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ネタバレのないライブレポート   藤井風 LOVE ALL ARENA TOUR@さいたまスーパーアリーナ

2年ほど前に@CultureCruiseさんの
「 ネタバレのないライブレポート」に出会い、それをお手本にHELP EVER HALL TOURのレポートをInstagramにポストしたことがあった。

セットリストはもちろん、MCの内容にも、衣装にも、ステージ演出についても一切触れずにライブレポートを書く。

そんなことができるのか。

しかしLAATのアリーナツアーはまだこれから続くし、Blu-rayが出るまでは全てを知りたくないと言う方もいらっしゃることだろう。

今回、さいたまスーパーアリーナの初日を見ることができたので、久しぶりに「 ネタバレのないライブレポート」に挑戦してみようと思った。

【500レベル】
なにしろ最終、最後の先着で手に入れたこの公演のチケット。
良席であるはずがない、と覚悟してはいたが、
蓋を開けてみたら、なんと
「 500レベル」

日本でも指折りの大きなアリーナの500レベルと言えば5階の一番上、いわゆる天井席だ。
そう、巨大なすり鉢のフチに腰掛けるような位置にある座席、とでも言えば良いだろうか。
ビバラロックの時、話の種にと一番上まで登ってみたが、その急傾斜に足がすくむ思いがしたことを覚えている。

あそこか!
そうか・・・うん・・・
でも、これもいい経験になるかもしれない。

そんなわけで、あまり期待せずに会場へ向かった。

さて、さいたまスーパーアリーナに到着し、いざ席についてみると

あれ?

思ったよりステージから遠くない。
そしてここなら、全てが見渡せる。

思ったより、悪くない。

高いところから眺めてみると37,000人と言う人数はまさに壮観。
しかしこの環境で実力を発揮しつつ楽しんでライブするなんて、まさに超人だ。
普通なら舞台に立つだけで足がすくむだろう。

500レベルの一番前の席の前には柵があり、そこにはこう書いてあった。
「 公演中は危険ですので、立ち上がらないでください」
え?
ここ、立っちゃダメなの?

【着席での鑑賞】
とにかく、立って鑑賞すると危険なほどの傾斜なのだ。
はぁー、「青春病・野ざらしダンス 」や「 まつりダンス」とかは踊れないってことか?!

立ちっぱなしも辛いけど
座りっぱなしも辛いなあ。
そんなことを考えているうちにライブが始まった。

すると、負け惜しみではなく、この席は、経験する価値があるものだと言うことがだんだんわかってきた。
この広い空間の全体を一度に見渡せるこの位置は、本当に、素晴らしい。

風さんの一挙手一投足を受け止めるファンの喜びが、波のように会場全体に伝わり、その大きなうねりがエネルギーを生み出していく様子がはっきりと目に見てとれる。

何万人もの人々のその視線の先に、藤井風さんがいる。
会場全体が一緒にライブを作り上げていくさまが、この席からなら、文字通り"鳥瞰"できるのだ。

いつものように、なんだかちょっとだけ不思議な、彼の日本語のMCを、少しの期待とたくさんの優しさでみんなが見守っている空気感さえ伝わってくる。

確かなテクニックに裏付けされた
それでいて決して技巧をひけらかさない、心を使って演奏しているかのようなピアノの旋律が、胸の奥の方までまっすぐに届いてくる。

艶やかで深く、伸びやかな声。
驚くほど豊かな声量。

ああ、また、ピアノが、そして歌が、格段に上手くなってる!

【ひとりひとりへ】
藤井風さんという人の持つ力が、理屈ではなくわかってきた。
何万人もいる会場だからこそ、感じることができる。
この歌は、この演奏は、すべて「 ひとり」に対して向けられたものなんだ。
何万人と言うオーディエンスの中の
「たったひとり、ひとりずつ 」に。

たとえば・・・
大勢の前でレクチャーしたり発表したりするとき、人は緊張し、上がってしまって、普段と同じようには話せなくなることがある。

それはなぜだろう。

聞き手は集団になると不思議な力を持ち、それが大きな圧力となることがある。
賞賛も批判も、容赦のない塊となって話し手に向かってくるのだ。

そんなとき、どうすればいいか。

そう、相手がどんなに大勢でも、ひとりひとりに話す気持ちで考えていけば良いのだ。
大勢の中の、ひとりひとりと心の中で向き合って、一対一で伝えるのだ。
それを切磋琢磨していけば、やがて全ての人の気持ちを、同じ方向に向けることができるようになってくると思う。

目の前の25歳の若者が、誰に教わる事なく、自分で自分の心を整えることでそれをやってのけている。

なんということだ。

【立ってええんやで】
藤井風さんは、どんな会場でも、ライブの前にいろいろな席に座ってみるのだという。

私はそれは、客席からのライブの見え方や音の聞こえ方を確認するためだと思っていた。

一番後ろからはどう見えるのか。
斜めの席からの音はどうなのか。
車椅子席からは、ちゃんと全体が見えるのか。

でも、今回、他にも理由があることがわかった。

「 見え方」だけをチェックしているんじゃない。
「 そこに座る人の心」をも、慮(おもんばか)っているのだということが。

今回、風さんは
「立ってええんやで 」とは言わなかった。

たしかに言わなかったのだ。

それは全ての席を確認したからこその思慮からだったのではないかと思う。

私は、その深い思いやりを、
優しい心配りを、
初めて自分の心を使って、気づくことができたのだ。

それはレベル500という、立ち上がることができない席に座っていたからこそ受け取ることのできた
藤井風さんからの
宝物のようなギフトであった。

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