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訃報について

最近、訃報を聞くことが続いた。身内の話ではない。たとえばよく公演を見に行っていた劇団の劇作家や、動画でよく見ていた解説者とか。楽しませてくれたり、あこがれたり、心酔したり、妬んだり……そんなすてきな表現をする人たち。
そして、どれもまだ若くて、これからの人だった。才能のある人、あるいは研鑽を積んでいた。これからも世界を広げてくるだろう人が夭逝してしまうさまは、本当に悔しい気持ちになる。

そんなことを考えていたら、ふと、すこし前になくなったインスタントシトロンの片岡さんのことを思いだした。私からすると、けっこう年上のかたなのだが、2020年になくなったときに51歳だったようなので、正直、亡くなるには早い。訃報のニュース記事を読んだとき、なんだか力が抜けた。ひとは死んでしまうんだなと、あらためて思った。
シトロンは、若いときによくCDを聴いていた。そのころはライブに行くとか、まだ勇気が出ない年頃(?)だったので、実際に演奏を聴いたのは、新宿のタワーレコードでのインストアライブのみだった。力強くアコーディオンを鳴らす片岡さんと、髪をさらさらギターを弾いていた長瀬さんがとても格好良かった。
ライブ自体もどれほど行っていたかよく知らない。なんだかあのころのミュージシャンは、別次元の、崇高な人たちに見えた。あとから後悔するばかり。もっと足を運べばよかった。


インスタントシトロンのおふたりのサイン。保護フィルムを貼ってます。




片岡さんとインスタントシトロンを知ったのは、地方局のテレビ番組でナレーションをしていたのを聴いたのがはじめだったと思う。なんだかとても綺麗な声の人で、それが気になってCDを買った。
始めて手に入れたのは『little gang of the universe』(白盤)だったと思う。片岡さんさんのボーカルは、透き通った声だったが、冷たい響きのするところがあって、とてもオトナに感じた。甘くて可愛いらしい曲の世界に浸っていた。

このアルバムが自分にヒットで。(月並みだが)もし無人島に持っていくとしたらなんのCDを選ぶ?なんて聴かれたら、このアルバムを答えるかも(「3枚持っていっていい」とかなら、advantege Lucy『ファンファーレ』、rumania montevideo『jet plane』あたりを選ぶと思う)。
アルバム『little gang of the universe』は、たしか(オトナの事情とかで)すぐ廃盤になってしまった。最初に買った白盤は、あとに出た再販のもので、オリジナルのものはジャケットが赤いものだった。
浦和にあった「ぶれえめん」というお店にふらりと立ち寄ったときに、棚にこの赤盤があるのを見つけ、すぐに購入した覚えがある。商店街にある小さなレコードショップで、大きくブレーメンの音楽隊の動物が二階の窓を覘いている看板がかかっていたのを覚えている。そのあと数年して訪れたときにはそのお店はもう無かった。


赤盤


最近、ふとネットで検索したら、片岡さんのアルバムが出ることを知った。そして、以前の音源もLP盤にしたり、再販されていくことがわかった。聴いたことのない曲もいくつかある。ということで一枚購入した。


“ミャーオ”

前半部分はネコに関する曲を収録。
このCDの後半半分は、『ミーシャのパリ散歩』という本に付属してたCDの中に入っていた。当時、本屋に勤めていたが、たしかその店舗には配本が無くて、通販で購入した覚えがある。ぬいぐるみの犬ミーシャが、パリの風景とともに撮影された写真が載っている本。ジャケットがネコ。ニャンコとワンコのCD。
収録されていた曲を久々に聴き、本当に懐かしさをおぼえる。そして、時間が経ってもおぼえているものだと、あらためて思う。音楽は記憶に浸透する。もう『ミーシャのパリ散歩』を買ったのも20年くらい前なのに。

「人が本当に死ぬのは、忘れられたとき」
クリシェにしてしまうのは申しわけないのだが、いくつかの物語、演劇でこの文言を聴いた。人が死んでも、残された人たちがおぼえている限り、その人は本当に意味で死なないのだと。もし、そうなら、音楽家はとても長寿な人生をおくれるのかもしれない。音楽はとても息が長い。いちどおぼえたら、ふとしたときに頭に音楽が流れる。世代を越える力も、ほかの芸術より強いだろう。本当に音楽はうらやましい。


結構CD持っていました。粘着質なので、好きになるとさかのぼって買いそろえたくなります。


追記[2023 09 14]
YouTubeを見ていたら、インスタントシトロンの長瀬さんが、「カノサレ」という若い女性ユニットのかたとライブで歌っている動画を見つけた。彼女らはシトロンの『STILL BE SHINE』のカバーもしているらしい。基本的に、「カバーするならオリジナルを超える自信があるんだろうな、えぇ?」という感じの意固地の悪い考えの持ち主の私だが、その動画を見て、素直に涙が出た。楽曲が若い世代に歌い継がれていくさまに嬉しさを感じた。長く生き続けていけるように

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