スーパーショート文学賞 No.2 異和 宇井香夏

髪を切り落としてから染めてみて失敗した色

が産まれたのでカラー剤、代

1796円得したな はい


食卓から虫が逃げてゆくので捕まえて叱りつける

落ち着きがないから嫌なんだ

おまえのことなんか 産まなきゃよかったよ。

と言って喉がズキズキ痛いので泣く

(でもことばをこれしか知らないので)


包み紙をゆっくり開く

友達に、ありがとう。と笑って言う

中に入っている指輪を取り出す

光沢のある材質の赤いリボンを解いて

あなたはわたしのたった一つの心の拠り所だった

カードに丁寧な字で書かれた

HAPPY BIRTHDAY

がキラキラしてる紐で結び付けられた紙袋から

綺麗なうす緑色の紙に包装された箱を

取り出して指輪は手にぴったりとはまって友達は

あーよかった!と自刃


ここまで酷くはなかったか


天から水と光が同時に落っこちてきて痛すぎてしゃがみこむ

あんまりじゃないですか

雨にあなたを奪われた頃の記憶がまだまだ残っているというのに

いやあれ、雨じゃなかったか。龍みたいだった

わたしが あなたが殺されようとしてるのに

手を伸ばさないわけないもんな

底抜けに明るいあなたが

雨なんかで 死ぬわけないもんな



(雨が降っているし太陽も出てる)

(こんなにこんなにこんなに)

(心臓《それはなまぬるいまいにち》が)

(天気雨、って言うんだったか?)

(丹色剥げ 生きてるみたくきみの臉(かお))

(止まつた)

(嫌なことばかり思い出してしまうなあ)

(死んでいるみたいに生きているから)

(冷たい)

しいんとしてゐる



世界を台無しにし尽くす勇気もないまま雨はひたすら降る

違和の感覚だ違和の感覚だけがただただ綺麗で

だだ惰性で生きているからこんなことになっ

てしまうんだよあなたが眠っ

  てから川にはずうっと水が走っ

   ているよ永遠につづいている真っ

 っっっ直ぐに遠くへ遠くへこの列は

言葉の羅列は

まばゆいこの雨は

まばゆいこの雨は

まばゆいこの雨が

  ( 決壊 )

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