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楽曲解説:檸檬① 文學要素とクラシック要素の融合への挑戦

楽曲情報

作詞 熊谷和海
作曲(編曲)いしわたり順治 BURNOUT SYNDTROMES
作曲時期 2007年~
リリース 2016年11月9日『檸檬』M-01

檸檬はBURNOUT SYNDTROMESのメジャー1stアルバム『檸檬』に収録されています。雨の音から曲が始まり、クラシックのメロディで曲が展開されていきます。この記事では楽曲が出来るまでの背景、解説、紹介を行います。

仮タイトルは「創世記」

「檸檬」はメジャー2ndシングル「ヒカリアレ」と同時期に書かれていました。その為、アルバム制作に当たり、「ヒカリアレ」の世界観を広げるというスタンスで「檸檬」を書いていました。アルバムのタイトルが『檸檬』に決まった時に、歌詞の内容と1曲目という立ち位置を考えて、アルバム名と同じ名前が付けられました。

熊谷
アルバムタイトルと曲名を合わせることで、キャッチーというか、僕たちのことを知らない人を作品に入りやすくさせるファクターになる気がして。

『檸檬』以前のアルバムで収録曲とアルバムのタイトルが一致する作品は一つ前の作品の『文學少女』があります。『檸檬』以降のアルバム『孔雀』、『明星』は収録曲と一致する曲はないが、収録曲全体のテーマをシンプルに表したアルバム名となっています。

中学3年生の頃から既に構想は存在していた

ヒカリアレと同時期に制作された「檸檬」ですが、曲自体は15歳の頃に既に存在していました。

廣瀬 
この曲のど頭の「雨は零時過ぎに降り出して」っていうフレーズは、もともと中3の頃から熊谷が歌ってたんですよ。
熊谷 
歌詞はどんな曲にも合うように、頭の「雨は零時過ぎに降り出して」だけ固定してあって、来たるべきときにと思ってたんです。

BURNOUTの楽曲は曲が完成してもすぐにリリースしないケースが存在します。

「ハイスコアガール」は「文學少女」の作成時期と重なります。「ダーウィンに捧ぐ」も「サクラカノン」と同時に出来上がった曲です。

完成した曲がアルバムのテーマとマッチするかどうかで収録の有無を決めている所から、BURNOUTのアルバム作成への真剣さが窺えます。

きっかけはアメリカのホームステイ先での出来事

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熊谷さんが中学三年生の頃にアメリカへ2週間ホームステイした経験がありました。滞在中、ステイ先の家族に教会に連れて行ってもらう機会ががあったそうです。教会で信者達が神への祈りを捧げる様子を見た熊谷さんは敬虔の念を感じたそうです。

熊谷 
数曲聖歌を歌った後、神父の「Amen」という祈りを皮切りに「Amen…」「Amen…」と信者達の祈りが波のように漫ろに広がり、教会を静かに揺らす様がとても神聖に感じました。

1人ひとりが自分と神とのタイミングでバラバラに「アーメン」という響きが雨がバラバラと降る様に感じたそうです。この体験から曲の序盤と終盤に雨の音と「雨」、「雨」という囁きを入れました。

文学要素

アルバムを『檸檬』と付けたところから曲の「檸檬」にも文學の要素が盛り込まれています。歌詞の「特に名前のない負の感情」は梶井基次郎の『檸檬』の文頭「えたいの知れない不吉な魂が私の心を…」を連想させます。

また、檸檬を爆弾に見立てた内容に準じて爆発という単語が登場します。「藝術は爆発だ」は太陽の塔で有名な岡本太郎の言葉です。

岡本がいう「爆発」とは大衆が捉えるイメージとは全く異なっています。

岡本は著『自分の中に毒を持て』では「藝術」とは生きることそのものであり、「爆発」とは全身全霊が宇宙に向かってパーッとひらくこと。人生は本来、瞬間瞬間に、無償、無目的に爆発し続けるべきだと言っている。

熊谷さんが書く「檸檬」には本来の意図が込められていると個人的に思っています。

その為「藝術は爆発」にかかる「ビック・バン」、「青春」、「君の闇から始まる宇宙」という言葉と非常に合っていると思います。

クラシック要素

「檸檬」はムソルグスキー作の「展覧会の絵」の前奏曲「プロムナード」のメロディをモチーフにしています。
冒頭からサビ、ギターソロに至るまで一種類の旋律で楽曲を成立させています。
メンバーの反応は以下のような感じでした。


熊谷
「展覧会の絵」はすごく厳かな楽曲で、ムソルグスキーが亡くなった友人の遺作の展覧会を観たときの記憶を音楽にしたものなんです。
組曲を締めくくる「キエフの大門」はその友人の魂が昇華されていくような曲なんですけど、この曲も教会のように鐘が「ゴーン」「ゴーン」って鳴って終わっていくんです。
それがすごくホーリーなイメージに感じて。
廣瀬
全部同じメロディでいくっていう発想で昇華できるものなんだなと。
「すごいところに挑戦しに行ったな、熊谷」っていう感じでしたね。
石川
このメロディに対する敬意がすごいよね。
ちょこちょこ転調してて、それが曲を飽きさせない工夫なんだなって。
あとクラシックには僕らがロックバンドだけを聴いていたのではとても追いつけないようなコード進行が組み込まれているので、制作時に勉強になりましたね。

まとめ

以上で解説は終わりです。クラシック要素を取り込んだ楽曲は『孔雀』の「ヨロコビノウウタ」、『明星』の「星の王子さま-Ouverture-」、「星の王子さま-Fin-」へと続いていきます。従来通り歌詞に文學要素を入れつつ、そこにクラシックの要素を入れることで作曲の幅が広がったと思います。
今後の曲も楽しみです。