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【火葬場で書いた詩】オレンジ



母の為に
オレンジを探した

私は
大振りで実がぱんぱんのオレンジが欲しかった

関西スーパーとライフと光洋が
頭に浮かんだ

何処に
そんな上等なオレンジがあるのか考えた

私は地下鉄天王寺駅から南へかなり歩いた所にある
関西スーパーを訪れた

みすぼらしいオレンジばかりだったので
私は靴擦れした足で
天王寺駅まで戻った

私は
地下鉄に乗り
ある駅で下車し
駅からかなり歩いた所にある光洋を訪れた

夜九時
こんな時間だと売れ残りしかない

私は傷んでいないオレンジを探して探して
ついに三個選り出した

一個九十八円だ

皮がごわごわしていない
美人のオレンジたちを持って
私は満足顔でレジへ向かった



その日は母の葬儀の日だった

出棺前に
私と弟は棺に横たわる
白い布で包まれた母の周りに
花を散らした

そして
母の足元に
私が買って来たオレンジを三個置いた

認知症の母を買い物に連れて行くと
母は私が持っている買い物籠に
自分で持って来たオレンジをよく入れたものだ

お棺の蓋が閉じらた

それが白い布を被せられ
線香の香り漂う部屋から運び出された

母はこれから
斎場へ向かうのだった


三途の川を渡る時
幾らかお金が要るのだろうか

それなら
私のオレンジがお金の代わりになってくれればいいが……
そう願っている






―斎場にて、母の火葬中に書く―



(2020.09.01 Yumi Fuma)



※決定稿(第四稿)作成/2020.09.24



29日は母の月命日です🌹何処を探しても母がいません。これが現実。2年も経つのに、まだ涙が出ます。(2022.06.27)