スーパーショート文学賞 No.8 人生の墓場 ラプソディ

2022年3月5日、栃木県に雨が降った。雨雲の隙間から日が射し込む、綺麗な天気雨だった。


今から300年ほど昔。古代中国の王朝に、妲己と呼ばれる美しい女がいた。彼女はその美貌を用いて男を誑かし、世に混乱がもたらされた。彼女が太公望に討伐されるのはまた後の話、封神演義にて。


今から100年ほど昔。日本に、玉藻前と呼ばれる美しい女がいた。彼女はその美貌を用いて男を誑かし、世に混乱がもたらされた。彼女が討伐されて、殺生石に変化するのはまだ先の話。


今からは考えられないほどの遥か昔。後に白面金毛と呼ばれることになる1匹の狐がいた。天地開闢の時、彼女の他には誰も、何もいなかった。

他の生き物が生まれた時、他の生き物と遊びたくても方法が分からなかった。彼女は不正の気が凝り固まったものだったから。だから殺戮した。生けとし生けるものを殺し尽くした。

そんな彼女が人々と争い、騙し合いの日々を送るようになるのはまだ遥か先の話。


そんな彼女も、終わりの時が来た。殺生石となってから、多くの時が流れた。多くの人と触れ合った。そして、彼女も恋を覚えた。血なまぐささのない初めての関わりだった。


2022年3月5日。今日は、そんな彼女の嫁入りの日。殺生石から解放され、新たな日々が始まる。白面金毛と呼ばれる日々ももう終わり。


昔から、狐が嫁入りする時には天気雨が振るという。

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