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楽曲考察: i am a HERO 発癌性の夢とは何か

楽曲情報

作詞 熊谷和海
作曲(編曲)いしわたり順治 BURNOUT SYNDTROMES
レコーディング時期 (2012年1月25日付近石川大学定期試験)
2012年2月リリース2012年2月17日
配布期間2012年2月17日~2014年5月9日

i am a HEROはBURNOUTSYNDROMEの無料配布されたCDに収録されています。
2年後に発売した『世界一美しい世界一美しい世界』に再録されています。
再録の際に新しく取り直しているので音源はそれぞれ違います。

こちらが初期の音源となっています。

i am a HEROはインディーズ期の曲ですが、未だに根強い人気を誇っています。

ここからはi am a HEROの考察をしていきます。

アイアムアヒーローとの関係性

i am a HEROは花沢健吾作のマンガ「アイアムアヒーロー」から着想を得ています。ジャケットのクレジットにも花沢健吾の名前が確認できます。収録時期が2012年の2月なので、93話まで収録されている2012年1月30日発売の8巻までがリンクしています。

「アイアムアヒーロー」のあらすじ

冴えない漫画家の鈴木英雄は他の漫画家のアシスタントをして生活を送っていた。自分の作りたいマンガも編集からのだめだし、付き合っている彼女も元カレの自慢ばかり、(元カレは売れっ子の漫画家)という英雄(ヒーロー)からは程遠い存在であった。しかし、世界中で原因不明の奇病”ZQN”が蔓延、感染者はゾンビのようになり、人間を襲って感染を拡大させていく。英雄もこのパンデミックに巻き込まれ、道中に遭遇した女子高生の早狩比呂美と看護師の小田つぐみと共にサバイバル生活を繰り広げる物語である。

 i am a HEROは主にZQN騒動前の1巻から着想を得ていると思います。
とはいえ、影響を受けている部分は一部であり、漫画の内容とはあまり関係ありません。

漫画と曲の類似点

・主人公が王道タイプの主人公ではない
鈴木英雄は妄想癖が激しく、常に独り言を言っているので周囲からは距離を置かれていました。結末もどちらかというとバットエンドであり、かっこいい主人公に覚醒することはなく連載を終えました。曲の方も「わたし」も好きになった男の人に対し「貴方のヒロインじゃなかったよ」と独白し、自分は脇役であり、風景のような存在であると自虐しています。そしてどちらも死ぬことはなくそのまま生き続けることを示唆して終わります。

・午前零時前の表現
 この曲には午前零時前というフレーズが数回使われます。しかし、歌詞の表記は23時47分36秒12から始まり23時59分59秒99までの時の進みを表しています。
そして時報の音とともに明日(00時00分00秒00)を迎えて曲が終わります。
こういった言葉遊びは熊谷の十八番ではあるが、数字の変化を歌詞カードに刻むことによってより曲にリアルさを与えています。

熊谷 
やっぱりモヤッとしたのが嫌いなんですよ。そもそもモヤッとした意識でずっと過ごしてきたので、せめてハッキリしたリアルなナンバーを出してあげたいというか。
熊谷 
午前0時よりはもっと、具体的な数字。でも午前0時前っていう

引用(MARQUEE Vol104 2014年8月)

当時の熊谷の心境

この曲は熊谷が10代最後に書いた曲である。元々病弱でよく学校を休みがちだった熊谷さんは普通の生活を送ることは不可能だと悟り、さらに周囲の感性のズレから鬱屈した学校生活を送っていた。
中高生の時に強烈に死について考えていたそうです。
「世界一美しい世界一美しい世界」までの楽曲は熊谷さんの死生観が顕著に現れていて、i am a HEROでもそれは現れている。

私は自殺を図るほど追い込まれており、好きな人に対してあなたのヒロインにはなれないと否定し自分の人生の主人公にもなれない脇役で自誰かの風景のようなものだと自嘲している。
これは当時の熊谷さんの心境が曲に反映されいると思われる。(昔も今も熊谷さんは自分ははやく死にたい人だと語っている。)
願わくばこの世から消えてなくなりたいという希死念慮が感じ取れる曲である。
私は心の奥底では諦めきれない夢を抱きながら20歳を迎えて曲が終わる。

発癌性の夢の正体

曲中の私と熊谷さんにとって発癌性の夢とは何だったのだろうか?
私千葉は、夢を憧れと解釈し、普通の人生への憧れではないかと推察する。
普通に生きて、普通に好きな人と恋して、普通に働いて、一生を終える。そんな生き方に疑問を抱かずに生きてみたかったのだと思う。
やろうと思えばできるが、可もなく不可もなく生きるのは頭が拒否してしまう。そんな人生は愛も情も可もなく不可もない未来であり、それに対してFashionMusic=i am a HEROが染みて(否定して)しまうから。
自分にはできない生き方に渇望しながら今日という日を繰り返す。
といった思いがこの曲には込められているのかも。

以上が私の考察です。最も参考になったインタビューはMARQUEE Vol104でした。こちらは熊谷単独一万字インタビューとなっており、熊谷の思想、哲学が理解できる内容でした。