スーパーショート文学賞 No.14 空模様 パンダ

私は空がとても苦手だ。
青くて、透明で、美しい。それを見ていると、自分の青くて、透明で、美しい部分が、どんどん空に吸い込まれていく。そうして地上には自分の汚い部分が残る。否が応でも気づかされる。自分はこんなに汚かったのか。
汚いものを見るのは苦手だ。

学校の帰り道。
友達Aが夕日に向かって指を指す。
「ねぇ、めっちゃ綺麗じゃない!?」
夕日も苦手だ。友人の美しい心を傷つけないよう、私は精一杯笑顔をつくる。
「綺麗だねー!」
スっと、空に吸い込まれて、演技ばかりで彼女との間に友情なんて少しも感じていない醜い自分が地上に残った。

彼氏とのデート中。
「なんか、今日すごく天気いいね!」
純粋な笑顔を向けられた。
空は、青くて、透明で、美しかった。
「そうだね!」
私は、あんたのことなんか好きじゃない。
八方美人の良い面だけが空に飛んでいく。悪い面は、地上に残った。

空は、苦手だ。
もうこれ以上、私の汚い部分を見せつけないでほしい。美しい部分で曇らせてほしい。
あぁ、天気な日は嫌だ。今日も、こんなに天気がいい。日差しは窓を通り抜け、私の肌を焦がし続ける。わざとらしく手を空にかざしてみた。手では隠しきれない青が、いつでも私に襲いかかってくる。
吸い込まれそう。そう思った矢先、ぽつ、ぽつ、と音が聞こえた。
窓には水滴がついている。
「雨……?」
いや、日差しは出続けている。
「あ、お天気雨だ……」

青い空はますます透明になり、雨は少しずつ強くなっていく。

晴れているのに、雨が降る。
「雨でも泣くことあるんだね」
そんなことを、空に向かって呟いた。馬鹿で幼稚な発言だと思う。けれど、それは自分の心に強く響いた。小さい頃にもらったおもちゃの宝石みたいな言葉。

いつか、空を愛せるだろうか。
愛してみたい、と思ってしまった。
青くて、透明で、美しくても、涙を流すと知ったから。


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