スーパーショート文学賞 No.15 涙は誰のもの 中黒ぽち

秋の小雨の日の後に、ある少女の両親が亡くなったというニュースが報道された。死因は自動車の正面追突事故で、加害者も既にこの世に居ない。警察の検証によれば、二つの自動車が同時に路面上を滑ったことによる、ただ不運な事故であるとされた。
「被害者の遺された少女はまだ6歳で──」
人と情報が錯綜する。眩い光とたくさんの目がこちらを覗く。
「可哀想に」
「まだ幼いのに」
全員、等しく同じだった。繰り返される同じ質問に、繰り返される同じ回答の羅列。しばらく続いた後、私はおばさんの家に引き取られることになった。
「晴れているのに雨が降ってきたよ?」
「それはね、天気雨って言うの。お日様が悲しいよーって、いっぱい泣いちゃうから降るんだって」
一人で砂場遊び、退屈ではない。没頭している時に聞こえる無邪気な会話が、いつもと違って好きだから。
「お日さま、悲しいー?」
「そうね、悲しいのかも」
「なんでなんでー?」
親子の背を見送った。その答えを、私は間違いだと思った。お日様は泣かない。スコップを掴んで新しい家までゆっくり歩く。ぽつぽつ降ってくる雨を、光なんかで邪魔しないでほしい。
「どこに行ってたの!?」
迎えられた時の顔すら、変わらない。
「びしょびしょね。おやつは出してあるわ、手を洗って、うがいをして、足元を綺麗に水で流して、着替えて、ドライヤーで頭を乾かして、それからリビングに来なさいな」
おばさんはお母さんと違う。おやつはチョコレートだった。以前はたまにしか出てこなかった、特別甘いチョコレート。でも飲み込めなくて、いつまでも黒く、私の中に溶け残る。無理矢理お茶で流し込み、テレビの電源をつけた。大好きな番組を見るために。
「遺された少年は──」
私はずっと、泣いているよ。
「悲しいことは、早く忘れたいものね」
おばさんは、誰もがするような独り言を漏らした。天気雨がなぜ起こるのか、誰も気がつくことはない。


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