ネーム:終わりの日復活の日

〇さなちゃん
私のおさななじみにさなちゃんがいた。

さなちゃんちには美しいカラー絵本があって、
お話はいろいろだけど おしまいはいつも同じ
「王子様とお姫様は結婚し いつまでもいつまでも幸せに暮らしました」

私はご飯を食べる時 手を合わせて「いただきます」と言うけれど
さなちゃんちでは 指を組んで「アーメン」と言うのだった。
さなちゃん達は「信者さん」と呼ばれてた。

ある時、ニュースを見て、私はさなちゃんにたずねた。
「ねえ。信者さん達はユケツをしちゃいけないの?
それしなきゃ死ぬのであっても?」
「エイエンの命のほうがだいじなの!」
さなちゃんは言い切った。
私はさなちゃんの信仰が命がけであることを知って、びっくりした。

その後、さなちゃんは引っ越していったので、私達はいっしょに遊べなくなった。

〇結婚記念日
ある時私は、お父さんとお母さんの結婚記念日を知って、すてきなことを思いついた。お祝いをして、びっくりさせよう。
その頃私は 一日一枚硬貨があたって、それでおやつを買ってた。
四角くて ホイップクリームが三つ並んでのってるショートケーキ一つを買うために 何日もおやつを我慢しなくてはならなかったが「結婚おめでとう」って言って、それを三つに切り分けて、三人で食べるとこ想像するとワクワクした。
当日。私はそわそわした。うずうずした。とうとう、お父さんが帰ってくるまで待ちきれずに、お母さんに「あのね」って、ないしょの計画を話してしまったの。そしたら。「そんなことにお金使って!」お母さんは怒って、ぷいっと台所へ行ってしまった。
えっ?
喜んでくれると思ったのに。
怒っちゃったよ・・・
このケーキ、どうしよう?
・・・食べちゃえ!
一人ぼっちで食べたケーキは、とっても奇妙な味がした。

「王子様とお姫様は結婚し いつまでもいつまでも幸せに暮らしました」
ありえない 鮮やかなカラーの夢物語
ありえない とこしえの愛

〇ナイトメア
ある夜 私は怖い夢を見た。
暗い闇の中を 
何か得体のしれないものに追いかけられて、私は必死で逃げた。
助けて!助けて!
そうだ教会へ逃げ込めば、魔物は追ってこれないはず。
教会はどこ!
ハッと目覚めた。まだ 心臓がどきどきしてた。

〇ゴスペルロリータ
教会のステンドグラスが落とす七色の光が好き
パイプオルガンの荘厳な響きが好き
彫りの深い彫像が好き
サンクチュアリのしんとした空気が好き
私は神様の聖なる力で守られたい
清められたい

〇再会
私は中学生になった。
そしたらなんと、中学校でさなちゃんに再会した!
「キャーなつかしー」
二人はまた一緒に遊べるようになった。

〇讃美歌
クラスは別だったけれど、うわさは聞いた。
さなちゃんは朝礼の時、国歌を歌わないって。
さなちゃんは神の国の歌しか歌わない。
知ってるよ。
昔から、さなちゃんは、命がけの信仰をしてるって。
私?
私は、カドをたてないことだけ考えて、歌えって言われたら、
国歌だろうがチーチーパッパだろうがなんだって歌うんだよ!
だけどさなちゃんのことはキライじゃない。

〇伝道
私はさなちゃんについて、聖書の勉強を始めた。

日曜、さなちゃんちに行くと
お父さんとお母さんとお兄ちゃんもいて
ほほえんで「いらっしゃい」と迎えてくれた。

〇聖書
聖書にはいろいろ、納得できないことも書かれているけれど、でも。
エイエンの命なんてものを信じているからには、
彼らはエイエンの愛で結ばれているにちがいない。
とこしえの愛。
それは私の憧れ。見果てぬ夢。かなわぬ望み。ありえない幻、だったけど。
彼らの存在は、キセキの具現?
だから信じたい、って思った。

〇ダーウィン
ある日、さなちゃんに問われた。
「世界は神が創造されたのであって、進化論はウソ。
 ・・・信じる?」
えー?
品種改良とかできるんだから、ダーウィンはあってるんじゃないの?
うーん でも 
その一番はじめ、何で命はうまれたのかについては、まだ誰も知らない。
そこに神様の余地はある?
わからない。
でも信じたい。信じれないけど信じたい。
何より彼らの、とこしえの愛という奇跡を。
だから「・・・信じる」と答えたの。
するとさなちゃんは「お父さんは信じない」と言った。
えっ?
・・・神の国へは信者さんしか行けない、って言ってた。
すると お父さんは神の国へは行けないの?
彼らは あの世で離ればなれになっちゃうの?
ああ。
さなちゃんは私なんかより、どんなに深く悩んだろう・・・

〇方舟
終わりの日、
はるか空のかなた 神の国から迎えの舟はやってきて 荒野に降り立つ。
信者さんたちは列をなして乗りこんでゆく。

さなちゃんのお母さんが私に問う。
「あなたは行かないの?」
「・・・行きません」
「エイエンの命が、かかっているのよ?」
「・・・行きません」
お母さんはあきらめて さなちゃんとお兄ちゃんをともなって舟に向かう。
その背に向かって私は問う。
ねえ。お母さん。
あなたの向かう神の国。
そこにお父さんはいない。
エイエンの命?
その永遠の命で、永遠に悲しんだりはしないの?

〇踏み絵
ねえ私、なんでお父さんが神にそむいたのか、わかるよ・・・
右のほおを打たれたら左のほおもさし出せ、
なんて 神様のようなお人よしでは、現実ではただ負けて
家族を路頭にまどわす羽目になるだろう、と思うもの。
お父さんはあなたたちを飢えさせたくなかったんだよ。
自分が死ぬのであっても。
お母さん。なのにあなたは、行ってしまうの?
・・・あなたが行ってしまうのは、
さなちゃんとお兄ちゃんのためなのかな・・・

〇十字架
私はふと 私の両親のことを思った。
私は お父さんとお母さんに幸せであってほしかった。
愛しあってほしかった。

「王子様とお姫様は結婚し いつまでもいつまでも幸せに暮らしました」
私の見果てぬ夢 かなわぬ願い ありえない幻

彼らが愛しあっていないのにリコンしなかったのは、
私のためだったかしら?
だって彼らが離婚すると 私はどこにも行き場がなかったもの。
そうね。
私は全力をもって 彼らの離婚を阻止したかも。
私は彼らの上に置かれた 十字架だったかも。

〇原初の光
神の舟が空高く 高く 飛び去ってゆく。
きらりと光って消えてしまっても
お父さんはその消えたかなたを ずっとずっと見つめてる。
その姿がとても寂しそうで
まばゆく輝く夕陽が落ちるように 終わりの迫りくる赤茶けた荒野の中で
私は彼のそばへ歩み寄っていった。
「君は舟に乗らなかったの?
 君は舟に乗れたのに」
「あなたが神にそむいたのは 彼らを守りたかったからでしょう?
 私も永遠の命はいらないの。
 私はあなたのそばで あなたとともに ほろびます」

まばゆい閃光に包まれてしまう前に言えてよかった。
ちりから創られたものはちりに還る。
なつかしい大地の一部に還るのなら それもわるくない。
それとも 地球も消えてしまうのかしら?

神の国って 宇宙の果てにあるのかしら
宇宙の果てって どんななのかしら
ああ 神様に会いたいなあ
ううん 神様はいつだってそばにいてくれたじゃない
だって この世界は 神様の一部なのだから




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