スーパーショート文学賞 No.6 気だるい朝 藤塚光雄

「エラーコード、ゼロ、ゼロ、ワン。基本動作システムに何らかの問題が発生しました。管理者は直ちに……」
 朝っぱらからこんな面倒くさいことはない。彼はむっくりと上体を起こし、のそのそとボロ雑巾のようなフトンから抜け出した。体が覚めていない。歩くたびに節々がバキバキと音を鳴らす。面倒なのだった。顔すら洗わなかった。
旧態依然とした公機関ゆえ、スーツの着用は必須。だが上からさらに防護服。体が重い。足を上げる気にならない。彼は足を引きずって玄関から出た。晴れていた。しかし雨が降っていた。彼は舌打ちをすると、プレハブの外で待機していた小型ヘリに乗り込んだ。
「朝早くから災難ですな」
 操縦士は自身もけだるそうにそう言った。二人とも防護服のせいで、息がこもっていた。
「まったくだ。この仕事も楽じゃない」
 会話は終わった。小型ヘリは高度を上げていき、徐々に雲に近づいて行った。
 やがて雲の上に出た。雲海の中に、まったく似合わない機械キューブが浮いていた。小型ヘリはキューブの上面に着陸した。彼は小型ヘリから降りると、キューブの上面にあるハッチから中に入っていった。
 三十分程度たって、彼はハッチから出てきて、小型ヘリに走って戻っていった。操縦士はそれとなく聞いた。
「なんだったんです」
「いやなに、軽度のショートだった。いつもより早く終わって良かったというべきだ」
 彼は乱暴に座席についた。
「生活を楽にするために天候管理技術を取り入れたというのに。こうエラーが多発するのではなあ……」

小型ヘリは再び地上へ戻って行った。そして太陽に照らされた。雨はあがっていた。
小型ヘリに書かれた〈気象庁天候管理局〉の黒文字が白く光った。


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