です。そしてテストではどうしてもルールの確認に終わってしまうことが多いです。「次の式のカッコを埋めなさい」「この定理を証明しなさい」「こういう条件のときこの値を計算しなさい」みたいな問題でないと採点が難しいからかなと思います。

テストのために勉強をしているとどうしても数式をいじる記号操作にとらわれてしまって、数式の先にある物理現象を見落としてしまいがちです。ですけど実践(研究など)においては今説明した「数式の見方」みたいなものから「ひらめき」を探すことが重要になったりします。

スポーツで例えると、ルールはルールで覚えないと試合には出られないのですが、体の動かし方みたいなものも覚えないと試合で活躍するのは難しいです。また、ルールはその競技にしか適用できないですが、体の動かし方を覚えれば他の競技をやるときにも応用が利きます。

なので今説明した「数式の見方」みたいなものを教えたり、学ぶときに意識することが重要なのかなと思います。誰かや自分に教えるときに、審判であるよりもコーチであった方が良い時があるように思います。

今後の教育ではますます「知識を覚える」よりも「学び方を学ぶ」ことが大事になってくる気がしています。というのも技術の多様化は広く、進歩の速度は速くなり続けているからです。学校で教えた内容が社会に出たときには陳腐化してるケースもあり得ます。詳しくないですが例えばWeb の世界ではHTML, Perl (CGI), PHP, JavaScript, CSS, フレームワーク, クラウド, セキュリティ, エッジコンピューティング, ...... みたいに現場のエンジニアが毎日勉強してようやく追いついている技術の進歩・流行り廃りが起きていて、メンテする仕事から新規の案件までいろんな仕事があるのに、ジャスト役に立つトピックを例えば大学で教えるなんて無理じゃないかなと思います。ですので新しい技術を身に付けるための「学び方」を鍛える必要があって、今回の「数式の見方」がそういったメタな学びの一助になったらいいなと思います。

それでは、どうもありがとうございました。

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