スーパーショート文学賞 No.12 不審者又はナンパ野郎の苦悩 黒うさぎ

 太陽照りつける夏の天気雨の時分、傘をさしている人がいたら、その傘は雨傘だろうか。それとも日傘だろうか。それは聞いてみないとわからない。
 でも、傘を持っているのが若い女性だったら、こんなくだらない質問をした俺は不審者かナンパ野郎で、彼女は僕を蔑みの目で見るでしょう。
 仮に答えが返ってきても、きっとつまらない。日傘か雨傘か。それだけだから。
 聞いてみないとわからない。聞いたとしたら蔑みで、答えられてもつまらない。
 今日、二人でお買い物に行ったけど、世間はそれをデートと呼ぶらしいですよ。君はそんなこと、雨粒ほども思っていないだろうけれど。
「『彼女』が傘を忘れてしまったみたいなんですけど」
 そうやって駅員に聞いた僕。直後約一時間、心拍音五割り増しでしたよ。あなたは夏の青々とした新緑の葉の一枚ほども気にしてないだろうけれど。第三人称と恋人。正反対なくらい全然違うのに、同じ『彼女』なんて、日本中の辞書を改訂するべきだ。
 でも、聞いてみたい。
「今日のこれ、デートと思ってもいいの?」
「駅員さんと僕との会話、少しでもびっくりした?」
 聞いてみないとわからない。と思いたい。でも聞いたとしたら、きっと蔑み。君が僕に向ける笑顔は夏の太陽みたいにまぶしくて、雨水ほどの不純さも許されないから。仮に、答えられてもつまらない。
「私達は、そんなんじゃないでしょ」
 きっとそれだけだから。
 僕達はこのままでいい。天気雨みたいに曖昧で。狐の嫁入りなんて言葉があるけれど、結婚なんて、付き合うなんて、遠い御伽噺。


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