スーパーショート文学賞 No.18 傘がない 冥土

「傘がない」
くーくーと鳴いて煩い小腹を黙らせるために行ったコンビニ。ちょっと軽食を買っている間にまた傘がなくなっていた。
「また取られたの?よく取られるね」
そう言うと彼はいつものように傘を半分私に貸してくれた。
傘を取られないための工夫は色々してきた。しかし、どれだけ工夫を凝らしても毎回毎回取られてしまう。そして、帰り道に二人でダラダラ歩きながらどうしたら次こそは傘を取られないか考えるのがルーティンとなってしまった。
「ここまで傘を取られてしまうのは最早才能な気がしてきた」
そう呟いた私に彼はこう言った
「ずっと晴れだったらいいのにね、そしたら傘をさす必要もないから」
突拍子も無い考えだが、私の心に刺さった。
「俺、これからずっと晴れるように祈っとくよ」
そう言って笑った彼の笑顔はお日様よりも眩しかった。

「傘がない」
くよくよと泣いていたってしょうがないと、外に出るがてら立ち寄ったコンビニ。ちょっと目を離した隙に傘はなくなってしまった。
傘を取られないための工夫なんかしてない。そもそも傘が取られるなんて思いもしなかった。どうしたら次こそは傘を取られないかなんて考えても次なんてないし、なくなった傘は戻ってこない。
「詐欺師じゃん」
天気予報士の彼は快晴であると言っていた。
間違いではない。
今だって空はこんなにも晴れている。
しかし、雨は私を容赦なく私を濡らす。
天に向かって叫ぶ
「返せよ、私の傘を返せよ!」
私は全速力で走りながら家路につく
日が強くなってくる。
雨も強くなってきた。
段差に躓いて転んだ。
痛い、とても痛い。
転んだ体勢のまま動けなかった。
「私の、私の―――」


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