スーパーショート文学賞 No.22 傘 うおのめ

肌を突き刺すような晴天で、それでいて冷たい雫の垂れてくる、そんなどっちつかずの表情をした空を恨めしそうな目で睨みつけ、安物のビニール傘を開いた。愛想笑いを続け、兎にも角にも「普通」を演じている俺にとってこんな曖昧な天気は自分の心を写しているかのように思えるのであった。天にいる神様も俺と同じように表面を取り繕って心で泣いているのだろうか、などと信じてもいない神を想像する自分さえ愚かしく感じて嘲笑した。
公園のそばを通れば少女が雨の中傘もささずにブランコに座っているのが見えた。彼女は泣いているのかもしれなかった。無性に話しかけなければならない気がして声をかける。
「なにしてるんだい、こんなところで」
「別に何も」
「そっか」
初対面の年下、ましてや異性と話を続けるなんてスキルは俺にはない。当然のように静寂が訪れる。

静寂に耐えかねたのか、ふと少女が口を開いた。
「ねぇ、逃げちゃおうか」
もう雨は降っていなかった。


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