スーパーショート文学賞 No.16 幸せのなかの へらじか
私は今、幸せ。
私には大好きな友達が何人もいる。とっても大切な友達。
学校の授業は少し退屈だけど、放課後には皆でゲームセンターに行ったり、パフェを食べに行ったりする。その時間が楽しみで、友達とおしゃべりするのが大好き。
大学受験が近づいてその幸せな時間はだんだん少なくなっている。仲良しなのは変わらないけど、やっぱり少し悲しい。
だけど、休み時間とか帰る時間だけでも私は幸せ。
家ではパパとママがあったかいご飯を用意してくれている。テレビの音と会話が混じり合う賑やかな食卓を囲んで、食べ終わったらお風呂に入って、ふかふかのお布団で寝るの。
夜はちょっと考え事とかしちゃって眠れないこともあるけど、朝起きたら意外と忘れちゃってる。
朝はお布団から出たくないけど、太陽の光を浴びてなんとか起きる。
それが私の毎日。とっても幸せな毎日。
そんなことを考えながら、ボーッとしていると、
「ねえ、もうそろそろ家出ないとダメなんじゃないの?」
ママの声で時計を見る。時計は8時ちょっと前を指している。
私は急いで支度して、いってきますの声を響かせ、いつも通り8時ピッタリに家を出た。
通学路には毎朝死んだ目をしたおじさんがいる。このおじさんより前を歩いていれば遅刻することはほとんどない。いい目印。
息を切らしてギリギリで教室に入る。友達と話そうとしたけど、先生が入ってきちゃった。また退屈な授業が始まる。
放課後。皆は勉強中だから、専門学校組の私だけが、帰る時間まで校舎をぶらぶらと歩いている。
皆はすごい。私は将来のことなんて何も考えてない。ママや先生の言うがまま。
行き当たりばったりで屋上の扉に着くと、珍しく鍵が開いていた。
いい天気で気持ちいいな、なんて思ってふと床を見る。
水の痕。 見上げる。
雲一つない空から、小粒の雨が降り出した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?